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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第3章 カルウィズ天領地
159/683

159 渦巻く空へ、小さな手をかざす。

 

気になるのは、楽市だけではない。

豆福がしゃがみ込み、何やらやっている。


そして――


「あのキリさんや、ウーナギさんは一体……?」


他の子供たちの姿が、どこにも見えないのだ。

ヤークトが尋ねると、楽市が力なく笑った。


「あー、あの子たちなら、あたしの中に避難しているよ」

「ひなん?」


「うん、えっとね、先に二人へ謝っておこうかな。ごめん」

「え?」

「何が、でしょうか?」


パーナとヤークトは、突然謝られて戸惑ってしまう。

楽市が、悲壮な表情で続けた。


「あたしはここから、逃げる訳にはいかないんだ。

豆福を一人に、したくないからね。

そして二人には、一度知っておいて貰った方が、良いと思って……」


「知ってもらうですか?」

「これから何か、なさるんですか?」


「うん、少し前から始めているから、もうすぐだと思――」


楽市は言い終わる前に、角つきを凝視する。

パーナたちを降ろし、しゃがんだままだった角つきが、ゆっくりと立ち上がっていた。

 

そして西の方角を、ジッと見つめ始める。

楽市はその様子を、引きつった顔で見ていた。

楽市の獣耳がぺたりと伏せられ、尻尾が内側に丸まってしまう。

 

「あの、ラクーチ様?」


ヤークトが楽市を心配して、近寄ろうとしたとき、彼女の足元で何かが走り抜ける。


「えっ、今のなにっ!?」


そこで、しゃがんでいた豆福が、拳を振り上げ立ち上がるのだった。


「きたーーーーーーっ!!」


ヤークトの前で、楽市が何かを諦めたように、うな垂れて目を閉じる――



    *



ガツンッ ドカンッ バカンッ


角つきが楽市たちを守るため、両手でドームの形を作り、楽市たちの上にかざしてくれた。

ちょっとした、骨の屋根である。


ドカンッ ドドンッ びたんっ


先ほどから聞こえる打撃音は、その屋根を打ち据える音だ。

複数の太く黒い蛇のようなものが、身をしならせ骨の手を叩く。

 

しかしそれは別に、楽市たちを襲っているわけでは無い。

ただの反復運動である。

だから安心――と言う訳でもない。


パーナとヤークトが、無数の黒い玉にたかられて、屋根の下で悶えていた。


「むぐーっ!」

「むぐぐーっ!」


悲鳴が出せないのは、口を開くと黒い玉が入ってくるからである。

悶える体の下では、黒いミミズのような物がネチャネチャしていた。


パニック状態のパーナとヤークトが、屋根の下から飛び出さないよう、楽市が二人の首筋に両手を取り憑かせていた。

楽市も、二人の間でやはり悶えている。


「ふぐっ、ふぐぐーっ!」


両手を取り憑かせているので、たかってくる黒い玉を追い払うことができず、たかられ放題だ。


「ふぐ、ふぐーっ!」

びたんっ ドカンッ バカンッ


「むぐー、むっぐーっ!」

「むぐぐぐぐっ!」

びびたんっ ドドカンッ びたんっ


楽市たちの呻き声と、屋根を乱打する音が重なり合い、それが延々と続くのだった。

壮絶な光景である。

 

するとその前を、豆福がてくてくと通り過ぎた。


暴れる楽市たちを無視して、熱心に黒い草木の育成を見ている。

豆福の顔にも身体にも、びっちりと黒い玉が付いていた。

しかし、気にもしていない。


なんだか黒い防護服で全身を包み、黒い異界を彷徨っているかのようだ。


豆福は地面でのたくる黒ミミズを、優しくつまんで太さを確認する。

ここは北の森から、かなり離れた場所なので、育ちが悪いかもと心配していたのである。

 

だがしっかりと、ベイルフ並みの太さがあった。

北の森は魚がしゃの足跡を伝って、ちゃんと来てくれたのだ。

問題はない。


豆福は陽気に頭を振りながら、黒ミミズを愛おしく撫でる。

骨の屋根を叩く、黒い大蛇にも顔を向け、大いにうなずいてもいた。


豆福は暴れる楽市たちの傍で、横たわる松永に近付きその首筋を撫でる。

松永にも、びっしりと黒い玉がたかっているが、松永も気にしていないようだ。


気にしないどころか、松永の黒い口元がモグモグと動いている。

一体何を、食べているのだろうか?


豆福はしばらく松永を撫でた後、その背によじ登った。

背の上で、仰向けに寝転がる。

骨の天井の隙間から見える、(まだら)に渦巻く空へ、小さな黒い手をかざす。


豆福は、草木の生まれるこの瞬間を、お肉よりも愛していた。


楽市が北の森を“あたしの森”と言うように、豆福もベイルフと、そしてここまで辿り着いてくれた“新しい森”を、自分の森だと感じていた。


自分の森が、増えていく。

自分の世界が、増えていく。


そう思うだけで、豆福の小さな胸が夢いっぱいになるのだ。


豆福はつくづく自分が、草木の妖しで良かったと、幼いながらも思うのだった――



    *



直径四十メートルほどの新生した森の真ん中に、角つきが佇んでいた。 


その頭蓋骨の中では、

楽市、

パーナ、

ヤークトの三人がダウンしている。


そんな三人に、霧乃が労いの言葉をかけた。


「みんな、がんばった、すっごい、がんばった」


やはり霧乃は、優しい子。


他の子供たちは、角つきの眼窩から新しい森を眺めている。


「べいふーと、あんまり、かわんない?」

「まめ、すごいっ!」

「ふふふー」


夕凪は眼窩のフチに顎をのせて見ていたが、おもむろにフチの右側をペシペシと叩いた。


それが合図となり、角つきの顔がゆっくりと右側へ向いていく。

夕凪は身を乗り出して、右の森を見る。

すると森から頭を覗かせていた、魚がしゃがスッと隠れた。

少し待つと、またジリジリと魚の頭が迫り出してくる。


夕凪は鼻から息を吐き、横たわる楽市へ声をかけた。


「らくーち、やっぱり、あいつまだ、いるよー」


「う~ん、そっかあ……」


魚がしゃは帰れと言って追い立てると、ササッと逃げて隠れてしまうのだ。

そうかと思えばまた戻ってきて、離れたところからこちらの様子を伺う。

なかなか、帰ろうとはしなかった。


「あいつ、かえんないよー」


夕凪がもう一度言うと、楽市が骨の床でうなった。


「う~ん、ひょっとして、あれかなー?」

「あれかー」


夕凪が、なるほどなといった顔をする。

霧乃たちも、それぞれにつぶやいた。


「あれだね」

「あーれー」

「れー??」


豆福は、よく分かってない。

一緒にダウンしているヤークトが、楽市に尋ねた。


「ラクーチ様、あれとは何でしょうか?」


「うん、あの子さあ……実は七つ子なんだよね。

やっぱり残りの子たちも、こっちへ来てんのかなー」











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