197 楽市軍vsシルバーミスト軍、三度目の激突!
グアアアアアアアアッ!
ゴオオオオオオオオンッ!
両陣営が殺気立つ中で、巨人楽市は動かない。
一体、楽市は何をしたいのか?
少し前のこと――
太陽が中天に差しかかったころ。
楽市は、霧乃たちを揺り起こした。
(ふああ……らくーち、おはよ)
(うにゅ、もっと、ねむい……)
(んー、むにゅ、くーくー)
(すーすー)
子供たちがアクビをしながらゴロゴロする横で、楽市が話しかける。
(ごめん、もっと寝かせてあげたいけど、そろそろ動こうと思うんだ)
(ふあ……いーよ、なにやるー?)
(んん……やるやる、ふあっ)
(くーくー)
(すーすー)
(これから石段を、登ろうと思う)
(あっ、ぬるぬるだっ!)
(よしっ、まかせろっ!)
(くーくー)
(すーすー)
夕凪が朱儀の角をむんずと掴み、大きく揺り動かした。
鬼の子はここまでしないと、なかなか起きないのだ。
(あーぎ、おきろっ、ぬるぬるやるぞーっ!)
(ふあっ、ごめんなさーいっ)
なぜか謝る朱儀に、楽市があやまる。
(朱儀ごめんね、これから石段に行こうと思うんだ。
だから動かすの代わってくれる?)
楽市にはあの激ムズ階段で、巨人のバランスを取るなど無理である。
(ふにゃ、あっ! やった、やるやるーっ!)
やっと“大きいらくーち”を返してもらえるので、朱儀は嬉しくてパッと目が覚めてしまう。
朱儀が横で眠る豆福を起こそうとすると、なぜか楽市が止めた。
(あ、豆福はちょっと待って。
豆福は小っちゃいから、もう少しだけ寝かせとこう。
最初は、お姉さん三人でやろうよ)
(え、はーい、へへへ……)
朱儀は自分もお姉さんと言われて、ちょっと嬉しくなる。
楽市は小っちゃいからと言ったが実際は、
“豆福を起こすと、また怒り出すかなー”なんて考えて、
“なら、もうちょっと後でも良いかなー”なんて思っていた。
(あっ、その前にあたし、もう一回ドラゴンと話そうと思うんだ)
(おはなし?)
(なになに?)
(んー??)
楽市は石段へ行く前に、もう一度ドラゴンと交信したいらしい。
南の林にドラゴンが集まっているので、そこでやるという。
それを聞いた霧乃が、ちょっと心配した。
今度は一体じゃなくて、多くのドラゴンの前に立つのだ。
(らくーち、だいじょーぶ!? へーき!?)
(ちょっと怖いけど、あたしはやりたい。
ドラゴンたちに、石段の奥へ一緒に来てほしいんだ。
とにかく記憶を戻すには、現場を見せる。
そこからだと思うんだよね。
こっそりドラゴンのこと見てたんだけど、何だかあの飛んできた大きなヤツは、ドラゴンの大切なものだったみたい。
林でみんなして、欠片を抱いてすっごいへこんでいるんだよ。
よく分からないけれど多分ダークエルフが、記憶以外にも何かやったんだと思う。
本当に、腹が立つよねアイツらっ。
でね、ドラゴンには悪いんだけど、あたしこれはチャンスだと思ってる。
ドラゴンにとって本当に大切なのは、この奥にあるはずなんだ。
今ポッカリと空いている心の穴に、それを見せたら、何か感じてくれるかもしれない)
何とも人の弱みにつけ込んだ、卑怯な手ではあるが、この手は楽市自身が体験済みなのだった。
何も分からず兄や仲間たちと離れ離れになり、途轍もなく心細かったとき、楽市は霧乃と夕凪に出会った。
あの時のホッとした感は、とんでもないものがあったのだ。
自分の知っている匂いを感じたとき、楽市は体が震えるほどホッとした。
(この奥に、きっとドラゴンの知っている、匂いがあるっ!)
楽市の熱弁に、霧乃たちは首を縦にふる。
というか、話が長いので聞いていなかった。
(うん、分かんないけど、いいよっ!)
(ながいなー、ながいんだよなー)
(あーぎも、わかんないっ! でもいいよっ!)
(ありがとっ!)
そして今の状況である――
両陣営が殺気立ち騒ぐ中で、楽市もまた巨人楽市の中で騒いでいた。
(わわわっ、ちょっと待ってっ!
ええーっ、どうしよっ!?
こんなとこ外に出るなんて、無理むりむりっ。
死ぬっ、絶対死ぬからっ。
えーっ、どうしよ、えーっ!?)
当初穏やかに交信を始めるつもりが、目が合った途端に、激烈な罵り合いになってしまった。
楽市はなだめるタイミングを完全に失って、どうして良いか分からずパニックになる。
(えーっ、えーっ!?)
楽市が慌てる横で、豆福がむずがり始める。
さすがにこの騒ぎでは、起きてしまうだろう。
(う゛ー)
そんな中、朱儀が楽市に尋ねる。
朱儀は巨人楽市を返してもらって、ホクホクしていた。
(ねえっ、らくーち、これ、とめればいーのっ?)
(え、うんっ、朱儀止められるのっ!? 殴るのなしだよっ!?)
(うん、だいじょーぶっ!)
朱儀はそう言って、何をやるのか伝えてくれる。
むずがる豆福をダッコしていた霧乃が、豆福に話しかけた。
(まめ、よかったね、おきて。 今、いーとこだよっ)
(ん゛ーう゛ー?)
ドラゴンが臨戦態勢となり、ホバリングして浮上してくる。
それを迎え打つため、がしゃたちも身構えた。
魚がしゃなどは、横軸回転を始めている。
楽市軍vsシルバーミスト軍、三度目の激突!
どの巨獣もそう思った瞬間、中心に立つ巨人楽市の口腔から、三色の炎が吹き上がった。
それはどこまでも高く頭上に広がり、上空で超巨大な扇をつくる。
横から見れば、極限まで薄くしたペラペラの炎だ。
しかし正面から見れば、その大きさは三十メートルのドラゴンなど、足元でチョロチョロする、トカゲかと思えるほどのサイズだった。
これは以前に、霧乃たちが二体のストーンゴーレムにやった、ド派手なハッタリなのだが、ハッタリこそ自然界で重要な手段なのである。
ハッタリがあるからこそ、獣同士では無駄な争いが起きないのだ。
あれほど吠えていたドラゴン、そして味方のスケルトンたちが、一瞬で静まり返ってしまった。
そんな中で、巨人楽市がゆっくりと炎を消していく。
炎が消えても、どの巨獣も動こうとはしない。
心象内で、霧乃が楽市にたずねる。
(らくーち、こいつら、ぬるぬるのとこ、つれてけば、いいんでしょ?)
(え、うんっ)
(じゃあ、あーぎ)
(はーい)
朱儀にはそれだけで、意図が伝わったらしい。
巨人楽市がゆっくりと踵をかえし、ドラゴンたちに背中を向ける。
そのままゆっくり三歩進み、そして振り返りドラゴンをジッと見つめた。
しばらく見つめたあと、朱儀はまた背中を向けて三歩進む。
そしてまた振り返り、ドラゴンを見つめた。
朱儀はこれを、ゆっくりと繰り返していく。
するとハッタリで固まっていたドラゴンが、ホバリングしたまま、少しだけ朱儀に近付いていった。
がしゃたちも、朱儀のあとに続く。
これは野獣同士なら大概は通用する、“あたしに、ついてきなっ”ジェスチャーなのだった。
楽市の使う複雑な“式”で説得しなくても、その身に野生を抱く者同士なら、通じ合える部分がある。
ハッタリでどちらが強いか分からせて、あたしに付いてきなと振り返る。
これだけで楽市の望む方へ、向かわせる事ができた。
楽市はその手際の良さに、関心してしまう。
ちょっとヒノモト時代の、近所にいた猫を思い出してしまった。
(はー、朱儀すっごい……)
(へへへ……)
またスゴイと、言われてしまったっ!
朱儀は楽市に褒められて、ニコニコしてしまう。
気を良くした朱儀は、違うバージョンも見せてくれた。
(えっとねーっ!)
相手の反応が良くないときは、しゃがんで待ったりしても良いのです。ペタリ
ゴロニャン
その瞬間、楽市の顔が真っ赤になった。
(足を広げちゃ、だめーっ!!)
(えー)