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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第3章 カルウィズ天領地
183/683

183 くっつき合って、もうギュウギュウ。


決して、忘れていたわけではないのだ。


そうなのだけれど、緊迫した戦闘の中で少し……いささか意識の隅っこになっていたのは否めない。


楽市は恐るおそる骨の床からせり上がり、角つきの頭蓋骨内で実体化した。

すると途端にスポンジ状にみっちりと詰まったツタで、身動きが取れなくなってしまう。


草の匂いがムワンとくるが、決して不快じゃない。

むしろ落ち着く。


角つきの眼窩は瘴気で塞がれているため、光が一切差し込んでこない。

暗闇である。

自分の手も見えない中で、楽市は二人と松永に声をかけた。


「パーナ~、ヤークト~、松永~あの……戦闘中大丈夫だった?」


「あっ、その声は、ラクーチ様ですねっ!」

「ああっ、ラクーチ様っ、よくぞ御無事でっ!」

ぶほーっ!


楽市は元気よく返ってきた声に、ホッと胸を撫でおろす。

ひょっとしたら戦闘中の衝撃で、死んでいるかもと思ったことは、心にしまっておく。


ただ死んでいたとしても、瘴気で傷を修復されて元に戻っているだろうが。


「大丈夫? ホントに大丈夫!? ケガとかしてない?」


「はいっ、大丈夫ですラクーチ様っ!」

「ラクーチ様から溢れ出るもので、元気ですっ」

ぶっふっ!


「ああ良かった、ちょっと待っててね。

今、灯りをつけるから」


楽市は人肌まで温度を下げた狐火を、頭蓋内へ一つ浮かばせた。

青白い光が、密に詰まった緑色のツタを照らす。


楽市はそれを見て、改めて魔法は便利なものだと感心する。

そのツタの向こうから、ヤークトの声が聞こえた。


「ラクーチ様、こちらもツタをどかしますので、少々お待ちくださいっ」


ヤークトが口腔内で何やらつぶやくと、楽市を中心にして、ツタのスポンジが脇へ退いていく。


するとそこに、狭いがしっかりとした空間が出来上がった。

その空間めがけて、パーナたちがツタを搔き分け入ってくる。


「ああ、ラクーチ様っ!」

「ラクーチ様っ」

ぶふっ


パーナとヤークトの尻尾が、喜びでバッサバッサと揺れて、ツタの新芽を叩いていた。


「パーナ、ヤークト、松永っ、良かった皆無事で……ん?」


見ると、パーナたちの視線がおかしい。

焦点が定まらず、どこを見ているか分からなかった。


「あっ、そっかっ!」


楽市は慌てて、パーナたちの首筋に付けていた瘴気の管を取り外す。

すると二人の目の焦点があっていき、パーナとヤークトが正面の楽市を見つめて、喜びの声を上げた。


「ああ、ラクーチ様が見えますっ!」

「ありがとうございますっ」


楽市は瘴気の管を通して自分の視覚情報を、二人と松永へ送り続けていたのだ。

おそらく取り外すまで、楽市の視覚を通した自分自身が見えていたのだろう。


「ごめん、送りっぱなしだったね」

「いえ全然っ、それよりラクーチ様、頭痛は大丈夫ですか?」


ヤークトが心配そうに問うと、楽市がキョトンとする。


「頭痛? ああ、うん。

ちょっと頭使いすぎて、熱出そうになったよ、へへへ。

あのね、これからちょっと、やりたい事があってさ……」


するとパーナがニコニコした。


「作戦会議ですねっ、分かりました、すぐやりましょうっ!」

「あれ、何で知ってんの?」


楽市が不思議そうにするので、パーナとヤークトが顔を見合わせ笑い合う。

となりの松永も、ブフンッと鼻を鳴らして上機嫌だ。

パーナが黄緑色の瞳を、キラキラさせた。


「ラクーチ様、委細承知しておりますっ。

全部、首筋から入ってきましたっ」


「え、視覚だけじゃなかったっけ!?」

「始めは、そうだったんですっ」


首筋から入ってくる情報は、始めのうち視覚のみだったのだが、戦闘が激しくなるにつれて、未分化の情報がそのまま入ってきた。


視覚だけ切り離して送る方が、手間がかかるのだ。


十一体のドラゴンに取り囲まれた辺りから、楽市の五感と感情までもが、全て首筋から流れ込んでくる。


それは二人と松永に、楽市との一体感を起こさせ、まるで自分が楽市になったような気分をもたらした。


ヤークトの濡れたような赤い瞳が、楽市を熱っぽく見つめる。


「ラクーチ様、あたしは賛成です」

「へ?」


「あー、ラクーチ様、私もですっ。

ぜひやりましょう、迷うことはありませんっ」

「んん?」


パーナも、黄緑色の瞳をキラキラさせて肯定する。


「あはは、まだ何も話していないのに、変な感じだね」


言う前から、全力で肯定されてしまった。


ぶふふっ


松永も久しぶりに、楽市の顔をペロリと舐める。

おそらく賛成の意味だろう。


ペロペロペロペロペロペロペロペロ


「ぶっは、分かったありがと松永、わっぷっ」


こうして作戦会議は始まった。

場所は、パーナとヤークトが作ってくれたツタ内の空間だ。


かなり狭いので、霧乃たちが実体化して集まると、もう皆でくっつき合ってギュウギュウである。


あまりに狭いので、パーナの膝の上には霧乃が座っていた。

ヤークトの膝上には夕凪が座り、松永の横っ腹には朱儀が寄りかかる。

楽市の膝上には豆福だ。


この間、角つきに体を戻して、外の警戒を行ってもらっている。

その周りを、五体の幽鬼が取り囲む。

会議を始めてすぐ、霧乃たちの不満が爆発した。


「ええーっ!? 白いの、ころさないのっ!? 」

「たーすーけーるーっ!? らくーち、なんだそれっ!?」

「えーっ、やだやだ、やだよーっ!」もっとコロコロしたい

「ふあーっ????」よく分かってない


「あはは……」


楽市は話せば、霧乃たちの反応がどうなるか、分かっていたので苦笑いしかない。

さてこの野生児どもを、どう説得しようか考えていると、パーナたちが手助けしてくれた。


パーナは、霧乃をキュッと抱きしめてささやく。


「まあまあ、ラクーチ様のお話を全部聞いてみませんか、キリさん」


パーナに頭を撫でられて、霧乃の剣幕が少し柔らかくなった。

 

「えーっ」


ヤークトが、夕凪をギュッと抱きしめてささやく。


「ウーナギさん、ラクーチ様には、少し考えがあるみたいですよ」


ヤークトに頬っぺたをムニムニされて、夕凪の膨らませていた頬から空気がぬける。


プスー


松永が朱儀を舐めて、ぶっふぶっふと鼻を鳴らす。

それだけで松永が何を言おうとしているか、理解した朱儀が驚く。


「えっ、まーなかも、やめろって、いってるっ!」


「ええっ、まーなか、がっ!?」

「うえっ、まーなか、がかーっ!」


朱儀の驚きは、霧乃と夕凪にまで伝染した。

狩の師匠が、待てと言うのだ。


これはもう待つしかない。

急に大人しくなった三人に、楽市は呆れてしまう。


「ありがとー松永、助かったよ」

ぶふっ


しかしそんな中、豆福が叫ぶっ!


「らくーち、まめも! 

まめもっ、なーんーかーしーてーっ!」

 

「おっと、はいはい」


楽市が頭をナデナデして、ほっぺをムニムニしてやると、よく分かっていない豆福は、それだけで至極ご満悦となってしまった。


「そーそー、それーっ!」


こうして会議は、つづく――










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