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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第3章 カルウィズ天領地
179/683

179 その声は低くたゆたう。


こちらの世界で何というのか分からないが、楽市の中でここは間違いなく、境内と呼ぶべきものだった。

いや、境内だったというべきか?


(すごく、嫌な所が似ているっ)


あまりにも活気が無く、抜け殻のよう。

土の味に含まれるものは弱々しく、それは現役というよりも、そこにかつて在ったもの。


境内だったものの残照。

そんな所がとても、楽市の居た“藤見の社”に似ていた。


だからこそ、そこに既視感を覚えて心に引っかかったのだ。


藤見の社が今も活気づき、人々の心を繋ぎ止めていたならば、楽市はこの地に既視感など抱かなかっただろう。

最後まで、気付かなかったかもしれない。


(けーだいって、なんだー?)パン パン

(なんだ、なんだ?)パン パン

(らくーち、かおが、へん)ぴょん ぴょん

(まったく、もー)


楽市がいきなりのけ反って、挙動不審となり、変なことを言い出したので、“楽市罵倒包囲網”は自然消滅となった。

 

怒りよりも、お前大丈夫か?と言った気持ちが、子供たちに湧いてしまったのだ。


痒みがまだ治まらないので、皆でパンパンしたり、ぴょんぴょんした。

仲良く挙動不審である。


楽市は心象内で、嫌な汗を流す。

ここがそうだと気付いた事で、喜びと不快感が同時に湧きあがり、落ち着かなくて仕方がない。


(境内ってのは、あたしが前にいた所なの)


(らくーち、ここにいたの!?

 え、じゃあ、あいつら、友だちーっ!?)

(えっ、いっぱい、コロしちゃったぞっ!?)

(えーっ、ともだちっ!?)

(ふあーっ、ころしたーっ!?)


(違う違うっ、ここによく似た所に居たの。

ドラゴンとは、友達でも何でもないよっ)


(はー、びっくりしたっ)

(なんだよ、もーっ)

(ふー、よかったー)

(もーっ)


(でも)


友達ではないが、恐らく似たもの……楽市はそう感じていた。


霧乃たちがホッとする中、楽市の心は晴れない。

藤見の社へ白狐たちが仕えていたように、ここでは白いドラゴンが?


(……確かめなきゃ、駄目だろこれ)




巨大な楽市が左手を胸の前に掲げて、手のひらを上にする。

その黒い手にも、金色の流線が幾筋も描かれており、巨人独特の手相のようだ。


その中央がトプンと波打ったのかと思うと、白銀の頭が出てきた。

澄ましていれば素敵なお姉さん、楽市である。


ゆっくりと、舞台役者のようにせり上がってきて、美しい肢体を霧の中にさらす。

その表情は、とても顔色が悪く硬い。


それも当たり前な事で、戦闘中にひょっこり生身で出るなんて、ここに居るから殺してくれと言っているに等しい。


相手は霧の中に溶け込めるので、すぐ近くに居るかもしれない。


一瞬だけ現れて爪を一掻きすれば、それだけで楽市は終わりだ。

楽市自身も、それが分かっているからこその硬い表情である。


漂う霧の(かす)かな濃淡をドラゴンと見間違えて、ビクッとしてのけ反っている始末だ。


(うひいっ!)


(らくーち、やめろっ、もどれーっ!)

(しぬぞ、らくーちっ!?)

(わー、みるの、こわいっ!)

(こーわーいーっ!)


霧乃たちが叫ぶ中、楽市は戻らない。

確かめると言って急に飛び出したのだが、一体何を確かめるのか?


「あ……あんたたち、痒いのちょっと我慢して、ジッとしててねっ!

それとしっかり、周りを見張ってねっ!

絶対だよっ!

絶対見ててねっ!

幽鬼たちも絶対だよっ、たのんだよーっ!」

 

楽市は瘴気の枝先を伸ばして、巨大幽鬼たちに何度も指示を送る。

五体の幽鬼は、手に乗る楽市を中心にして、巨大な黒い楽市を取り囲んだ。


楽市は、胸に手を当て深呼吸をする。


「それじゃ、いきますっ」


楽市は、己の声を奏で始めた。

その声は低い音域から始まって、ゆったり揺蕩(たゆた)う。

充分に低音域を揺らしたのち、少しづつ高さを上げていく。


途中から自分の声に、少しづつ高さを変えた声を重ねる。

二重、四重、八重、十六重、三十二重、六十四重と、歌声(うねり)が分厚くなっていった。


重ねた声を一度キュッとタイトにして、更に一段階うねりを高めようとしたその時、

 

――ひょへっえ~、ゴフッ、ゴホホッ!


今までのハーモニーを、ぶち壊す裏声が出てしまった。

 

「緊張して、一番高いとこ……間違えちゃった」


楽市は青かった顔を、赤面させながらやり直す。


「こほん、それじゃいきますっ」

















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