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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第3章 カルウィズ天領地
177/683

177 だから、あたしたちは負けない。

 

朱儀が順調に拳を突き立て、ぬめっとした光沢のある、黒妖岩を掘り進んでいく。

 

するとその後方で巨大スケルトンたちが、足元に溜まっていく岩石を、外へと運び出し始めた。


(へー)


楽市が自然と生まれた分担作業に感心していると、朱後の弾んだ声が聞こえてくる。

 

(もうすぐーっ!)


拳に伝わる手応えで、もうすぐ貫通するのが分かるらしい。


朱儀が腰を落として重い一撃を放つと、これまでの鈍い掘削音とは違い、軽やかな音が拳を通して響いてくる。


朱儀が腕を引き抜くと、黒妖岩の向こう側から、湿った空気と共に光が差し込んできた。


天窓から光が差し込むように、トンネル内に淡い光のスロープがうまれる。


(あっ、なんかきれい……)

(よくやったっ!)

(へへへ)

(あーいーたーっ!)


(朱儀えらいっ!)


朱儀は同じ部分へ拳を打ち込み、穴を広げてそこからヒョイと、向こう側を覗いてみた。


すると目の前に大きく顎を開いた、ドラゴンが並んでいるではないか。

数はサッと見ただけで十数体。


(ああっ!)


朱儀が目を見張ると同時に、一体の口腔から超高圧の水流ブレードが放たれた。拳の穴を通り抜けて、朱儀を襲う。


咄嗟にかざした左手の小指と薬指が、あっという間に吹き飛んでしまった。


朱儀が慌てて下がろうとすると、石を運ぶ後ろのがしゃと、ぶつかってしまう。

朱儀の打撃でもろくなった黒妖岩が、水流ブレードで更に崩れていき、穴が広がっていく。


すると広がったスペースから、新たな水流ブレードが幾筋も襲いかかってきた。

掘削した穴は横幅が狭く、朱儀一人分のスペースしかない。


朱儀は横へ飛びのいて避けることができず、かといって後方も、がしゃが詰まって下がれなかった。


そのため六筋もの、超高圧の水流ブレードをまともに浴びてしまう。


ガードした両腕が、手首、肘と、次々に断たれて短くなっていく。

楽市が霧乃たちから痛みを切り離すため、がしゃの運動野から強制的に弾き出す。

 

代わりに体を受け持った楽市へ、激痛が走った。

楽市は痛みというより、激しい熱としてそれを感じ取る。


(くううっ)


なおも襲いかかる水流が、楽市の右肩から入って左脇腹へ抜けていく。

一刀両断は免れたものの、傷はかなり深い。


バランスを崩して頭が下がったとき、その頭頂部へ、六筋全ての水流ブレードが襲いかかる。

 

楽市の各部を切り裂きながら、水流が頭部へ集中しようとしたその時、後方から皆の隙間を通って、巨大幽鬼が楽市の前に躍り出た。

 

水流ブレードは、幽鬼を切り裂きながら楽市へ到達するものの、水圧を分散されてしまい、頭部を切断することができなかった。


盾となった幽鬼が、六筋の刃でナマス斬りにされていく。


幽鬼の再生が追いつかず、盾の役目を成さなくなると、入れ替わるように次の幽鬼が躍り出て、楽市の盾となった。


切り刻まれた幽鬼は後方へ下がり、体を修復していく。

トンネル内に入った五体の幽鬼が、代わる代わる盾となって楽市を守る。


幽鬼によって分散された水流を浴びながら、楽市が荒い息を吐いた。


(はあ、はあ、はあ、はあっ)


(ああ、らくーちっ!)

(らくーちっ!)

(ああっ、ごめんなさいっ!)

(ふあーっ!)


(だいじょ……うぶ、朱儀は全然悪くないよ。

謝ることなんかないって。

それより、あんたたち大丈夫? 痛くない?)


(だいじょーぶ、今は、いたくないっ!)

(らくーち、いたくないぞっ!)

(ああっ、らくーちーっ!)

(まめ、へーきーっ!)


(はあ、はあ……よし、みんな元気っ)


楽市は代わる代わる盾になってくれる、幽鬼たちを強く見つめる。


(ぐっ……全く見かけによらず、熱いんだからっ。

がしゃといい、幽鬼といい、あんたたちカッコ良すぎっ。

それと朱儀っ)


(らくーちー……)

 

(朱儀は、すごい頑張ってるっ。

だから全然悪くないんだよ。


あたしは朱儀に、いっぱい助けてもらっているんだ。

朱儀はすごいんだぞっ)


(そーだ、あーぎ、がんばってるっ!)

(わるくないぞっ、いい子っ!)

(あーぎ、すーごーいーっ!)


(みんなーっ)


楽市に続いて霧乃たちからも励まされて、朱儀の胸がキュッとした。

落ち込んだ気持ちが、どんどん軽くなっていく。


楽市が、霧乃たちに話しかける。


(みんな聞いて、それだけ相手も必死ってことなんだよ。

だけどね、あたしたちは負けない)


楽市は話しながら、瘴気を使い体を修復する。

切り飛ばされた腕の破片が、瘴気に絡め取られて、元の位置へ収まっていった。


(だってさ、

誰よりも獲物を早く見つける、

霧乃と夕凪がいて、

 

誰よりも殴るのが強い、

朱儀がいて、

 

誰よりも森を呼べちゃう、

豆福がいるんだから。


こんな子たちが、一緒になって戦っているんだよ。

ハッキリ言って、あんたたちが組むと、すっごい強い。


ヤバイくらい強いっ。

だから、あたしたちは負けないっ)


楽市が力強く言い切ると、心象内で子供たちの目がキラキラとする。

落ち込んでいた朱儀も、上を向いて復活していた。


(よしそれじゃ、体が治ったら直ぐにいくよっ。

盾になってくれてる幽鬼たちのためにも、頑張らなくっちゃね。

あとね、先に謝っておくよ。ごめんっ!)


(えっ、ごめんて? あーっ!)

(ああっ! ごめんやめろーっ!)

(ごめん、やーめーてーっ!)

(ふあ?) 


 豆福はよく知らない。

 













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