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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第3章 カルウィズ天領地
178/683

178 白い竜と白い狐。


五体の幽鬼に守られながら、朱儀は修復された黒い楽市で、残りの黒妖岩を粉砕する。


充分に穴が開くと、朱儀は幽鬼と共に霧の中へ飛び出した。

続いて飛び出そうとする巨大スケルトンたちを、手で制し辺りを見る。


朱儀が出たとたんドラゴンの攻撃が止み、その姿も霧の中に消えた。

朱儀は小刻みに跳ねながら、頬っぺたを膨らませる。


(あーもー、また、にげたーっ!)ぴょんぴょんぴょん


鬼の子は“戦えぬこと”を悔やむが、霧乃と夕凪はそれどころでは無い。

瘴気で治ったばかりの、がしゃの傷が痒くてたまらないのだった。


(あ゛ー、またかけないっ、ほね、かゆーいっ!)

(たたけ、きり、たたけー、こうっ!)パンパンパン


朱儀から腕の主導権をぶんどり、体中を叩き続ける。

その横で、楽市も悶えていた。


(うわっ、今回はあたしも痒いのかっ。

これ、ちょっとヤバイなっ)


すうーー……


(ん……ふう)


急に楽市の表情が、穏やかとなり吐息をはく。

すると直ぐに霧乃たちが、その穏やかな異変に気づいた。


(あー、ずるいっ、らくーちだけ、ぬけてるーっ!)

(もどってこい、らくーちっ、ずるいーっ!)

(らくーち、ひどい……)


(あ)


戦闘中なため、運動野から抜け出せない霧乃、夕凪、朱儀の三人は、痒みガマン仲間だと思っていた楽市の裏切りに激怒する。


(ずるいっ、ゆるさないっ!)

(大きなこが、することかーっ!)

(らくーちーっ!)


さっきまで楽市のことを、キラキラの瞳で見つめてくれた子供たちが、今はゴミを見るような目つきで、楽市を見つめていた。


高速で自分の威厳が吹き飛んでいくのを垣間見て、楽市はその落差にクラリと来てしまう。

これはいけない。


(あーっ! 

へへへ、冗談じょーだんっ。

ほら、戻るから……はい、戻ったー。

ねっ! あーこれ、痒いね、あはは)


(ふんっ)

(ふーんだっ)

(らくーちー……)


そんなプンスカする姉たちを、豆福が不思議そうに眺める。


(きり、うーな、あーぎ?)


豆福は足裏からの外部情報を、ひたすら皆に送り続けていた。

この場合、足裏だけの感覚にリンクして集中するので、他の部分の痛みが良く分からないのだ。


(まめ、きいてー)

(まめ、あのなー)


上の子二人が豆福も引き入れて、“楽市罵倒包囲網”を完成させようとするので、楽市が慌てて遮る。


(あー豆福、もっと味欲しいなー、味っ!

豆福の情報もっと欲しいなーっ、らくーちさんっ!)


(え? うんいーよ、えいっ)

(ありがとーっ!)


豆福の送る土の味が、楽市の足裏で“味”として広がる。 


味と言っても、口の中に広がる味とはちょっと違う。

楽市は自分の感覚ではなく、豆福の植物としての感覚を通して味わうのだ。


それは単純に土を口に含むような、ドロ臭いとか、そういったものではない。


植物の根が、土の養分を吸うときの勢いや喜びを、根を持たぬ楽市が味覚として知覚する。

これはとても不思議なもので、まさに感覚を共有するからこその面白さだ。


逆に楽市が感覚を共有したまま、口一杯に肉をほうばれば、今度は舌に味蕾(みらい)を持たない豆福が面白がるだろう。


楽市は足の裏に広がる味を、心象内の舌で転がしながら目を見張る。


(あれ、これって……!?)


少し前から感じていた既視感がさらに強くなり、楽市の心をざわつかせる。


楽市は、先ほど飛び出してきた穴を見る。

黒壁の外と内では、明らかに内側の方が、土の味に含まれる何かが強くなっていた。


楽市は痒みも忘れて、自分の中の記憶をひっくり返す。


一体何が、これほど気になるのか?

すると突然、土の味と記憶が結びつき思わずのけ反ってしまった。


(ああああっ、これはっ!)


気付いてしまえば、それは何て事のないもの。

楽市にとって、とても馴染み深いものだった。


ただ植物としての土の味など味わった事が無かったので、ピンとくるまでに時間がかかってしまったのだ。


(ここ……境内だ……)


楽市はそうつぶやくと、急に頭を抱えた。


(ちょっと待って!? 

ここが境内だとすると……白いドラゴン……

白いドラゴンって……ああああっ!)


楽市は慌てて、心象内で霧乃たちに振り返る。


(ねえ聞いてっ、ここってっ……あれ?)


見れば豆福が、霧乃と夕凪からすっかり聞いて、生ゴミを見るような目で楽市を見ていた。


(らくーち……もー)

(あれーっ!?)


楽市罵倒包囲網は、すっかり完成されていたのである――













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