150 楽市、電流が走るっ
ベイルフより東北東へ、一二〇キリルメドルの地にある、
カルウィズ天領地。
そこはダークエルフ、“ソービシル家直轄の避暑地”として栄えていた。
山野の地形を活かしながら、様々な宮殿が点在する場所である。
そこへ隊列を組んだ六体のがしゃが、森林を搔き分け近付いていく――
*
楽市たちは、瘴気により枯死した跡をたどり、巨大アンデッド・がしゃを追う。
枯れた道はあっちにフラフラ、こっちにフラフラと、蛇行しながら東に伸びていた。
おそらく山野の獣たちを、追っかけたりしながら進んだのだろう。
日が沈み夕闇が迫るころ、楽市たちはその途中で、がしゃに襲われたらしき街を発見した。
日が暮れて枯れた道が視認しづらくなり、千里眼で周囲を観察していたとき、パーナが見つけてくれたのだ。
パーナが千里眼の術をとき、何とも不思議そうな顔をして楽市へ報告した。
「あの、確かに襲われた跡があるんですけど、何というか元気そうなんですよ」
「がしゃが、撃退されたの!?」
楽市に聞かれて、パーナが首をかしげる。
「まさか、そんな事ができるとは、思えないんですが……」
角つきの頭蓋内は、楽市の出した狐火がフワフワと浮かび、青白く照らされている。
ヤークトがその下で手書きの地図へ、ここまでのルートを書き込んでいった。
「多分そこは、ツァーグという街ですね。
ベイルフと比べて、とても小さい所です。
そこがガシャを撃退できるとは、ちょっと考えにくいです」
「うーん、よく分かんないな。じゃあ行ってみるか」
楽市がそう言うと、パーナとヤークトがうなずく。
「わーっ、どこいくのっ?」
「かりか? かり、いくのかっ?」
「おにく、たべる?」
「たべるーっ!」
霧乃たちが、楽市の“行く”という言葉に反応して騒ぎはじめた。
今日はずっとがしゃの中に居たので、退屈しているのだ。
霧乃たちは正直に言って、がしゃ探しに余り興味がない。
「狩りじゃないよ、街へ行くんだよ」
「まち? いくいくっ!」
「べいふー、みたいなとこ? いくっ!」
「おにく、たべたいっ!」
「たーいーっ!」
上の子二人は、とにかく外に出れれば良いらしい。
下の子二人は、何だか食べたいモードに入っていた。
「朱儀、豆福、今日はガマンしなさ…………ああっ!!」
そこで、楽市に電流が走るっ。
感電したように尻尾が膨れ上がった。
全て言う前に、自分で気付いてしまった。
狩りはできないけど、お肉は食べたい。
ならば、街で食べればいいじゃない。
「ふあああ……」
ベイルフでは、忙しすぎて気が回らなかった。
もう心のどこかで、諦めていた自分がいたからだろう。
なぜ諦める必要があるのか、あたしの馬鹿っ。
楽市は自分を叱咤し、そして今、気付けたことの喜びを噛みしめた。
――街にくりだし、味付きのお肉かーっ
「らくーち、何か、ばかっぽい」
「口とじろ、らくーち」
「あはは、かおが、へん」
「かお、へん」
口を開けて固まる楽市に、子供たちが呆れてしまう。
そんな楽市の硬直を溶かすように、とつじょ大きな音が響いた。
グギュルルルルルーッ
皆が何事かと音の方向を見ると、パーナがお腹を押さえて、顔を真っ赤にしている。
「ちょっとパーナ」
「ごめんヤークト、だってー」
「……あっ、そうか!」
我にかえった楽市が、思わず声をだした。
そうなのだ。
パーナとヤークトには、毎日の食事が必要なのである。
基本食べなくても良い、楽市たちとは違うのだった。
松永などもパーナやヤークトと同じなのだが、野生の獣は獲物が取れなくて、食べない日などざらにある。
真っ赤になったパーナを、松永がペロリとした。
共感のペロリかもしれない。
楽市がふらりとパーナに近付き、その手をとる。
「分かる、その気持ちっ!」
パーナは音を聞かれて、顔を真っ赤にしているのか、主に手を握られて真っ赤にしているのか、自分で分からなくなった。
「ふああ、ラクーチ様やめてください。ふあああーっ」