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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第3章 カルウィズ天領地
162/683

162 イースとサンフィルドの手


かぽーん


カルウィズ天領地にある宮殿の一つ。

そこに施設された大浴場で、リールーは肩まで湯船に使っていた。


人肌のぬるめな湯に包まれて、ほうっ……と息を吐き、こめかみから汗をながす。


天然白マフル石をふんだんに使った浴場は、バカみたいにデカく無駄に凝っている。

領主の趣味もあるだろうが、ここに迎えられた客人を驚かせるためだろう。


執拗に細やかな彫刻が、ゴテゴテと盛られている。

ただただ、対外的な見栄だけで作られたような浴場だ。


その全体像は湯けむりと、どこからか入ってくる霧によって、白くぼやけて良く分からない。


リールーはお団子にした銀の髪を、苛立たし気に揺らしている。

両脇に浸かっている、イースとサンフィルドの手の平を、細い指先でカリカリと引っ掻いていた。


別に、男の手を引っ搔く趣味はない。

手の平へ、文字を書いているのだ。

今はちょっと、声を出して話したくない。

どこで誰が聞いているか、分からないからだ。


リールーは両手で器用に、男たちの大きな手へ苛立ちをぶつけていた。


(こんな時に、避暑地でのんびりってどういう事?

何を考えているの!?)



現在ソービシル国家連合では、北の魔女が放った、凶悪な巨大アンデッド軍によって、多くの小国家が崩壊しかかっている。


それなのに中央の王族たちは、霧深い避暑地でバカンスなのであった。

これは一体どういう事かと、リールーは大変に腹を立てる。


リールーの手の平に今度はサンフィルドが、長い指の先で文字を返した。


(仕様がないだろ。

ど田舎での獣人の武装蜂起なんかで、王族がビビる訳にもいかねえよ。

これでビビって、夏の養生を取り止めなんかしたら、それこそ、国家の面子が崩れるって)


(はあっ、ど田舎の武装蜂起?

化け物じみたあれが、ただの武装蜂起っ?

サンフィルドっ、目の前で見といて、そんな風に感じていたのっ!?)


(いや違う、俺じゃなくて中央だよっ。

中央の奴らは、恐らくその程度の認識しかねえんだよ)


(なんでよっ!)


(それが、貴族ってもんだろ?

五〇〇〇年、太平が続いてんだ。

俺たちみたいに、目の当たりにしなきゃ想像できねえって、こんな事態)

 

何もかも上手くいっている、ダークエルフの社会。

それが、五〇〇〇年続いているのである。

 

この裏付けによって、王族・貴族たちは、これからも未来永劫ダークエルフの栄華が続くことを信じて疑わない。

疑う余地が全くない。


そんな中、辺境で争いが起きたからといって、自分にまで繋がる出来事だとは、どうしても思えないのだ。


(あたしたちの報告を、読んでないっての!?)


(知るかよ。

そういった細々としたことは、家臣の仕事だろ?

読んでねえよ多分)


(あー、腹立つ、すっごい腹が立つっ!)


そう書きなぐって、リールーはサンフィルドの細身の肩を、バンバン叩いた。


「痛てえって、何で俺が叩かれんのっ!?」


サンフィルドは、思わず声が出てしまう。

イースがそっと、リールーの柔らかな手の平に文字を書く。


(リールー落ち着いて、報告書はたぶん読んでいるよ。

だから僕たちが、ここへ呼ばれたんだと思う)


(なら、良いんだけどね……でも)


リールーはまだ納得しておらず、むくれたまま湯船から立ち上がった。

褐色のなめらかな肌から、湯の雫が流れ落ちる。


雫が指先から玉となり、また湯船へ戻っていく。

まあ男たちは指先など見ずに、濡れてテカテカの丸い尻を、眺めていたわけだが……


リールーはザブザブと歩き、湯船の中を突きって行く。

イースたちは、湯船の一番奥まった場所に浸かっていたのだ。

ハニーブラウンのくびれた腰と豊かな尻が、湯けむりの中へ溶けるように消えていった。


それを愛でてから、サンフィルドがイースの手の平へ文字を書く。


(俺たちに直接聞きたいことって、何だよ?)


(さあ、何だろうね。

ちょっと気が重いよ僕は)


(おっ、一緒に痩せるか?)

(いやだよ僕は)


イースとサンフィルドが、お互いの手の平に書き合っていると、白い湯気の向こうから二人を呼ぶ声が聞こえた。


これから謁見の時間までに、身支度を整えなければいけない。

リールーはむくれながらも、宮殿側で用意された紅いドレスを、楽しみにしているのだ。


二人は肩をすくめて、湯船から立ち上がった。

リールーと同じように、湯船の中を突っ切る。


イースとサンフィルドの褐色の背中が、湯けむりの中に消えていった――









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