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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第3章 カルウィズ天領地
151/683

151 良かったなお前、にっこり


角つきがしゃを山中に隠し、楽市と妖しの子たちは、火の玉となって夜の森を舞いすすむ。


その後ろを、松永が付いていった。

背中には、パーナとヤークトがしがみ付いている。


松永は背を揺らさず、音もなく滑るように走った。

聞えるのは、木々が流れ去る風の音のみ。

 

森は星灯りを通さず、闇に包まれてほとんど見えない。


暗闇なため、遠近感が奪われてしまう。

パーナとヤークトには、闇が果てしなく広がっているように感じられた。


初めは振り落とされないよう、しがみ付くので精一杯だった二人だが、獣人としてのバランス感覚で、だんだんと余裕が出てくる。

 

パーナとヤークトの先で、揺れる五つの光。

四つの小さな光が楽しげに、大きな光の周りを飛び交う。

 

小さな光はちょっかいを出すため、大きな光のすれすれを飛ぶ。


大きな光が追いかけると、小さな光は散りぢりになって逃げた。

そうかとおもえば、直ぐに戻ってくる。


「ふふ、何だか楽しそう」

「そう言うパーナも、楽しそうだね」


「そう言うヤークトだって、そうでしょ」

「まあね、あたしさ今度の定時連絡で、シノさんに相談しようと思うんだ。

あの気付きのこと」


「シノさん? 私まだちょっと怖いかも、だってエルダーリッチなんだもん」

「大丈夫、あたしが聞くから」


「ヤークトってそういう所、凄いとおもう」

「ん、そうかな?」



    *



ツァーグに着くと、がしゃが壊したであろう、城壁がまず目に入った。

楽市たちは狐火から元の姿に戻り、暗闇に乗じて崩れた城壁から街へと入る。


確かにそこには、がしゃが暴れた爪痕が残っている。

闇夜で分かりづらいが、多くの家屋が崩壊し、無残な姿をさらしていた。


しかしそこから一歩、崩壊を免れた区画へ入ると――


 

街中で巨体の松永を連れて歩くと、街の復旧にいそしむ獣人たちが目を丸くする。

通りには数多くの魔法のランタンが、吊り下げられて煌々と輝いていた。


獣人たちは疲れた顔をしてはいるが、日が暮れてもなお精力的に働いている。

楽市は、獣人たちの視線を浴びながら首をかしげた。


「え、なんで?」


ベイルフの事を考えると、損害が少なすぎる。

皆殺しになっていても、おかしくないはずだ。


楽市たちがボケッと立っていると、獣人たちがどんどん通りで立ち止まり、人垣ができ始めた。


皆おっかなびっくり、松永を見ているようだ。


松永が視線を嫌がりブルルッと鼻を鳴らすと、それだけで周りからどよめきが上がった。

じろじろ見る獣人に、霧乃たちも腹を立てる。


「なんで、きりを、見てるのっ!?」

「すっごい、見てるぞ、やなかんじっ」

「う゛ーやだー、これーっ」

「みーなーいーでーっ!」


四人はピッタリと、楽市へくっついてしまう。


「ラクーチ様、どういう事なのでしょうか?」


ヤークトが街の軽傷っぷりに首をかしげ、楽市に尋ねる。

しかし聞かれた楽市の方が、どうなってんのと聞きたいくらいだ。

 

そうこうしていると人垣を搔き分けて、街を警備する獣人兵が三人やってきた。

獣人兵は松永を見て色をなし、楽市たちに詰問する。


「貴様たち、何者だっ!」

「えー」


楽市は何者だと言われても、あんまり名乗りたくない。

楽市が露骨に嫌な顔をすると、獣人兵が詰め寄り腰の剣に手をかける。


「何だ、その顔は貴様っ!」

「えー、顔って、えー」


すると霧乃たちが獣人兵の敵意に反応して、感情のギアが一気に上がり、楽市の後ろから飛び出して来た。


「なんだ、このっ!」

「カチンと、きたっ!」

「ぐるるるっ!」

「ぶあーっ!」


更に松永がワザと足を踏み鳴らし、大きく前に出た。

三人の獣人兵の前で、ゆっくりと一本角をくゆらす。


獣人兵は触れれば血のにじみそうな切っ先に、目が釘付けとなり最初の勢いが吹き飛んでしまった。

声を落として、詰まりながら誰何(すいか)する。


「ただ……何者かと……聞いているだけだっ。

名乗れないのかっ」


「あたしたちは、別に怪しくないですよ。ただの旅の者です」


楽市がそう言うと、獣人兵の眉間のしわが深くなる。

そんなこと言われても、信じられる訳がない。


目の前の女は見慣れぬ奇怪な黒服をきて、周りの子供たちも黒ずくめだ。


そしてこの、見たこともない巨大な獣。

こんなモノを引き連れて「怪しくない」などと、よく抜け抜けと言えたものだ。


それに、白いローブを来た……


「ん、そのローブは千里眼か!?」


獣人兵たちは自分たちに所属する者を見て、いささかホッとしたようだ。

彼らは楽市に聞かず、ヤークトに聞き直した。


「お前たちは、どこの所属だっ」


「私たちはベイルフの者です。

この街は巨大なアンデッドに、襲われたのでは無いのですか?」


「貴様っ、今はこっちが聞いているのだぞっ!」


獣人兵がヤークトにすごむと、霧乃たちがまたカチンときて前に出る。


そして松永も鼻を鳴らした。ブホーーッ

鼻息にひるむ獣人兵たち。

ヤークトが再度たずねた。


「もう一度、お聞きします。

ここで、何があったか教えて下さい」


「きっ、貴様あっ!」


獣人兵は顔を真っ赤にするものの、ジリジリと下がっていく。

そこへ、楽市が割って入った。


「ごめん、面倒くさいやり取りは、今できないの」


そう言って獣人兵の一人につかつかと近付き、その頬に触れた。

すると獣人兵の力が抜けていき、楽市の前で両膝をついてしまう。


「頭の中で考えるだけで良いから、ねえここで何があったの?」


他の二人が仲間をやられたと思い、楽市へ襲い掛かろうとする。

しかし松永が、一人を咥えて宙に浮かせた。


「うわああああっ!」


もう一人は霧乃たちが取り囲み、唸り声を上げる。


「ぐるるるるっ」

「らくーち、こいつ、コロしていい?」

「あーぎ、やりたいっ」

「たーいっ」


「殺しちゃ駄目」


楽市にぴしゃりと言われて、四人がむくれた。

霧乃が囲んだ獣人兵に、「良かったなお前」といった感じの暖かな目を向ける。


だが霧乃の尻尾は、怒りをはらんでパンパンのままだ。

幼女に見つめられて、獣人兵がブルリと震えた。


自分の腰位までしかない幼女に、震えるなどあり得ないことだが、本能がしっかりと相手の恐ろしさを感じ取ったのだ。


楽市の前に跪く獣人兵が、大量の脂汗を流している。

頬に触れた手のひらが、自分の顔と一体化しているからだ。


「ごめん、怖がらせる気ないんだけど、あたしたちも色々とあって困っているの。

じゃあ……教えて」


楽市は、そう言いニッコリと笑う。















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