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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第3章 カルウィズ天領地
184/683

184 ドラゴンの過去と未来。


「ここのドラゴンたちは、あたしと同じ事をしていたんだ」

「なんだ、それー?」


霧乃が、パーナの膝上で小首をかしげる。


「土地に住む神様の、お手伝いだよ」


「あっ、くにっかみ、さまだっ!」

「えーっ、ここに、いんのっ!?」

「あーぎ、みたいっ!」

「わあーっ!」


楽市から聞き及び、霧乃たちの中で国つ神は、それはもうデカくて金ぴかで、カッコイイヒーローみたいになっている。


ここに居るのならぜひ会いたいと、大人組の膝の上で騒ぎ出した。


「ふふ……そうだね会えるといいね。

でもね、ここのドラゴンたちは、国つ神様のお手伝いのことを、すっかり忘れているんだよ」


「なんでっ!?」

ゴンッ 「うぐっ」


夕凪が膝の上で跳ねると、ヤークトの顎とごっつんこしてしまう。

夕凪は平気そうだが、ヤークトはのけ反っていた。


「多分、魔法でそこの部分を、無理やり消されてる」

「えーっ!?」


 

――楽市がドラゴンとのやり取りで分かった事は、彼らは国つ神も知らないし、ましてやその神に仕えていた事など、すっかり忘れているという事だった。


初めに霧へ映した国つ神は、神を認識しての事ではなく、単に楽市の図形を真似しただけだと言う。


楽市とのやり取りに使っている、この方法こそが、国つ神との交信用であるにも関わらずそんな事を伝えてくる。


楽市が今使っている交信方法こそ、“国つ神様とのためにあるものだ”と指摘すると、ドラゴンが霧に疑問符を作った。


このスキルは、

“今まで特に使用する事もなかったし、なぜ自分が使えるのかも分からない”

と楽市に伝えてくる。


そのマヌケな答えに、楽市は面喰ってしまう。

こっちこそ特大の疑問符を、投げつけてやりたいと思った。


楽市とドラゴンとのやり取りには、終始そういった場面が現れたのだ――


 

「あたし、交信をしていて何度も首をひねったよ。

話が全然、嚙み合わないんだもん。


あたしがいくら国つ神様のことを伝えても、向こうはちっともピンと来ないんだ。

何それって感じでさっ」


ここまで話がズレると、これは楽市の勘違いだったのか?

早とちりだったのか?

白いドラゴンは、国つ神と何も関係ないのか?


そう言った疑問が頭の中に浮かんだが、それは絶対にないと、楽市の感が告げていた。


豆福の伝えてくれた、土の味の既視感。

そしてドラゴンの使う、楽市のものと酷似した式。

国つ神用の式を使っておいて、使い道を知らないというデタラメさ。


そんな、アホな事があるものかっ!

明らかに記憶へ、強烈なバイアスがかかっているっ!

楽市は奥歯を嚙み締め、そう考えた。


「ドラゴンにとって、ここはとても大切な場所だったはずなんだ。 

それを無理やり奪い、記憶を消してダークエルフの避暑地にするなんて、すっごい腹が立つっ!」


楽市は、そこに自分を重ねてしまう。

ただ楽市の場合、忘れたのではなく、忘れられたなのだが……


次々にヒノモトでの事を思い出し、陰陰滅滅(いんいんめつめつ)となっていく楽市に、霧乃が声をかけた。


「ひしょって、なに?」


楽市は我にかえり、軽くデコをもむ。


「夏の暑い日にきて、のんびり遊ぶ所って意味だよ」


楽市がそう説明すると、子供たちから意外と肯定的な感触が返ってくる。


「へー、あそぶとこに、したのかー」

「あそべるのっ!?」

「なにして、あそぶのっ!?」

「あーそーぶーっ!」


霧乃たちの間で、

“なんだダークも、良いとこあるじゃないか”

みたいな空気が生まれてしまう。


「あれーっ!?」


楽市はこれはマズいと考え、軌道修正に入る。


「えっと、霧乃、夕凪。

あんたたちの生まれた所、あるでしょ?」


「うんっ」

「あな、なっ!」


北の森が始まる中心点。

霧乃と夕凪は、楽市がその場で掘った穴から生まれたのだ。


「あそこを埋めちゃって、勝手にダークエルフが住んだらどう思う?」

 

「へ?」

「ん?」


一拍おいて、二人が騒ぎ出す。


「そんなの、やだっ! きりとうーなぎの、とこだぞっ!」

「だめだろ、それっ! かってに、するなっ!」


「ドラゴンはダークエルフに、それをやられたんだよ」

「なーんーだーとーっ!」

「だめ、だめ、だめっ、かえれっ!」


「朱儀と豆福も、自分の生まれた所覚えている?」

「うんっ」

「あそこーっ」


楽市たちは知らないが、朱儀は大きな一本岩を、頭の中に思い浮かべていた。

豆福は、ヤクトハルスと呼ばれる巨樹を思い浮かべる。


「そこを勝手に壊してダークエルフが、自分たちの遊び場にしたらどうする?」

「「 ええーっ! 」」

 

「ドラゴンはそれを、やられたんだ」

「なーっ!」

「ふあーっ!」


楽市の軌道修正がうまくいき、霧乃たちが遊び場なんて他に作れと、激怒し始める。

楽市はその反応にホッとしながらも、表情は曇ったままだ。


「たださ、あたしがやろうとしている事は、今信じているものから、無理やり引き離すって事なんだよね……」


信じているものから、無理やり切り離す。

それではダークエルフが、ドラゴンへやった事と同じではないのか?


子供たちは、楽市の言っている意味が分からなかったが、こっちがいざやろうとしている時に、グダグダ言い始めたのは分かった。


「何いってんの?」

「らくーち、めんどくさいなー」

「だーく、やりたいっ!」コロコロしたい

「ん゛ん゛ーっ????」


霧乃たちから、グダるなと責め立てられる楽市に、ヤークトが声をかける。


「ラクーチ様の、考えていることは分かります。

今信じているものから無理やり引き剝がすことが、その者にとって良いことなのか、どうか?


そのまま信じ続けていれば、幸せではないのか?

そうお考えですね?

  

それはある一面で、正しいと思います。

  

しかしです。

おそらくその先にあるのは、種族全体の緩慢な死です。

道具になり下がり、使い捨てられるだけの命です」


「ヤークト……」


楽市が真剣な眼差しを向けると、ヤークトがそれ以上の熱っぽい瞳で、見つめ返してきた。


「あたしとパーナは、そこに疑問を持ったからこそ、エルフ様から離れてラクーチ様にお仕えしています。


ドラゴンの寿命がどれ程なのか、あたしには分かりません。

でもきっと、同じではないかと思うんです。 

あたしたち獣人種と、同じだと……

  

あたしは、やるべきだと思います。

たとえ今のドラゴンに恨まれようとも、次の世代のために。


次のドラゴンの子供たちのために。

この土地の神に仕えていた、尊厳と誇りを取り戻して欲しいです」


楽市は自分とドラゴンの過去を重ね、ヤークトは自分とドラゴンの未来を重ねていた。


見ればパーナも、目を赤くして楽市を見つめている。

楽市は二人に微笑む。


「ありがと、頭が少しスッキリしたよ。

じゃあさ、みんな、あたしに付いて来てくれる?」


楽市は少し照れくさそうに、皆を見まわした。


「はいっ!」

「どこまでもっ」


「らくーち、いいから、やっちゃえっ!」

「らくーち、なになに、なにするの?」

「あーぎ、やるよーっ!」

「ぶあーっ!」

ぶほーっ












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