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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第3章 カルウィズ天領地
161/683

161 がしゃ6兄弟、心の中で一言だけしゃべる。

 

大陸に点在する各都市から、巨大スケルトンに追い立てられたダークエルフ軍が、東へと撤退していく。


撤退する先は、鉄壁の護りと言われる、


カルウィズ天領地――


ベイルフから東北東へ、百二十キリルメドルの地にある、スエスエム山脈。

この南北に縦へ伸びる、山々の南端に、カルウィズ天領地はある。

 

南端は二股に分かれており、ちょうど“ハの字”の形となっていた。

その“ハの字”の内側に、避暑地として王族たちの宮殿が、数多く点在しているのだ。


辺りは一年中、霧が発生しており視界が悪い。

ダークエルフ軍が急ぎ進む林は、昼時でも霧のため日射量が足りず、細くねじくれた木々ばかりだった。


木々も霧ばかりの朧気(おぼろげ)な世界では、どちらに伸びて良いのか分からず、ねじくれるしかない。


兵士たちの踏みしめる地面も、まともな草木は生えず苔ばかりだ。

苔はやたらと水分を含み肥大しており、兵士が踏みつける度に、爪先がグショリと濡れて滑る。

 

軍は後方の部隊を、少しづつ巨大スケルトンに弄ばれながら、陰鬱(いんうつ)な林を進む。


すると突然に林が途切れて、霧の中にそびえるほど大きな壁が立ち現れた。

壁は漆黒で、霧の中でもハッキリとその威容がうかがえる。


軍の行くてを阻むこの壁は、まさに彼らが求めていた、庇護を与えてくれる場所だった。


――カルウィズ天領地の黒妖(こくよう)


その壁は、“ハの字”に開かれた地形の南部分を、全て塞ぐように東西へ伸びている。


壁の高さは、一般的な城壁の三倍はあった。

使われている石材は、地下五万二千メートルの溶岩近くに生成される、黒妖岩(こくようがん)だ。


滑らかでガラスのような光沢をもち、その強度は並みの石材の比ではない。



漆黒の壁には、中央に上から下まで、城壁がそのまま開く巨大な門があった。

ダークエルフ軍は、庇護を求めてその門を叩く。


「カルウィズの方々よ、聞こえているであろうっ、ここを開けられよっ!

我々はシーヒープ公国軍である。

 

我々は公国君主ホーン・ライルド・ジェラル大公殿下、そしてそのご家族をお護りして、ここまでお連れして参った。

至急ここを開けられよっ、ここを開けられよっ!」


しかし、門からは全く反応がなかった。

軍の将がいくら石壁を叩いても、ペシペシと情けない音がするばかり。

石壁を叩く右腕にはめられたバングルが、じわじわとその輝きを増していく。


「ぐっ……!」


シーヒープの将は、青ざめて後ろを振り返った。

彼だけではない。

軍全ての者が、後ろを振り向く。


振り向いても、霧に遮られて何も見えはしない。

しかしバングルの青い輝きが増すということは、迫りくる巨大スケルトンが、更に近づいた事を意味していた。


ダークエルフたちは、背後から迫る死の恐怖で、もう心が保てなくなってしまう。


ここまで辛うじて保ってきた、軍の秩序をかなぐり捨て、好き勝手に飛空魔法を使い、黒壁の向こう側へ逃れようとした。


しかしその度に、見えぬ角度から放たれる雷撃によって、撃ち落されていく。


黒妖門の防衛網が容赦なく、ダークエルフ兵を消し炭にしているのだ。

壁沿いにびっしりと詰まったダークエルフたちへ、仲間だった破片がパラパラと降り注ぐ。


仲間の死を目の当たりにして、黒壁を越えたくても越えられぬ兵が、無駄に空中を右往左往し、魔力が尽きて落ちていった。


飛空魔法は継続的に魔力を使うので、一般兵では五分もすれば、魔力が底を尽いてしまうのだ。


またある者たちは、ここまで我慢していた転移魔法を使い、中へ入ろうとする。

 

しかし巨大スケルトンの放つ瘴気と、黒妖門が防衛として、常時展開する転移阻害の魔法により無力化されてしまう。


阻まれた彼らが、再びこの世に現れることは無かった。



    *



六体のがしゃは、霧が立ち込めようと気にはしない。 


元から“肉眼”で、この世を見ている訳ではないのだ。

アンデッド独特の視野には、霧の中でも無数の青白い光点が、天の川のように広がっていた。


光点一つ一つが、憎き生者どもなのだ。

何やら壁に阻まれて、行き場を失ったらしい。


がしゃたちはこれを好機とみなし、縦一列の行軍を、横一列に切り替えて一斉に襲い掛かった。


がしゃ六兄弟は、心の中で叫ぶ。



――大漁ギョギョッ!











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