表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第3章 カルウィズ天領地
175/683

175 豆福が、伝えてくれる土の味。


朱儀ひきいる“がしゃ分隊”の連携で、シルバーミスト・ドラゴンを次々と倒していく。


すると撃破数二十を超えた所で、残りのシルバーミストが、霧に溶け込み退いていくのだった。


(あっ、きえたっ!)

(にげたぞっ)

(え~、やだーっ!)

(ああーっ!)


霧乃たちが騒ぐ中、楽市は山を塞ぐようにそびえる、巨大な壁をにらむ。

 

霧の向こうで姿は見えないが、子供たちの感覚を共有する楽市には、その存在をビシビシと感じることができた。


(ふー、ちょっと、休憩できるかな?)


(らくーち、にがしちゃ、だめっ!) 

(まだ、いけるぞっ!)

(もっと、やりたいーっ!)

(やーるーっ!)


(そうだね。でもその前に、あれ何とかしなきゃだね)


振り向く先も霧で見えないが、ギインッ、ゴオンッと音が響いてくる。


霧乃たちが伝えてくれる心象によると、生き残ったがしゃたちと、がしゃの半分ほどしか無いヒトデのような物が戦っていた。

 

朱儀が引き連れていた魚と獣のがしゃは、すでに霧の向こうへ駆けつけて、暴れているようだ。


(なにあれ?)

(ちっこいなっ!)

(……かわいい)

(まめ、やるよーっ!)


豆福が、随分とやる気を出している。

恐らく戦闘後の森修復が、頭の中にあるのだろう。

楽市はそう考える。


豆福は以前より戦闘による森林破壊を、怒らなくなっていたのだ。

その後、北の森を呼び出して、森を復活させたときの豆福は、それはもうホックホクなのだった。


楽市はそんな豆福が伝えてくれる土の味を、感じながら首をひねる。


(う~ん、何だっけこの味?

何か、引っかかるんだよねえ?)



    *



霧のテラスで遠隔視(ふぁぶる)を使い、戦闘を覗くイース、サンフィルド、リールーの三人があっけに取られている。


霧のため良く見えないが、それでも充分に戦闘の凄味が遠隔視から伝わってきた。

戦いは未だに続いている。


しかし今は残敵処理に変わり、北の魔女が巨大アンデッドをひきいて、黒妖兵を“お片付け”しているようなものだ。


イースとサンフィルドは緊張のため、溜めていた息を吐き出しその場に座り込んだ。


滑らかに形成された床石が、ヒンヤリする。

リールーは、まだ遠隔視に齧りついていた。


そしてまた、もう一体も……


“座り込んで見ないならば、そこをどけ邪魔だ”とばかりに、巨大な白いかぎ爪が霧の中からヌッと現れ、イースとサンフィルドの背を脇へ押しやる。


「わっ、はいっ!」

「うわっ、怖えっ、でけえっ!」


二人がどくと、空いたスペースを埋めるように、赤黒く巨大な瞳が遠隔視へ近づく。


その大きさは、長身のイースとサンフィルドの背を超えている。

かぎ爪が遠隔視の真ん中に陣取る、リールーの背もつついた。


「ん、なに? 見たいの?

いいわ、チョットだけ見せてあげる」


そう言って、リールーが右に寄る。

リールーと巨大な瞳は、並んで遠隔視の鏡を覗き込んだ。



赤黒く巨大な瞳の主は、イースたちのいる宮殿を守る、シルバーミスト・ドラゴンである。


ここの守り手は個竜的に失った物が無いので、戦闘に参加していないのだ。

むしろこういう時こそ、宝から離れてはいけない。


テラスの外でホバリングしながら、巨大な頭をテラスぎりぎりまで下ろしている。

シルバーミストたちが叫びながら門を出ていく時も、イースを見つめていた。


 


リールーとシルバーミストが覗く横で、サンフィルドが溜息をつく。


「おいおい北の魔女が現れたとたん、戦況がひっくり返ったぞっ。

ありかよ、あんなん反則だろっ!?」


「う~ん、強いって分かっていたけど、それでも毎回驚かされるよね。

さて、どうしようか?」


「どうしようかじゃ、ねえよっ。

逃げる一択だろっ!?」


「その通りなんだけどね。

戦闘が終わったら、乗り込んで来るだろうし。

  

黒妖門は今閉まっているけれど、北の魔女には無駄だろうなあ。

僕も逃げたいけど、どうしたものかな……」


イースはそう言って、すぐそばにある巨大な首を眺めた。

乳白色の硬質なウロコが、びっしりと並んでいる。


ウロコ一枚が、大人の背ぐらいはあった。

サンフィルドもつられて、ウロコを眺める。


「逃げたくても、逃げらんねーって、そんなんありかよっ!?」


イースもサンフィルドも、逃げようと言っている。

しかし逃げられない。

 

なぜなのか?

それは目の前のウロコの主が、邪魔しているからなのだ。


サンフィルドが、ぐずるイースを何とか説得して逃げることとなり、宮殿内へ引っ込んだ時のことである――


後ろから巨大な瞳が、他の身体部分を霧にして、宮殿内までくっついてきた。

何処へ行くのかと、言わんばかりに付いてくる。


縦に裂けた赤黒い虹彩で、睨んでくるのだ。

イースたちはそれを無視して宮殿を進むが、とにかく何処へ行っても霧なので、迷ってしまった。


宮殿内には誰も居ない。

執事や従者たちは、影の方と一緒に消えたようだ。

招いておいて置いてけぼりとは、どういう事なのか?


文句の一つも付けたくなるが、それを我慢して巨大な伽藍を進む。

すると三人は、いつの間にか霧のテラスに戻ってしまう。


「えっ!?」

「なっ!?」

「はあーっ!?」


イースたちはそれを三度繰り返したのち、これがただの偶然ではないと、体に分からせられてしまった。


「これ絶対に、赤黒い瞳(あいつ)がやってるよな」


サンフィルドが顔をしかめると、イースがうなずく。


「そうだろうね。

宮殿だけに、霧の迷宮かあ」


「なにそれ、面白くないんだけど?

ねえイース、飛んで逃げれないの?」


リールーの問いに、イースが首を振る。


「あの“影の方”が言っていたからね。

ここは上空が歪められて、外から侵入できない。

   

つまりそれって、内側からも外へ出れないってことだよ。

入り口も出口も、宮殿内を通って行かないと駄目だろうね」


「あっそ」


リールーは余り落胆していない様子で、遠隔視(ふぁぶる)の魔法を発動させて操作し始めた。

見るのは当然、門外の戦闘である。


リールーが熱心に見るものだから、イースもサンフィルドも覗くことになる。

すると、何だか赤黒い瞳も覗き始めて、今に至るのだった。




いつの間にか仲良くなったように見える、リールーとシルバーミスト。

その後ろ姿と頭を見て、男たちは溜息をつく。


「なあイース、他に方法は無いのかよ?」

「そうだねえ、あるとすれば黒妖門を――」


そこで突然、カルウィズの谷に鐘の音が鳴り響いた。


ゴゴオオオオンッ


聞こえる方角は黒妖門だ。

イースは、肩を落として言葉を続ける。


「あんな風に、ぶち壊すことかな」














評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ