表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第3章 カルウィズ天領地
195/683

195 黒い壁と黒い毛虫。

 

何が起きたのか全く分からず、慌てふためくシルバーミスト・ドラゴン。


魔法を帯びた尖塔は、テラスやその他宮殿の建造物を、吹き飛ばしながら飛び去った。


ドラゴンたちが急ぎそれを追うと、尖塔がねじくれた林に、次々と突っ込んでいく。

魔力により加速し続けながら、大質量の尖塔が、青紫色の輪へと着弾した。


その瞬間、ホバリングするドラゴンの巨体を、押し返すほどの衝撃と轟音が生まれた。


そのインパクトは凄まじく、周囲の土砂を大量にまき散らして、一瞬で巨大なクレーターを出現させる。


そこへ間髪入れずに、青紫色に光る尖塔が群れとなって着弾。

 

追いかけた数十体のドラゴンが、声も上げられずその場でうずくまる。

三十メートルの巨体が何もできずに、ただ丸くなるしかなかった。


四〇〇〇年以上前から晴れたことのない霧が、そこだけドーム状に晴れわたり、その代わりに巨大な土煙りの苗床となっている。


その衝撃と轟音は一分以上続き、そこにいるものが誰であろうとも、殺すという強い意志が感じられた。


爆撃が終わったあとも、上空に生まれた暗褐色の雲から、土砂が雨のように降り続ける。


土塊の雨の中、シルバーミストたちが、己の財宝だった残骸を呆けた顔で眺めていた。



    * 



土砂の降る霧のどこかで、コッソリと安堵する者たちがいる。


(やばかった、よなー)

(なー、やばかった)

(あー、びっくりした)

(やー、もー、やーっ!)


(しー、豆福、しーしーっ)


楽市が心象内で、豆福をなだめていた。


(らくーち、もう、だいじょーぶかもっ!)

(いいんじゃない?)

(らくーち、かわってー)

(きーらーいーっ、だーめーなーのーっ!)


豆福が顔を真っ赤にして、激怒している。

巨大な何かが、霧の林をメチャクチャにしたからだ。


それはもう地形が変わって、“ここはどこですか?”と、思うほどメチャクチャにした。


豆福は木々の破壊に多少耐性が付いてはいたものの、これは無いと思ったのだ。


これはいくら何でもないぞっ、とキレていた。

さっきから、植物の妖しとして怒りが収まらない。


(らくーち、やってーっ! はーやーくーっ!)


(しーっ、静かに豆福っ。

また次、なんか奥の手出されたら、今度こそヤバイからっ。

しばらく隠れて、様子を見たいのっ、ねっ、豆福、ねっ)


(うーっ、もーっ!)


心象内なので外に声など聞こえるはずも無いのだが、楽市は真顔でしーしー言っている。

霧乃たちが大丈夫だと言っても、楽市はちっとも納得しない。


(だって魔法って、何でもありなんだものっ。

何されるか、分かんないじゃないっ)

 

楽市は次があったらヤバイと言うが、では今回どうやってしのいだのか?


楽市はデカイ何かが着弾する直前、黒壁に挟まった尻尾を、それはもう必死に巻き取ったのだった。

壁から抜くことはしないで、必死に巻き取る。


すると尻尾は限界まで伸ばされたゴムが戻るように、毛虫楽市を倒壊した壁の方角へ引っ張ってくれた。

ヒノモトで言うところの、逆バンジーである。


その途中、尻尾を引っ張っていた巨大スケルトンたちを、毛虫の毛で絡めとっていく。


黒壁を引き倒すほどのパワーで巻き取った尻尾は、逃走ルートにある木々を全部吹き飛ばして、壁まで運んでくれた。


今は倒壊した厚さ三十メートルの黒壁に、毛虫楽市がピッタリと寄り添っている。


毛虫楽市からは絡め取ったがしゃたちの、手足や頭、尾ビレが飛び出していた。

計、十八体(がしゃの中に幽鬼が五体、取り憑いている)を、毛の間に絡め取っているのだ。


そのフォルムは丸々と膨れて、毛虫というよりも直径三十メートルほどの、ウニのように見えた。

それが黒壁の残骸に、ひっそりとくっついている。


敵の攻撃のお陰で、大量の土砂が降り注ぎ、がしゃたちの白い骨も目立たない。


壁も黒、毛虫ウニも黒。

辺りは霧。

ジッとしていれば、かなり目立たないだろう。


(あたしは壁っ、あたしは今、かべだからっ!)


(なんだそれ? あははっ、きりも、かべっ!)

(ちがう、うーなぎも、かべだっ! ふひひっ!)

(かべごっこだっ、へんなのー) らくーちかわって

(もーやーだーっ、はーやーくーっ!)



尖塔着弾前の悲し気な空気は、それ処では無くなって何処かへ吹き飛び、こんな状況でも、

 

毛虫楽市の中で、笑い声が聞こえる――  



 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ