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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第3章 カルウィズ天領地
190/683

190 瘴気充填、全弾発射!

 

霧で何も見えやしないのだ。


沈みかけた夕陽に切なくなることも、それに代わって広がる星空へ、心躍ることもない。


霧の中では乳白色が、濃い灰色になっていくだけで、そのまま暗闇になるだけだ。

これでは、これっぽっちも心が動かない。


けれど今夜だけは、特別なのだった。


ドガガガガガガガガガガガガッ!


絶えることのない落雷が、霧の世界を高速で点滅させる。


激しい閃光と闇が、目まぐるしく切り替わった。

空気を切り裂く轟音が響きつづけ、それ以外は何も聞こえない。


濃霧のため、常に濡れる木々は発火しないまでも、電流の走り抜けた跡が黒く炭化して、強烈な焦げ臭さをまき散らしていた。


そこに住む獣たちは、とっくに焼けるか煮えるかしているだろう。

心が動かされるどころか、崩壊しそうな夜だった。


そんな夜を行く影が一つ、――巨人楽市である。

全くもって今宵の中心は、この巨人なのだった。


乱れ落ちる雷の全てが、楽市に直撃する。

大電流は巨人楽市の肌を彩る、金の流紋にそって地表に流れ落ちていき、四方に散って見境なく周りの木々を弾けさせた。


(あばばっ、ひひぇなひ(みえない)うひゅひゃい(うるさい)ひゅはいっ(くさいっ)!)

ひゃひゅーひ(らくーち)ひゃひゅほ(なにも)ひゃひゃんはひっ(わかんないっ)!)


見えない、聞こえない、焦げ臭い。

さすがの霧乃と夕凪も、この状況化では索敵能力が、ガバと化す。


楽市が瘴気を出して、霧乃と夕凪がトレースを試みるものの、瘴気と同じく地表に流れる大電流が干渉して、うまくいかなかった。


これでは、魚がしゃが見つけられない。

楽市は落ち続ける電撃で、うまく歩けずしゃがみ込んでしまう。

これは予想外だった。


ひゅにゅにゅ(ぐぬぬ)……ひょれは(これは)ひょっひょ(ちょっと)

舐めてたな……ん? あれ?)


急に痺れが収まり、まともな口調になった自分に、楽市は驚く。


見れば穴で待機していた巨大スケルトンたちが、楽市の頭上に手をかざして、避雷針となってくれていた。

落ちる雷が、全てがしゃたちへ流れていく。


(らくーち、がしゃがーっ!)

(ありがとな、がしゃーっ!)

(うわーっ、かっこいいっ!)

(いーっ!)

 

(ああ、がしゃありがとうっ!)


俄然、霧乃たちのテンションが上がった。

ピンチの時に、助けに来る骨はなんてカッコイイのだろう。

 

(らくーち、いまだっ、いけーっ!)

(つぎだ、らくーちっ!、つぎをだせっ!)

(つぎ、なにするのっ!?)

(つーぎーっ!)


(えーっ、次って言っても、どうしよっ!?)

 

霧乃と夕凪の索敵が駄目ならば、どうすりゃ良いのと、楽市の方が聞きたいぐらいだ。


楽市が次だ次だと攻め立てられていると、ストロボが炊き続けられる霧の向こうから、ぬいっと黒い魚頭が現れた。


(がしゃっ!?)


楽市が驚く前で、魚がしゃがのたくり、にじり寄ってくる。


魔力切れで歩けなくとも、背骨をくねらせてここまできたのだ。

ただ専門外の動きなので、必要以上にのたくりが激しい。


(うわあ……)


大昔、境内で先っぽを踏んづけてしまった芋虫が、丁度同じような動きをしていたな。

楽市はそんなことを思い出す。


いやいや、そんな事を考えてはいけない。

向こうから一生懸命、来てくれたのだから。

ただ、霧乃たちはとっても正直だった。


(うえええっ、きもちわるいっ!)

(きもいっ、くるなっ!)

(やだそれーっ!?)

(やーっ!)


楽市は子供たちを無視して、魚がしゃを助け起こす。

その周りを、他のがしゃが囲ってくれた。


(よく、あたしの所わかったねっ)


心象で伝えると、向こうも心象で返してきた。


集中して落雷する場所は、霧の中でもよく目立つらしい。

魚がしゃは、そこに攻撃されている楽市がいると考えたわけだ。


(あーそっかっ!)


黒妖門の雷撃は、霧乃と夕凪の索敵を無力化したが、むしろその雷撃が、魚がしゃに楽市の位置を教えてくれた。


楽市にたどり着いたのは、黒頭の子だけではなく、他の六体も霧の中からのたくり現れた。


楽市は瘴気の枝をのばし、ガード役のがしゃたちへ心象を送る。


(みんなこの子たちを運んでっ、一旦、壁の内側へ戻るよっ!)


黒妖門内側の壁ぞいに、六体の巨大スケルトンが、外側を向き半円に立ち並ぶ。


近くに立つ、ドラゴンを警戒しての陣形だ。

楽市に言われたからではなく、自然とそのような行動を取っていた。


スケルトンたちは、落雷により全身が煤だらけである。

体がまだ高熱を発しているため、足元のコケが煮立っていた。


楽市はその半円の中に、七兄弟を寝かせて瘴気を送り込む。

魚がしゃの空になった魔力を、瘴気で充填しているらしい。


一連の所作は、月明かりの届かぬ闇の中で行われているが、ドラゴンの赤黒い瞳は、それらをハッキリと捉えていた。


楽市たちは、ドラゴンの見ているそばで、


瘴気充填、

壁の内側より全弾発射、

魚がしゃ回収、

瘴気充填、

 

それを何度も繰り返す。


そして朝日が登る頃には、長大な黒妖門の両脇の端、そして壁の根本部分にびっちりと穴が空けられ、

 

キリトリ線ができているのだっ――















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