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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第3章 カルウィズ天領地
170/683

170 霧深い林で、なんかきこえる。


“穴を空けてやったぜ!”と、喜び跳ねるスターゲイジー。

その枕元に、ぶっとい白銀の足が降り立った。


ズウウウウウウンッ

ズウウウウウウンッ……


一つや二つじゃ無い。

数多くの足が、大地を踏みしめる。


――かこまれた、ギョギョッ?


そう思った時には、既に遅い。

扁平な頭を持ち上げて霧の中を見回せば、そこら辺に散らばっている兄弟たちへ、数体づつヘンテコな奴が群がっていた。


そいつらはスターゲイジーが、この世で最も忌み嫌う“生命”というやつを、ギラギラさせてこちらを覗いている。


――ゆるせんギョギョッ!


スターゲイジーは、生者へ鉄槌を下すべく立ち上がろうとする。

しかし背骨が、ぐんにょり曲がって立つことができない。


――ギョギョーッ!?


魔力酔いである。


自身を高速回転させて射出する、スターゲイジー最大の物理攻撃は、大変に威力あるものだ。

しかしいかんせん、一発撃ったら魔力切れなのであった。


ピチピチと跳ねていたのは、実のところピチピチしか出来なかったからである。


何度起き上がろうとしても、立つことができない。

自慢の蹴りを繰り出そうとしても、首がすわらない。


スターゲイジーを取り巻くヘンテコな奴らが、ゆっくりと口を開き、彼へ向けて大量の水を浴びせさせる。


スターゲイジーは何だそれと、その攻撃を馬鹿にしたが、すぐに彼は静かになり動かなくなった。

六兄弟すべてが、水を浴びせられて動かなくなる頃、黒妖門をノックする音が響く。


ゴオオオオオオンッ


そのノックは次第に数を増し、乱れ打ちとなった。

絶え間なく打ち鳴らされる音に、シルバーミスト・ドラゴンは、その赤黒い瞳をギラつかせる。



    *



霧が立ち込める中、黒妖門が重苦し気に開いていく。

高さ六十メートルの、大門である。


黒妖門を打ち壊そうとしていた、がしゃたちがそれに気付き、我先にと門へ入ろうとする。


すると僅かに開いた門から、数条の水流が飛び出し、先頭の人型がしゃに当たった。

水流は盛大な水しぶきを上げており、がしゃがそれを遮ろうとする。


しかし出来なかった。

水流により、がしゃの腕が落ち鎖骨と肋骨が断たれ、頭蓋や大腿骨も切断された。

あっという間に、身体がバラバラである。


水流はシルバーミスト・ドラゴンの口腔から、超高圧で放たれる水の刃だったのだ。


しかし距離が開くと水圧が拡散して、威力は減衰するようである。

少し離れたがしゃに当たっても、水しぶきが上がるだけで、切断することが出来なかった。


ドラゴンのブレス?としては、いささか派手さと威力が欠けているように見える。

だがシルバーミストとしては、これで充分だった。


開いた門からゆっくりと、一体のシルバーミストが現れた。

身長としてはシルバーミストが頭一つ分、がしゃたちより高い。

 

その白銀のドラゴンは悠然と構えて、巨大スケルトンたちを睨み付ける。

がしゃたちは、もうその態度が気に入らない。

生命力をギラギラに溢れさせているから、とっくに気に入らない。


人型がしゃ四体が、同時に襲いかかる。

シルバーミストは、全く避けようとしない。

がしゃたちは、“はかばー”で鍛えたガチガチの拳を、シルバーミストの顎へ叩き込んだ。

 

がしゃたちの拳が顎や鼻づらに当たった瞬間、その頭部が消失した。

しかし、がしゃの拳が破壊したのではない。


シルバーミストの頭が、霧の中に溶け消えたのだ。

頭の無いドラゴンが平然とたち、身をひるがえして太い尾で、がしゃたちを薙ぎ払った。


がしゃたちが盛大に吹き飛び、後続のがしゃを巻き込んで、ゴオン、ゴオンと鐘の音を鳴らす。


四足獣がしゃが間髪入れずに、シルバーミストの左側から襲いかかった。

白銀のドラゴンは、それをガッチリ両手でキャッチする。

太い腕が、暴れる四足獣がしゃを離さない。


すると霧散していた頭部が瞬時に戻り、その口から超高圧の水流ブレードが吐き出された。

四足獣がしゃは、上から下まで縦に割られて、ドラゴンの足元に崩れ落ちる。


シルバーミスト・ドラゴンは、瞬時に肉体を霧へ切り替えることができ、相手の物理攻撃を完全無力化するのだ。

 

そして一瞬で肉体を戻し、相手をぶん殴る。

あるいは至近距離から、水流ブレードを食らわせ細切れにする。


シルバーミスト・ドラゴンは、ガチガチのインファイタードラゴンなのだった。


黒妖門がさらに開いていき、そこから何体ものシルバーミストが現れた。

その数は、優に三十体を超えるだろう。


全シルバーミストが己の大切な物を奪われた怒りで、赤黒い瞳を燃え上がらせている。


シルバーミストたちは翼に力場を発生させ、ホバー走行で一気に間合いを詰めた。


鈍重な見た目とは真逆の機動性に、がしゃたちの反応が数舜遅れてしまう。

シルバーミストたちの顎が開き、水流ブレードが一斉掃射される。


その時――


複数の巨大幽鬼が、自身を幕状に展開させて、両者の間に滑り込ませた。


水流ブレードは幽鬼の幕にぶち当たり、派手な水しぶきを上げながら貫通。

そのまま後ろの、がしゃたちへと命中した。


しかし幕一枚隔てただけで、水圧が分散されて、がしゃたちを切断する事ができない。


幽鬼の体に穿たれた穴は、幽鬼が身を一つ揺らすだけで塞がっていった。


霧深い林で巨獣どうしの、壮絶なインファイトがここに始まる――



    *



順調に飛んでいる、角つきの体が急にガタガタと揺れた。


「がしゃ、どうしたの?」


楽市が編み物を止めて、眼窩から外を見る。

しかし見たからと言って、何も分からない。


少し前から霧の立ち込める場所へ入り、地上も空も真っ白なのだ。

これでは、千里眼も使えない。


一緒に編み物をしていた霧乃と夕凪が、急に獣耳をパタパタと動かし始めた。


「あれ? うーなぎ、なんかきこえる?」

「うん、なんかきこえる」













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