188 白いドラゴン、楽市の肌をガン見する。
白いドラゴンが、巨人楽市をガン見する。
今度は去らずに、間近で見るつもりらしい。
それを受けて楽市は思う。
女子の肌を遠慮もなくガン見するのは、如何なものか!?
そこは遠慮しろよと、楽市の羞恥心が悲鳴を上げていた。
たとえ種族が違うとしても、高度な知性を持つならば察してくれよ。
楽市はそう考える。
楽市は巨人楽市の色々な所を隠したいが、そうも行かなかった。
心象内で霧乃たちが、楽市をガン見しているからだ。
(ぽろんして……)
(うっ)
楽市がまだ何も言っていないのに、豆福が先回りしてつぶやいた。
豆福は植物系の妖しではあるが、姉たちにガッツリ影響を受けて、植物の子らしからぬ、かなりアクティブな性格に育っている。
楽市の行動を先読みしてつぶやくとは、中々の観察眼だ。
さすが獣と鬼の姉三人に、野生児として鍛えられているだけの事はある。
その霧乃、夕凪、朱儀の三人は、別の意味で楽市をガン見していた。
三人の中で“ヌルヌル階段”を行くのは、既に決定事項となっている。
異論は認めない。
けれどその前に“けっかい”なるものを、何とかしなければならないのだ。
(ヌルヌルは、きりたちに、まかせてっ!)
(うんうんっ)
(そーそーっ)
霧乃が力強く言うと、夕凪と朱儀もこれまた力強くうなずいた。
――ヌルヌル階段は任せろ。
だが結界は良く分かんないから、楽市が考えろっ
三人の目ヂカラが暗にそう言って、指示を待っている。
(はあー)
楽市はその期待に応えるため、空を見上げた。
次に近くでそびえる、巨大な黒壁を見つめる。
(外側でガンガン雷を落としていたくせに、こっちへ入った途端落としてこないのは、上に結界があるせいか……
そういえば境内の気配も、内側に入ったら随分濃くなったよね。
空と壁で、境内を隔離かあ……)
楽市は暫く壁を眺めて、ふと気付く。
(あれ? 上に結界があって、下に壁。
それじゃあ、魚がしゃは何処から入ったの?)
楽市たちが穴を掘って突入する前から、魚がしゃはバラバラになって、コケの野原に転がっていた。
(……ねえ、霧乃、夕凪。
この壁に、どこか穴とか空いてないかな?
朱儀の空けたやつじゃなくてさ)
楽市が周りを見ても、霧が濃くて何も分からない。
そろそろ、日も沈みかけている。
日照量の少ない霧の谷では、もうかなり暗いのだった。
楽市から指示がでて、霧乃と夕凪の顔がパッと輝く。
(まかしてっ! じゃあらくーち、黒いのだして、すぐみつけるっ!)
(パッてだせ、パでいいぞっ!)
(ああ、そうか……うんと、どうしようかな)
楽市はこの地が境内だと知った後は、瘴気をまき散らすことに、強い抵抗を覚えてしまう。
できるだけダメージを、負わせたくないのだ。
散々暴れといて今更な気もするが、楽市の心は揺れる。
少し考えて瘴気を全方位ではなく、壁側だけへ当てることにした。
(壁の方だけでいい? パッと一瞬だけ)
(だいじょーぶ、いけいけ)
(はやくだせ)
(それじゃあ行くよ、いっせーのー、せっ!)
楽市から瘴気のフレアが爆発的に膨れ上がり、すぐに収まる。
瞬間的に放出した瘴気は、指向性をもち壁側だけに叩き付けられた。
霧乃と夕凪は、五感全てを楽市と連結してフル稼働し、瘴気の動きをトレースする。
瘴気は壁を透過しながらも、溢れた流れが壁に沿って薄く広がっていった。
朱儀の空けた穴に瘴気が入り込み、穴の中でステイしている七体の巨大スケルトンが、狭いスペースでギュッと固まっているのが分かる。
まるで巣穴でジッとする、小動物のようだ。
ちょっとカワイイ。
二人はニヤニヤしながらも、トレースは怠らない。
すると巣穴とは反対側に広がる瘴気から、霧乃と夕凪の感覚にヒットするものがあった。
綺麗にくり抜かれた六つの穴に、瘴気が入り込んでいく。
(らくーち、あった、こっちーっ!)
(上の、ほーだぞ、らくーちっ!)
霧乃と夕凪の弾む声と共に、楽市へ二人の心象が流れ込んでくる。
楽市は脳裏に浮かぶ、画を見てつぶやいた。
(レンコンの穴かな?)