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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第3章 カルウィズ天領地
185/683

185 楽市は、かなわぬ夢を想う。

 

「なになに、なにするの、らくーちっ」


夕凪がワクワクしながら、尋ねてくる。


「まずは、この霧の奥に行こうと思う」

「おく?」


「ここは、あたしの言い方だと境内なんだよ。

国つ神様に仕える、大切な場所。


国とか世界が違っても大切なものって、一番奥のはずなんだ。

そこら辺の気持ちはどこも、変わらないと思う」


「くにっかみさま、おくかっ!」

「うんそう」


すると他の子たちも、早く会いたいと目をキラキラさせた。


「早くいこいこっ!」

「わー、くにっかみさまっ!」

「くーにーさーまーっ!」


楽市は再びパーナたちの首筋へ瘴気の管をつなげると、巨人楽市の中へ戻っていく。

こうして楽市たちは、五体の幽鬼を引き連れて、谷の奥へと進むこととなった。  

 

巨人楽市の足元には、所々背の低い木々が生えるだけで、それ以外はコケの野原といった様子を見せる。


そのコケの野原が奥へ向かって、緩やかな上り坂を作っていた。

周囲の警戒を怠らずに、先へ進む。

 

一年中ここが霧のためだろうか、日照量が少ないにもかかわらず、コケは水分をタップリと含み肉厚で、一つ一つがやたらとデカイ。


巨人楽市が踏みしめる度に、足裏で大量に潰れてネトネトする。

それを豆福が張り切って伝えてくれるものだから、皆でコケの瑞々しさを足裏で味わっていた。


多少気持ち悪いが慣れてくると、その爽やかな香りとトロミは、まるでオクラのようだ。

楽市はその香りを足裏で転がし、警戒しつつ、かなわぬ夢を想う。


(軽く湯がいて細かく刻ざみ、(いわし)削りと、白醬油を一回し。

七味を一振りだな。

それを熱々の麦飯か、米焼酎でかあ……)

 

楽市は夢を追い払うように頭をふって、朱儀へ注意を促す。


(何だかオクラで滑るから、気をつけてね)

(はーい)


少し進むと、バラバラとなった巨大スケルトンの骨を見つけた。

バラバラでもその特徴的な形状から、魚型がしゃだとすぐに分かる。


頭骨が二つ。

他にも背骨や尾ビレが散乱している。


(やっぱり来てたんだね……)


楽市は見えないと分かっても、周囲を見回す。


(多分、兄弟全員来ているんだろうな)


見たところ、粉は吹いていない。

これならば、楽市の瘴気で修復できるだろう。 


(ごめんね奥から戻ったら、すぐに直すから。

これあの子が見たら、すっごい怒るだろうなー)


楽市は黒壁にステイさせた、魚がしゃを思い浮かべる。




乳白色の薄雲の中を、巨人楽市が行く。

木々も生えコケむしているのだから、獣の一匹でもいるだろうが、その気配は無く静かなものである。


巨人楽市が歩く、ヌチャリとした足音だけが耳に入ってきた。

それ以外は何も聞こえない。


まあ巨人楽市の行くあとは、祟られて獣の住めぬ場所となるため、いるとしてもとっくに逃げているだろう。

楽市は、できるだけ瘴気が漏れぬように注意する。


(ああ、何だか申し訳ない……)


体は祟り神でも、心は国つ神に仕えていた頃のままなので、楽市は瘴気で場を汚すことに、とても心苦しいものを感じていた。


それはもし此処にヒノモトの中学男子などがいれば、心躍るような吐息として現れる。


(あふん、うん、んんっ、ふう……)


(らくーち、なんか、うるさい)

(こえが、きもちわるい)

(あふん、うふん、あはは)

(ふー、ふー、ふー)



 

だいぶ、歩いたのだろうか? 

代わり映えのしない霧の中なので、自分たちがどれ程歩いたのかよく分からない。


楽市がまた吐息を漏らしてしまい、五月蠅いキモイと罵られていると、目の前に石段が薄ぼんやりと現れた。


(なんだー、これ?)

(ついたっ!)

(ついたのっ!?)

(ふおっ?)


いい加減歩き飽きたので、霧乃たちが喜びの声を挙げると、楽市が首を横に振る。


(ううん、あたしの思うような物なら、これがずっと山頂まで続いている。

ここからが、長いかも)


楽市はそう言って、上を見上げた。

石段と言っても巨人楽市に丁度良い石段で、通常の獣人などが見たら、それは高さ三メートルの石壁にしか見えないだろう。


その石壁が段々となって連なり、上へと続いている。


まだ続くのかと、ぶーぶー言っている霧乃たちの横で、楽市は石段を懐かしそうに見つめていた。


もう長いこと、誰も登り降りしていないのだろう。

石の階段にもびっしりと、肉厚のコケが生えている。

その角は長年の経年劣化で、丸みを帯びてなだらかだ。


石段の中ほどは他の部分よりも、緩やかに落ちくぼんでおり、楽市はそこを愛おしそうに眺めた。


この石段を多くのドラゴンたちが、登り降りしていたのが伺える。

長年ドラゴンたちの足裏で削られて、中ほどが落ちくぼんでいるのだ。


飛べるはずのドラゴンが、わざわざ歩いて参拝する姿を想像する。

楽市はそこに、純粋な想いと敬虔の深さを感じた。


楽市はそれが今、(つい)えていることに自分を重ねて、

 

苦々しく思い、

腹立たしくもなり、

物悲しくなる。

(朱儀、オクラに気を付けてね……)


(え? うん)


楽市はコケを勝手に、オクラと名付けていた――














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