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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第3章 カルウィズ天領地
152/683

152 それじゃあ、みんなで、いただきますっ


地表を泳ぐ「魚型スケルトン」が、この世界には存在する。

そのアンデッドは身体を縦にして、尾ビレを引きずりながら天を向く。


この世界で星への眼差し(スターゲイジー)と呼ばれる、レアなスケルトンである。


通常は体長十五センチ程しかなく、最弱スケルトンの一つだが、はかばー産のスターゲイジーは優に体長十五メートルを超える。



月明かりの夜。

スターゲイジーは巨大な尾ビレを引きずりながら、ツァーグの城壁に体当たりをした。


鐘の音のような激突音を響かせて、城壁をいともたやすく破壊してしまう。


その破片は内側へ吹き飛び、一メートルを超える城壁の石材が、ツァーグの民家へ雨のように降り注いだ。


ツァーグに駐屯していたダークエルフ軍には、千里眼が配属されていない。


そのためスターゲイジーの発見が遅れて、一般獣人への通達が後手にまわり、街へ降りそそぐ石材の雨が、警報がわりになってしまう。


軍による攻撃魔法が、街の夜空に色とりどりの光の軌跡を描き、スターゲイジーに着弾する。


火属性、

聖属性、

強酸の魔法。


的がデカイだけに、アンデッドに有効とされる魔法が面白いように当たった。


しかしスターゲイジーは鳴くことも無いので、攻撃魔法が効いているのかどうか、いまいち良く分からない。


ダークエルフ軍に配属されている、アシュ・ラ級ストーンゴーレム十七体が、スターゲイジーに襲い掛かる。


体長三メートル程のストーンゴーレムは、腕が六本あり、それぞれに巨大なミスリル製の戦斧(ハルバート)を持つ。


岩をも断ち切るそのパワーで、アンデッドへ果敢に接近戦を挑んだ。


しかしスターゲイジーは、その巨大な尾ビレを(ほうき)のように使い、ストーンゴーレムを掃いて吹き飛ばしてしまった。


尾ビレの当たる衝撃で粉々になったストーンゴーレムたちは、民家に突っ込み、民家の瓦礫と混じり分からなくなってしまう。


すると、ダークエルフ軍はどうしたか?

獣人たちを置いて、逃げたのである――



    *



楽市たちは獣人兵から情報を抜き出したあと、ツァーグの街を出た。

角つきがしゃの元まで戻り、近くの河原で一休みする。


「うふふっ」

「いひひっ」

「へへへっ」

「ふあーっ」


「ちょっと、あんたたち……くふふ待ちなさいよ……うふふふっ」


ランタン代わりに狐火を浮かばせて灯りを確保すると、楽市たちは松永にくくり付けていた大量のお土産を、河原へいそいそと並べ始めた。

 

辺りには焼いた肉の匂いと、様々な香辛料の香りが広がっていく。

楽市と妖しの子たちのテンションが、明らかにおかしい。

 

「やばーいっ!」

「らくーち、どうしよう、これーっ!」

「これ、おにくなのっ!?」

「おーにーくーっ!」


「ぐす……あんたたち、ちゃんと頂きますしてからでしょ……ぐすっ」


楽市などは何か熱いものがこみ上げてきたようで、鼻声になっている。

楽市の心情が理解できないパーナとヤークトは、正直言ってドン引きした。


「あの、ラクーチ様、大丈夫ですか?」


ヤークトが恐るおそる伺うと、楽市が潤んだ瞳をクリクリさせうなずいた。


「うん、だいじょうぶっ」

 

その表情が小動物のようで、ヤークトは――あ、ラクーチ様かわいい――などと思ってしまう。


河原にはツァーグの屋台で買った、様々な肉料理が並べられていた。

傍で丸くなる松永の前にも、羽をむしられた焼く前の丸鶏が、十五羽置かれている。

 

松永は口の端からよだれを垂らしながら、楽市の合図を待っていた。

松永は、けっこう律儀なのである。


これらは全て、三人の獣人兵の(おご)

りだ。


三人の財布が、空っぽになるまで奢ってくれた。

まあ進んで奢ったかどうかは、分からないが……


 

 

ツァーグを出る前に、楽市は獣人兵の一人と腕を組んで、屋台をまわっていた。


屋台の親父さんが奇怪な服を着た、とんでもない美人に目を丸くすると、その美人が獣人兵の腕を引き寄せニッコリと笑う。


「おじさん、こんばんわ」


腕を組まれた獣人兵の頬が、謎の力で強制的に赤く染まった。


他の二人の獣人兵も、子供たちと両手を繋ぎながら、謎の力で強制的に顔を赤らめていた。

こっちはちょっと、犯罪案件ぽい。


松永を連れていても、その横で獣人兵がデレデレして、美女と腕を組んでいると大分印象が違ってくる。


街の獣人たちは警戒心が薄れて、ただの野次馬の目になった。


さらに霧乃たちと手を繋いで、顔を赤らめる獣人兵など見たときには、眉をひそめて獣人兵をにらむ者も出てくる。


こうなるともう、松永よりも獣人兵に目が言ってしまうのだ。


屋台の親父さんは獣人兵たちに「まったく、こいつらは」と言った、視線を送りながら商売に徹した。


積極的に、何でもかんでも買わせようとする。


楽市もそれに乗っかり、アレコレと注文しまくった。

楽市はそうやって何件もの屋台を、はしごして行ったのである。 

 


その成果が、いま河原に広げられていた。


「それじゃ、みんな手を合わせて――」


楽市がそう言うと、霧乃たちが手を合わせた。


パーナとヤークトが何の事かと戸惑っていると、夕凪がヤークトの手を、朱儀がパーナの手を取って合わせてあげる。


「こっちと、こっちを、こー」


小さな手で一生懸命に教えてくれる朱儀へ、パーナが微笑んだ。


「ありがとう、アーギさん」

「へへへ」


「じゃあいいかな? 

それじゃあ、みんなで、いただきますっ」

 

「「「 いただきまーすっ 」」」

「まーすっ」


「えっ、まーすっ」

「あっ、まーすっ」

 





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