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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第3章 カルウィズ天領地
191/683

191 楽市アンカーvs黒壁!


「ねえ、早くはやく開けてっ!」


リールーが、外側で雷が鳴りはじめた途端、シルバーミストの手の中で騒ぎはじめる。


その巨大な手の平を、バシバシと叩く。

するとシルバーミストが、両手を開いてくれた。


ぐるるっ


リールーはすかさず手の平に座り込み、遠隔視(ふぁぶる)を発動させる。

それに続いて、イースとサンフィルドも発動させ、三面鏡を三人とシルバーミストで覗き込んだ。


リールーたちは北の魔女が、スターゲイジーを発射させて外へ飛び出す度に、ドラゴンの手から這い出して三面鏡を覗いていたのだ。


そして戻ってくると、手の中に引っ込む。

それを、何度も繰り返していた。


リールーたちの周りには、バングルから漏れ出す青い光が、絶えず(まと)わりつく。

さらにその周りをドラゴンの一部が霧と化して、白く纏わり付いていた。

 

霧にはドラゴンの魔力が込められており、北の魔女の瘴気から、リールーたちを守ってくれる。

バングルと霧の二重防壁である。


三人は一言も話そうとはしない。

話しても落雷の轟音で、何も聞こえないからだ。

皆で熱心に魔女を見つめていたが、特にリールーの熱がすごい。

 

黒妖門の雷撃を、千発近く受けても立ち上がるその姿を、瞬きもせず食い入るように見つめていた――

 


    *



カルウィズの夜が明けていく。


東から差し込む陽光を、霧の粒子が満遍なく散らして、濃霧に覆われた林が薄ぼんやりと明るくなり始めた。


乳白色のノッペリとした景色に、浮かび上がる黒い綱がある。

それは太く長大で、ねじくれた林を長々と突っ切り、北へ向かって斜め上にピンと張られていた。


北の先には、

横幅二〇〇〇、

高さ六〇、

厚さ三〇メートルの、

巨大な黒壁がそびえている。


ピンと張られた綱は、その先を六つに枝分かれさせて、黒壁上部に穿たれた六つの穴――命名れんこん――に通されていた。


黒い綱は壁の内側で、四方八方に大きく枝分かれして、その壁面にビッチリと張り付いている。


さて南側はどうなのか?

綱に沿って反対側を見てみれば、そこには巨人楽市の背中が、霧に見え隠れしていた。

綱は腰辺りにくっついている。

 

黒い綱は、巨人楽市の尻尾なのだ。


巨人楽市の正面に回ってみれば、顔を深く俯かせて、全身に力を込めているのが分かる。

林へ張り付かんばかりに、前傾姿勢をとり足に力を込めている。


その両腕からは瘴気の綱が幾つも飛び出し、焼け焦げた地表に突き刺さっていた。

深く深く食い込み、土中で菌糸のように広がっている。


それは体を固定するための、アンカー代わり。

そのアンカーをギリギリと巻き取り、前へ前へと進もうとする。

楽市は巨大な黒壁を、引きずり倒すつもりなのだ。


(ふうんぬぬぬぬぬぬぬぬっ!)

  

楽市は脳裏に国つ神と殺し合う、仲間たちの戦い方を思い浮かべていた。

 

あの時、兄を含めた三十二人は、瘴気を様々に変形させ、土地そのものといえる超巨大な神と渡り合っていたのだ。


それに比べれば、こんなチッコイ黒壁など、やってやれない事はない。


楽市ばかりではない。

霧乃たちもまた、巨人楽市の手足に力を入れて踏ん張っている。


しかしこの間にも、黒妖門の雷撃は止まない。

特にピンと張られた尻尾に、雷撃を集中されてしまう。

 

雷が尻尾へ直撃するたびに、黒い尻尾に描かれた金の流紋に沿って、大電流が楽市の方角へ流れる。

それが足元でスパークして、土砂を吹き飛ばしていった。


(ひびれるーっ、ふのおおおおおおおおっ!)

(あばばばばっ、ぶふっ、むぐぐぐぐっ!)

(ふぁああああっ、ふぁあああああああっ!)

(ぶあーっ、はーはーっ、ぶあーっ!)


それを見た魚がしゃ七兄弟が、少しでも尻尾への直撃を防ごうと、尻尾の上へ覆いかぶさる。

 

他のがしゃたちも、楽市の尻尾を掴んで綱引きのように引っ張っていた。


上半身しかない獣がしゃが、前足を使って楽市の尻尾にぶら下がる。

 

巨大幽鬼たちが、がしゃへ取り憑きその眼窩に赤い炎を灯らせた。

するとスケルトンと幽鬼の力が合わさり、更に尻尾を強く引っ張りだす。


(ああっ、はひゃ、ひんなーっ(がしゃ、みんなあっ)!)



ピン キンッ ピキン キン―― 


(んっ!?)


それは突然、自分の尻尾から聞こえてきた。

いや、音ではなく振動というべきだろうか?

 

楽市は気のせいかと思ったが、確かに落雷の衝撃とは別に、薄いグラスを指で弾くような振動が混じっていた。

楽市は尻尾に、意識を集中させる。


(あっ、ひょへっへっ(これってっ)!)


楽市は気付く。

それはガラス質の黒い岩が弾ける音だった。


五メートル間隔で穿った穴の周囲に、微細な亀裂が走り、それが次々に広がっていく振動。

黒壁は確実に、崩壊へ向かっている。

 

ほへは(これは)ひへゆっ(いけるっ)!)


しかし黒妖門が急に楽市へ直撃させず、その両腕の周囲へ次々と雷撃を落としていった。


両腕のアンカー。

その周りの土砂が脆くなり、次々に弾け飛ぶ。


(あ、まずいっ!)












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