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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第3章 カルウィズ天領地
171/683

171 地表でうごめく太陽


霧乃と夕凪が角つきの眼窩にかじりつき、獣耳をパタパタと動かす。


「そーそー、がしゃ、そっちー」

「まっすぐ、いけ、がしゃ」


その後ろで松永も耳を動かし、下界を覗いている。

朱儀と豆福も、霧乃と夕凪の間に入り込み、角とつる草を動かしてみた。

しかし何にも聞こえない。


「きり、うーなぎ、まーなか、すごいっ」

「すーごーいーっ」


下の子二人に凄いと言われたら、まんざらでもない。


「へへへー」

「ふふふ、だろー」

ぶほーっ!


「あんたたち、何が聞こえるの?」


楽市に聞かれて、霧乃と夕凪が顔を見合わせる。


「んー、これ、トリクミ?」

「んー、だよなー、これ」

 

「ええっ、あの子たちこんな所でも、やってんの!?

懲りないって言うか、好きだよねえ」


「らくーち、ちがう、がしゃと、がしゃじゃない。

うおーって、言ってる」

「なー、があーって、なー」


「があー? うおー? がしゃ同士じゃないのっ!?」


がしゃたちには声帯が無いので、叫ぶなど有り得ないのだ。

そのうち、パーナとヤークトも音を捉えた。

ヤークトが、獣耳をパタパタと動かして感心する。


「やっと、聞こえてきました。

キリさん、ウーナギさん、本当に耳が良いんですねっ」


ヤークトにも、褒められてしまったっ。


「あははっ、きりに、まかせてっ!」

「ちがう、うーなぎにも、まかせろっ! へへへ」


その後ようやく朱儀、豆福、楽市も音をとらえる。


「わー、きこえたっ、がおーって、いった!」

「がおー、がおー、わーっ!」


楽市は目を閉じて、獣耳をすます。

確かに何かが吠えている。

それも、一体や二体じゃない。


時たま聞こえる鐘の音は、がしゃの打撃音だ。

一体がしゃは、何と戦っているのか?


「何これ、すっごい嫌な予感がする……」


角つきが霧乃と夕凪の指示で飛び、楽市が少し離れた場所に降ろさせる。


「がしゃ、ここら辺に降りて。

そこから、少しづつ近付こう」


角つきが音を立てないように、翼の力場を調整しながら、霧の中を垂直に降りていく。


足下にうっすらと、林が見えてきた。

それは楽市たちが知るような木々ではなく、少し病的に感じさせる陰鬱な林だ。


眼窩から覗く楽市は、奇妙な物を見つける。

ねじくれた木々に、何か白い物が引っかかっているのだ。

「あれは……?」


近付くに連れて、ハッキリと見えてくる。

楽市は降りると同時に、角つきへそれを拾わせた。

頭蓋まで持ち上げられた物を見て、楽市は呻く。


「何て、ことを……」


握られていたのは、獣型がしゃの前足だ。

肘から上が切断されており、切り口が妙にささくれていた。


「わーっ、がしゃの、手だっ!」

「なんで、木にあんのっ!?」

「らくーちっ!」 ゾクゾクゾクッ

「わーっ、わーっ!」


霧乃たちが騒ぐ中、楽市はさらに目の当たりとする。


ずるり……、ずるり……、ずるり……


角つきの足音に気付き、霧の向こうから獣型がしゃが這いずってくる。

獣がしゃは腰骨から下半身を断たれ、前足を失っていた。


角つきが抱きかかえると、獣がしゃには鼻先がない。

その酷くささくれた断面を見たとき、楽市の視界が赤く染まり、こめかみで小さな音が弾けた。


ぷちーんっ


   

    *



ジリ貧である。


シルバーミストは巨大スケルトンと、幽鬼の連携プレイを掻いくぐり、がしゃを一体、また一体と行動不能に貶めていく。


一撃で仕留めるのではなく、がしゃたちの攻撃をミスト化で(かわ)しながら、まず相手の足を狙う。


ナイフで何度も、浅く切りつけるように攻撃する。


巨大なかぎ爪や水流ブレードで、

がしゃの膝を、

脛を、

つま先を切りつける。


執拗に切りつけたあと、まとめて尾の薙ぎ払いを食らわすと、がしゃたちの足がポキリと折れた。


そうして行動不能にさせておいて、次のがしゃに襲いかかるのだ。

息の根を止めるのは、全てのがしゃを動けなくしてからでよい。


そうやってシルバーミスト側は、一体も欠けることなく、がしゃたちを追い詰めていく。


巨大スケルトンが次々に動けなくなり、幽鬼だけが残されていった。


幽鬼の相手に取り憑く精神攻撃や、その身から溢れる瘴気は、ドラゴンならではの強靭な身体と精神力で弾かれてしまう。


スケルトンタイプのがしゃは、残り五体。

五体はジリジリとシルバーミストたちに、一ヶ所へ追い立てられていった。

 

がしゃたちは、互いの背中をかばいながら小さな円陣となる。

構える手や踏み込む足は、傷だらけだ。

その周りを、幽鬼たちが何重にもガードした。


シルバーミストは勝利を確信したのか、足元に這いつくばる人型がしゃを、持ち上げて切り刻む。

残る奴らへ見せつけるように、水流ブレードで切り裂いていった。


がしゃを取り囲むドラゴンたちが、力場を発生させた翼の出力を一斉に空ぶかしする。

周りの霧が白銀の足元へ、勢い良く叩き付けられて乱れに乱れた。


全シルバーミストで一気に突っ込み、終わらせるつもりなのだ。

シルバーミストのつま先がフワリと浮かび上がり、一斉に飛びかかろうとしたその瞬間。


横手から彼らの力場を吹き飛ばさんばかりに、豪快な風が叩き付けられた。

がしゃたちを含め、その場にいた全巨獣が振り向く。


巨獣たちが見つめるその先には、地表でうごめく、


ドス黒い太陽があった――

















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