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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第3章 カルウィズ天領地
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167 真っ赤に輝き、ピチピチと跳ねる。


巨大アンデッド・がしゃの眼窩には、たとえ霧で視界が悪かろうと、青い光点がハッキリと見えていた。


陰鬱な林に住む獣たちは、がしゃたちが近づくにつれ、見る間に生命の輝きが減衰し、消えかける寸前まで弱くなる。


その中で、ダークエルフの命だけは光を損なうことなく、がしゃたちの前で憎々し気に輝いていた。


光点は無数に(きら)めき、まさに地上に横たわる天の川だ。

東へ進むほどに天の川は、別の天の川と合流して大きくなっていく。

それと同時に、がしゃたちもまたそうだ。


追いかけるほどに、あちらから一体こちらから一体と、はかばーの顔なじみが増えていった。


気持ち的に言えば旅先でバッタリと、仲間に会ったという所か?

がしゃたちのテンションは、憎しみとはまた別の、盛り上がりを見せていた。


さあ、みんなで一狩りいこうっ! である。


そんなテンションを、台無しにする輩が現れた。

いや、“現れたようだ”と言った方が正確か?


がしゃの視覚に移る天の川が、急に乱れ始めたのだ。

天の川に幾つもの黒い空白が、ポッカリとできる。

 

そこから光点が一つ、また一つと、消えていくのだった。


それは、生者の死を意味している。

そのうち天の川が乱れに乱れて、一斉に空へ飛び立っていった。


飛び去る光はしばらく飛んでいたものの、次々と力尽きたかのように、落ちてしまう。


落ちた先では光がすっかり弱くなり、ポツポツと消えるものもある。

がしゃたちは、仲間内のテンションがすっかり冷めてしまった。


その悲惨な光景を見て、呆然とたたずんでしまう。

そして、がしゃたちは皆思うのだ。

それを、言葉に置き換えれば、


――何してくれてんだコラッ! である。


どこの誰だか知らないが、折角の楽しみ(憎しみ)を邪魔する奴らがいる。


――その悲惨な光景は、俺たちのものだろっ! 


そうがしゃたちは、思ったものだ。


こうして奇妙なことに、がしゃ軍団は現場に駆けつけて、ダークエルフを助ける“援軍”となったのだった。

自分たちの楽しみ(憎しみ)を守るため、巨大アンデッドが黒妖兵へ襲い掛かる。


この間ダークエルフなどは、そっちのけとなった。

これはダークエルフにとって、絶望中の幸いと言えるだろう。


チャンスだ、ダークエルフっ!

逃げろダークエルフっ! 地の果てまでっ!



    *



その頃――


カルウィズ天領地の奥まった地に建つ宮殿では、イースたち三人が影と共に、空中に出現させた魔法の鏡、“遠隔視(ふぁぶる)”を見つめていた。


それを使い、黒妖門の戦闘を眺めようという訳である。

ゴンゴンゴンと鳴る戦闘音だけでは、想像を搔き立てられて、ヤキモキしてしまうのだ。


四人でジッと鏡を見つめる。

しかし、鏡に映るのは白い霧のみ。

影は手を一振りして、魔法の鏡を消した。


「んー、全く見えないね。

さすが、カルウィズの霧だね」


影がガッカリしているのか、していないのか、良く分からない感想をのべる。

それに対して、イースは何も言うことはない。


そうしている間にも、相変わらず霧の向こうから鐘の音が聞こえてくる。

影が苛立たし気に、頭をゆらした。


「んー、これじゃ、つまらないな。

少し薄くするかあ」


そう言って影は、空に向かって手をかざす。

すると周りの霧が、少しづつ晴れてくるのだった。

イースたちのいるテラスから、うっすらと黒妖門のシルエットが見え始める。


「これは……ただの霧では、ないのですね」

「んー、まあね、詳しくは言わないよ」


辺りの霧は薄くなっているのに、影の周りだけは濃いままだ。

それも影が、調節しているのだろう。

イースの硬い表情を見て、影が笑う。


「ふふふ、んーそんな心配そうな顔を、しなくても良いと言うのに。

霧が少し晴れたからといって、どうこうはならないよ。

ここの防衛を信じなよ。

 

詳しくは言わないけど、門自体には色々と、防衛魔法が施してあってね、

まずここを、壊せる者はいないよ。

  

それにね詳しくは言わないけどね、だからと言って門を飛び越えても無駄なんだ。

入ろうとすれば空間がねじ曲がって、元の外へ出てしまうんだよ。

くくく……」


詳しく言えないと言っておきながら、黒妖門自慢が止まらない。


「くくく……だからさ上空から攻撃なんてしたら、それが全て自分に跳ね返ってしまうのさ。

あっ、詳しくは言えないよ。それでね……」


カーーーーーーンッ!


「んー?」


折角の黒妖門自慢を、邪魔する音が響いた。

それは甲高く硬質で、空高く突き抜けるような音。

それが、カルウィズの谷中に響いていた。


「んー、今度は何の音だね? イース・エス?」

「ぼ……私にも分かりません」

 

「ああっ、あれを見てイースっ!」


リールーがイースの袖を引き、薄く晴れた先にある黒妖門を指さす。


黒妖門は変わらずに、黒くのっぺりした表情を、霧の向こうから見せていた。

しかし、一か所だけ違う所がある。


小さな小さな、丸くて白い模様が一つ。

その、のっぺりした表面に、丸い模様が一つ現れているのだ。

イースたちの場所からでは遠くて、ただの点にしか見えない。


「あれは……穴?」


イースのつぶやきに、影が強く被せた。


「そんなはず、無いだろっ」


影は苛立ちながら、再び“遠隔視(ふぁぶる)”を出現させる。

影が鏡を覗くと、それは確かに穴だった。

門の真ん中に、直径八メートルほどの穴が開いていた。


裏側から陽光が、霧の粒子へ複雑に反射して、穴をぼんやりと白く浮き立たせている。


そして影は、奇妙なものを見た。

穴から少し離れた地表に、巨大な魚の骨が転がっているのだ。


それは、頭部が真っ赤に焼けて輝き、

  

ピチピチと跳ねていた――















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