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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第3章 カルウィズ天領地
158/683

158 激推しパーナ&ヤークト。


連なる峰の一つ。

山頂の岩陰に、巨体の松永が横たわっている。


その灰がかった白いモフモフの横っ腹に、パーナとヤークトが寄りかかり座っていた。

二人とも手足をだらりと投げ出し、ジッとして動かない。


その顔はうっすらと微笑み、目は半開きで焦点が合っていなかった。

彼女たちの意識は、山二つ向こうの戦場へ向けられているのである。


暫くして、ヤークトの瞳に光が戻ってきた。

パチクリと瞬きして、松永の腹に預けていた上体を起こす。

千里眼の術を解いたのだが、表情はまだぼんやりとしている。


自分の手をジッと見つめると、その手は震えていた。

先程まで見ていたものが余りにも凄まじくて、そこから離れた後も身の震えが止まらないのである。


ヤークトの横でパーナも術を解き、上体を起こす。

パーナもまた、震える自分を抱きしめていた。

お互いに目が合うと、鼻息を荒くして微笑み合う。


「ヤークト……私ふるえが、止まらないよ」

「パーナ……あたしもなんだけど」


パーナとヤークトは先程まで千里眼を使い、楽市たちの戦闘を見ていたのだ。

 

二人は、ベイルフでの戦闘を見ていない。

そこでは気絶、そして流れるように死亡したからだ。

だから今回が初めて目にする、楽市たちの戦闘である。


楽市たちの操るがしゃが、尾ビレで襲われる度に、声は出せなくても悲鳴を上げていた。


(キャー、危ないっ、キャーッ!)

(うぐ、ギャーッ、ラクーチ様っ!)


魚がしゃが凄まじい速さで回転し、大気に横倒しの渦を作ったときは、恐怖で心臓が止まりそうになる。

楽市たちが逃げずに身構えたとき、二人は楽市たちの正気を疑ってしまった。


(逃げてーっ!)

(逃げて下さいっ!)


パーナとヤークトが術中に、どれほど叫ぼうとも届きはしない。

魚がしゃが、飛び出すまでの僅かな空白。

その間がとても長く感じられ、気が遠くなってしまう。


そして見事、魚がしゃを受け止めたとき、二人は千里眼の視界がブレるほど興奮した。


(ギャー、ギャー、ラ゛ク゛ーチ゛ ざま゛ーっ!)

(ギャー、はあはあはあ、ギャーっ!)


ゆるキャラの楽市は、正直戸惑ってしまったが、そんな物は些細なことである。




「あー、どうしようっ、私まだ胸がドキドキするっ」

「パーナ、あたしもだよっ」


「ラクーチ様って、すっごい強いねっ」

「うん、びっくりしたっ」


強いと分かっていたつもりだが、実際の戦闘を見て、度肝を抜かれてしまった。

二人は熱く火照る頬に手を当てて、変な間が空いてしまう。

言いたいことがありすぎて、喉につかえてしまうのだ。


パーナが、コールカインをキメたような笑顔をみせる。


「どうしようっ、ラクーチ様ってお友だちみたいに接して下さるから、ついつい普通にお話してしまうけれど、私たち直接お話していいのかなっ!?」


「いや駄目だろう、普通は駄目だろうっ」


ヤークトも負けじと目を見開き、恥じらいつつも尻尾をバタつかせる。


「そうだよねっ!」

「そうなんだよっ」


二人の間にまたムズムズとした間が空き、パーナはもうヤークトに抱きつくことにした。

同時に尻尾も、ワッサワッサと振りまくる。


「パ、パーナっ!?」

「キャー、どうしよう、キャーっ!」


そんな二人を、松永が不思議そうに眺めた。

岩の陰と言っても、夏場は熱い。

多少おかしくなっても、許容範囲だろう。




暫くして、角つきが単体で迎えに来てくれた。

突風をおこし、頂の岩場へ着地する。

狭い岩場で器用にしゃがみ込み、大きな手の平が地面すれすれまで降りてきた。

 

ヤークトたちがその手に乗ると、ゆっくりと上がっていき眼窩の脇で停止する。

角つきは二人と松永を頭蓋内に乗せると、大きく羽ばたき青空へと舞い上がった。


角つきは木々の倒された広場へ降り立ち、乗り込んだ時とは逆の手順で、ヤークトたちを地上に降ろす。


パーナとヤークトは、こちらに背を向けてたたずむ楽市へと駆け寄った。

パーナは、千切れんばかりに尻尾を振り。

ヤークトは、はしたないと思いつつも、振る尻尾が止められない。

 

「ラクーチ様ーっ!」

「ラクーチ様っ」


名を呼ばれた楽市が振り向くと、二人は怪訝な表情をする。

楽市の様子が、何やらおかしい。


どういう訳か、楽市の顔は酷く青ざめていた――













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