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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第3章 カルウィズ天領地
192/683

192 毛虫楽市、元気な子。

遠隔視(ふぁぶる)に映る北の魔女は、こちらにしなやかな背を向けていた。


細い腰から伸びる尻尾がピンと張られていて、その先は黒妖門にガッチリと食い込んでいる。

イースはその様子を鏡ではなく、肉眼で見つめていた。


ドラゴンが六つの穴の前でホバリングしてくれたので、その手に乗るイースたちは,

お陰でまじまじと見れたのだ。


魔女の尻尾は無数に枝分かれして、まるでツタのように壁に広がり、ベッタリとくっついている。


サンフィルドが目の前のツタと、鏡の中の魔女を交互にみて、何やら身振り手振り喚き始めた。


しかしその声は、落雷の轟音でかき消されてしまう。

それでもサンフィルドは、喚き続ける。


イースはその気持ちが、とっても良く分かるのだった。

なぜならイースも、喚いていたからだ。


イースとサンフィルドはたまらず、お互いの手の平へ指をのばし、文字をカリカリと書き始めた。


(イースっ、あの女は、黒妖門を引き摺り倒すつもりだぞっ!

ここに居るのは、ヤベエって!)


(そうだね、僕にもそう見えるよっ。

だから僕も逃げたいんだけど残念っ、今は無理だよねっ)


(イース、お前は本気で逃げたがってねえだろっ!

ドラゴンをだしにして、本当はホクホクしてんだろっ!)


(そ、そんな事ないよっ)

(いいや、してるねっ!)



    *



楽市の周りに雷撃が突き刺さり、手前の地面を吹き飛ばしていく。


土塊がボコボコと高く飛び散って、霧の中で黒い雨のように降り注いだ。

楽市が深く打ち込んだ両腕のアンカーが、雷撃の衝撃で土壌ごと外れてしまう。


尻尾をピンと張っていた分だけ、アンカーが外れた途端に、思い切り背中側へ吹き飛んだ。


大きく弧を描いて、ねじくれた木々の上へ背中から落っこちた。

そこへまた電撃の、ねちっこい集中砲火が押し寄せる。


わーっ(ふぁーっ)らくーち(はふーひ)はずれたーっ(はひゅへはーっ)!)

なんだ(はんは)くっそー(ふっほー)いじわるめっ(ひひはふっ)!)

ずっるっいーっ(ふっふっひーっ)!)

ぶあーっ(ぶあーっ)はっは(はっは)ぶあーっ(ぶあーっ)!)


もう(ほう)絶対ぜったい(へっはいへっはい)許さないっ(ひひははいっ)!)


楽市が怒りに任せて、瘴気のアンカーを更に深く打ち込むと、そこへ黒妖門の雷撃が撃ち込まれ、更に深く掘り返される。


くっそー(ふっほー)もっと深くだっ(ほっほははふはっ)今に見てろよ(ひまひひへろよ)このーっ(ほのーっ)!)


まけるな(はへふな)らくーちっ(はふーひっ)!)

そうだ(ほうは)らくーちを(はふーひほ)見せてやれっ(みへへひゃへっ)!)

みせろーっ(ひへほーっ)!)

ぽろんしてーっ(ほほんひへーっ)!)


楽市の前で、大量の土砂が吹き飛ばされていく。

それが散弾のように、楽市の顔へ当たり続けた。

何十回と土砂を浴びて、楽市の顔はもうドロまみれだ。


まだまだっ(まはまはっ)!)


楽市は深く食い込ませたアンカーを、力一杯ギリリと巻き上げた。


前進――


つま先の、ほんの先の分だけ前進する。

楽市はアンカーを外されないように、腕以外の全身からも瘴気を伸ばす。


髪の毛から、

角から、

胸から、腹から、

翼、腰、太もも、膝、つま先から。


もう巨人楽市は、人の形をしていない。

黒い毛虫のようになった楽市が、その全身の毛先を地面に打ち込んだ。

楽市は人の姿を捨てて、ジリジリと前進していく。


巨人楽市の尻尾から、グラスを指で弾くような振動音が、立て続けに伝わってくる。

音は滑らかに連なり、その勢いと激しさを増していった。


やったっ(やっはっ)効いてる効いてるっ(ひひへるひひへるっ)!)


毛虫楽市は、黒壁の崩壊音を感じながら、霧の中でにじる。



    *



黒妖門は、自己の最期をさとる――


壁の基底部分の亀裂が、もう取り返しのつかない所まで広がったようだ。

 

黒妖門はその製作者の設計思想から、最後の指示音響(サイレン)を、カルウィズ天領地へ響きわたらせた。


 

アアアアアァァァァァアアアアアァァァァァアアッ








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