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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第3章 カルウィズ天領地
155/683

155 朱儀vs星への眼差し!


角つきを動かす朱儀は、ゆっくりと足元の土砂を握り込む。

 

ここは十メートル級の、木々が生い茂る山の裾野である。

全長二十メートル越えの角つきは、森から顔しか覗かせていない相手に見えるよう、腕を前へ突き出した。


握り込んだ土砂を、パラパラと零す。

それを見て、魚がしゃの頭がピクンと跳ねた。


はかばーの白い砂ではないが、この意味が分からない“がしゃ”はいない。


骨だけの頭だが、魚がしゃの顔つきが心なしか変わったようだ。

尾ビレでぴょんぴょん跳ねながら、これ見よがしに頭を振っている。


魚がしゃは足元の土砂を、尾ビレの先で器用にすくい取り、海老のように体を曲げて跳ね上げた。

角つきと魚がしゃの間へ、綺麗にまき散らしていく。


これぞトリクミ前の、“撒き”と言ったところだ。

楽市が感心する。


(うわー、あの子、綺麗に撒くねえ)

(らくーち、あいつ、まいたこと、あったっけ?)


夕凪が舞い散る土砂を見て、心象内で首をかしげる。


(ううん、あの子これまで一度も、トリクミしてないんじゃないかな?

見る専だったはずだよ。

いつも、はかばーの砂から、頭だけ出して見ていたはず)


(あいつって、つよいの?)


霧乃が聞くと、楽市はうなった。


(どうなんだろ……でも気をぬいちゃ駄目。

幽鬼や獣がしゃみたいに、外に出て色々と力が、開放されちゃってるはずだから。

気を付けてね、朱儀)


(うん……ふふふ)


朱儀は気を付けてと言われて、胸が高鳴ってしまう。

殴る相手は、強ければ強いほどいい。


朱儀は角つきの右足をずらし、半身に構えた。

両腕をだらりと下げ、腰を軽く落とす。

待ちの構えである。


相手の手の内が分からない間は、無暗に突っ込まない。


これはトリクミにおいての慎重さというよりも、こちらから仕掛けて、一撃で終わってしまうことを何よりも恐れたからだ。


朱儀はこの緊張感を、少しでも長く味わいたい。

魚がしゃを見つめながら、楽市に声をかける。


(らくーち、おねがい)

(はいよ)

 

楽市は出来るだけ、森を枯らさぬようにしながら、角つきへ瘴気を巡らせた。


プシュー


(うひょ)

(いひひ)

(んふふ)

(ふあー)


瘴気は角つきの各関節に、つむじ風を吹き込むように行きわたり、なめらかな体の動きを、実現してくれる。


これがあると無いとでは、体の反応が段違いなのだ。


巨大な手足の重量と、末端まで神経を行き渡らせるサポートは、姉二人が行ってくれる。


これもまた巨大ながしゃを動かすには、無くてはならないものなのだ。


(ふふふ)


豆福の送ってくれる土の味は――うん、とっても面白いと思う。

朱儀はつくづく、自分が鬼で良かったと感じた。


鬼でなければこの役回りは、任されていないだろう。


朱儀は考える。

いつかこの力を使って、全力で敵を殺してみたいと――



 

(ん?)

 

朱儀が高揚感に浸っていると、目の前の魚がしゃに変化が生じた。


尖った頭をこちらに向け、尾ビレを浮き上がらせる。

地面に対して水平となった。

ちょうどナイフの切っ先を、こちらに突き付けているような状態だ。


陽の光が全身に当たり、白く輝いている。

角つきと魚がしゃの対峙する距離は、四十メートルといった所か。


朱儀が緩やかな裾野を横へ移動すると、魚がしゃはその切っ先をピタリと合わせてくる。


(あの子、あんな事できたんだ?)

(あれ、ぜったい、つっこんでくるよ)


楽市が感心していると、霧乃がみんなに注意をうながした。

朱儀が見つめる前で、魚がしゃがフッと木々の中に沈んだ。


(あっ、きえたっ!)

(あいつ、めんどくさいぞっ!)

(ぞーっ!)


霧乃と夕凪はそう言いながらも、完全に相手の位置を把握していた。


朱儀へ魚がしゃの位置情報を、リアルタイムで送り続ける。

魚がしゃは体を蛇のようにくねらせて、木々の間をすり抜けていた。


――ひだりから、くるっ


朱儀が相手のスピードに合わせて、右の拳を斜め下へ叩き込んだ。

しかし拳は空をきる。


(!?)


その瞬間、朱儀は喉元にヒヤリとしたものを感じ、一気に後ろへ飛んだ。

すると今まで首があったところへ、魚がしゃの尾ビレが、カミソリのように通り過ぎる。


魚がしゃは突っ込んで来ると見せかけて、手前で急ブレーキ。

そこから海老のように体をまげ、朱儀の首めがけて“回し蹴り”を食らわせたのだ。


尾ビレの軌道に合わせて、数十本の木々が斜めに切り倒される。

勢い良く飛びすさった朱儀は、背中で多くの木をへし折り態勢を立てなおす。


(ぷはっ)


朱儀は、心象内で止めていた息を短くはいた。

その脇で楽市と姉妹たちが、てんやわんやだ。


(やばいっ、やばいっ、やばいっ!)

(あいつ、ヤベーやつだっ!)

(だーっ、あーっ!)


豆福もビビりまくり、木が倒れたといって怒る余裕などなかった。


(ふああ、あれだよっ!

最初に頭の先っぽ見せたの、ワナだったんだっ。


こっちに突っ込んで来ると、思わせたんだよっ!

朱儀がパンチして、態勢低くしたときを狙って、首を切りに来たっ!)


皆がパニックになる中、朱儀は堪え切れず笑い出してしまう。


(あははは)


(あーぎっ?)

(あーぎっ?)

(あーっ?)

(朱儀っ?)


魚がしゃの、透き通った殺意がたまらない。


――こいつは、すごいっ


朱儀はつくづく、鬼の妖しで良かったと感じてしまう。










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