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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第3章 カルウィズ天領地
174/683

174 巨大がしゃ地獄の分隊。


霧の中――


ミスト化の防御に、慣れ過ぎたシルバーミスト・ドラゴンは、敵の攻撃を安易に霧となり躱す。


するとそこに大量の瘴気を混ぜ込まれて、体のコントロールを失い崩れ落ちていった。


霧と瘴気は、実に良く混ざる。

シルバーミスト三体が立て続けに倒されると、後続は流石に学習して、ミスト化を止め敵に襲いかかった。


 

    *



朱儀は拳とかぎ爪を交わし合いながら、気持ちが高ぶってくる。


(こーれーっ!)


これこそが、朱儀の求めるもの。

霧となった相手に瘴気を流し込むだけでは、やはり殴る快感が足りないのだ。


朱儀はドラゴンのかぎ爪を躱し、懐に入って眼前の脇腹へ掌打を叩き込んだ。

 

強靭な鱗で耐えようとも、中へ通った衝撃波は打ち消せない。


表皮の内側で内蔵が激しくたわみ、ドラゴンを苦しめる。

数千年霧だった者が、受肉で味わう物理の痛みで身をよじっていた。


朱儀は無意識に瘴気を流し込んでおり、その苦しみはジワジワと、ドラゴンの機動力を奪っていく。

 

ドラゴンは口から何か吐き出そうとするが、予備動作があまりにも大きくて、朱儀が簡単に顎を蹴り上げ封じてしまう。


口を開けて溜めの間をとるなど、朱儀からしてみれば何のつもりだと、本気で首を傾げた。

 

あと一発で、仕留める。

朱儀がそう思ったとき、ドラゴンの後ろから、左右に分かれて別の個体が襲ってきた。


その数、六体。


翼を広げて、見かけによらぬ素早さで回り込んできた。

うち二体が、上空から大きな顎を開けている。


正面の死に掛けを加えて、計七体。

更に別のドラゴン四体が、後ろから付いてくる、がしゃ二体へ襲いかかろうとする。


都合、十一体!


(ふああああっ……!?!?)


朱儀もさすがに、頭が真っ白になった。

どうして良いか分からず、一瞬動きが止まったとき、巨大楽市の口腔から二色の炎が噴出する。


青白い炎三本と、黄緑色の熱線のような炎一本。

それら四本の炎が、十一体のドラゴンに絡み、ひるませた。

朱儀の中に、楽市の声が響く。


(朱儀っ、あんたは、正面の三体だけ集中してっ!

残りはあたしたちが、引き付けておくからっ!)


(あーっ、らくーちーっ!)


霧乃たちの声も聞こえた。


(あーぎっ、これは、かりだよっ! すること、分けてこっ!)

(あーぎっ、うしろは、うーなぎに、まかせろっ!)

(あーぎっ、まめ、やるよーっ!)


(うああっ、みんな、ありがとっ!)


朱儀は巨大楽市を一歩後退させて、魚と獣のがしゃに触れる。

そして動きの遅くなったドラゴンを、力強く指差した。


戦闘中のコンタクトは、これだけで充分だ。

がしゃたちはうなずき、指示されたドラゴンへ襲いかかる。


朱儀が三体を相手にし、動きの鈍くなったドラゴンが一体出れば、指を差して二体のがしゃに襲わせる。


そうして朱儀は、また新しい一体を加えて、三体を相手にしていくのだ。

その間、他のドラゴンは、楽市たちが炎で足止めする。


狩りは、役割分担が大事。


これは霧乃たちが、松永から教わった基本中の基本なのである。



    *



指示を受けたスターゲイジーと獣がしゃが、ドラゴンへと襲いかかる。


スターゲイジーが黒い頭を軸にして、尾ビレを真上へと跳ね上げた。

尾ビレは急角度でドラゴンの喉元に入り、鱗を断ち切る。


しかし浅い。


スターゲイジーは返す尾ビレで寸分たがわず、一撃目の傷に刃を滑り込ませ、深く切り裂いた。


ドラゴンはミスト化しようとするものの、体内に巡る瘴気で、霧への相転移を阻害されてしまう。

膝をつくドラゴン。


そこへ獣がしゃが飛びかかり、大きな顎で喉元の切り口へ食らいつき、激しく首を振った。

万力を締めるように、ドラゴンの首が捻り潰されていく。


霧乃と夕凪が近づくドラゴンたちの位置と、炎を吐くべき順番を、楽市と豆福へ的確に伝えていく。


それと同時に朱儀のサポートをこなし、更に自分たちも炎を吐き、ドラゴンを牽制する。

戦いが終わったら、知恵熱が出そうなほどの忙しさだ。


(わーっ、らくーちあっち、出してっ!

そしたら、こっちーっ!)

(分かったっ! 次どっちだっけっ!?)


(まめ、あっち消えてるっ、だせだせ、もっとだせっ!)

(ふぁーっ! ふー、ふーっ!)


楽市へも、霧乃たちから矢継ぎ早に要求がきた。


(らくーち、きりの火に、くろいの、まぜてーっ!)

(待って、行くよっ、はいっ!)プシューッ


(らくーち、うーなぎのにも、まぜろっ!)

(よし、もってけっ!)プシューッ


(まめも、しゅーしゅー、してーっ!)

(まかせろっ、プシューッ!)プシューッ


周りを気にしていると、楽市は自分の手元が疎かになってしまう。


(らくーち、火のほーが、とまってるっ!)

(とめるな、らくーちっ!)

(ふあーっ!)


(あー、ごめんっ、頭がこんがらがるーっ!)




巨大楽市の頭は炎を吐く専用として、朱儀の動きとは関係なく、グリングリン回っていた。

多少体幹バランスが崩れるが、朱儀には許容範囲だ。


頭など飾りなのだよ、である。


朱儀は皆のわちゃわちゃをBGM代わりにしながら、三体を相手に立ち回っていった。


(あははっ)


巨大がしゃ地獄の分隊が、霧の中を進む――













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