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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第3章 カルウィズ天領地
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147 ナランシアたちの勝利~後編


倒すことはできない。


しかし六人の魔力が続く限り、アンデッドを閉じ込めておくことはできる。

その間に、町の人々が逃げてくれればいい。


森の迷宮(レスト―ラ・ラビリア)の中で、アンデッドが休むことなく歩き回っている。


「好きなだけ歩けばいい、お前はどこにも出られない」


シェールは冷ややかな目で、アンデッドを見つめた。

森の迷宮は、魔力を継続的に消費し続ける。

 

そのためシェールは、教会から持ち出した魔力回復ポーションを、背嚢(はいのう)から取り出した。


背嚢の中には沢山のポーションが入っており、カチカチと小瓶がぶつかり合う音がする。


六人全員が同じ量を持ち出しており、これだけあれば半日はアンデッドを留めておけるはずだ。


「ふう……ふう……」


シェールは魔力が切れかかる前に、ポーションを一本開けて飲み干す。

そこで、シェールは気付く。


「ん? こっちを見ている!?」


枝葉に隠れて気配を消しているシェールを、アンデッドは確かに見ていた。


そうかと思えばふと視線を外し、別の方向を見ている。

そして次、更に次、アンデッドは方角を変えてジッと見つめる。


全部で六回。

しかし首を傾げ、また歩き始めた。


「ふう……ふう……気のせい、か?」


脂汗を流すシェールは、しばらくして二本目のポーションを空ける。


するとまた歩いていたアンデッドが、ピタリと止まりこちらを見ていた。

シェールは鼓動が早くなり、息苦しさをおぼえる。


「こいつ……やはりっ!」


シェールはそう言って、魔力回復ポーションの空き瓶をみた。

魔力回復ポーションの精製には、数多くの製方がある。


そしてシェールが今使っているのは、教会製のポーションだ。

聖属性のマジックアイテムである。


ジッとこちらを見るアンデッドは、シェールがポーションを、使うタイミングで見ていた。


「わずかな聖属性の気配を、感じ取っているのか!?」


相手が、アンデッドだからこその気付き。

聖なるものを、嫌うからこその気付きである。


このようなことは予め想定すべき事なのかもしれないが、五〇〇〇年の太平が、兵士たちに致命的な実戦不足をもたらしていた。


アンデッドがふとシェールから視線を外し、別の方向を見る。

そして次、また次と、方向を変え凝視する。


全部で六回。


「間違いない、私たちを感じ取っているっ」


アンデッドは一回り見た後、シェールの方向へ真っ直ぐ突っ込んできた。

近付くにつれ瘴気の濃度が上がり、シェールの体力を奪っていく。


シェールは体が動かず、枝から落ちてしまった。

もう森の迷宮を、保っていられない。


「ナランシア様、申しわけ……」


シェールは最後まで言い切ることができず、その意識が消滅するのだった。


突然迷宮が不安定となり、残った五人が必死に保とうとする。


一人欠けた分だけ、それぞれの魔力が急激に消費され、またすぐポーションを使わなければならない。


その度に人数が減っていき、迷宮はあっけなく破られてしまった。

ナランシアは愕然とする。


「なんて化け物なんだ……」


歯ぎしりするナランシアに向かって、アンデッドが突っ込んでくる。


次第に体が、動かなくなるナランシア。

そこへアマリヨと、もう一人の部下が割って入る。


二人はチラリとナランシアを見た後、特殊魔法を唱えた。


「「 茨の道(コントラスソロード)っ 」」


それは、魔力を使わない魔法。

使うのは自分の命。

 

二人の肩から下が太い茨に変わり、アンデッドの両腕に絡みつく。

命と引き換えに繰り出す、強靭な拘束魔法である。


ダークエルフの盾になる。

そのために教えられた魔法だ。

それを今、二人は使った。


二人の執念は、アンデッドの動きを止める。

しかしそれも僅かなことで、アンデッドはブチブチと茨を引き千切っていく。


「アマリヨ、アイル、すまない」


ナランシアは二人の最期を見届けて、背嚢から一本だけ違うポーションを取り出した。

コールカインだ。


楽市にもう使うなと言われていたが、捨てきれずにずっと持っていた。

ナランシアはそれを飲み干し、樹上から火炎魔法を放つ。


茨に気を取られていたアンデッドが、炎を浴びて上をみる。

ナランシアは枝を伝いながら、上を向くアンデッドの眼窩へ飛び込んだ。


ゼロ距離――触れれば、即死の状態である。


しかしコールカインがナランシアに、僅かな時間を与えてくれた。

ナランシアは、頭蓋の中で特殊魔法を唱える。


茨の道(コントラスソロード)っ!」


アンデッドの中で広がったナランシアの茨は、内側から頭蓋骨の縫合線(ほうごうせん)へ、茨の先を突き立てる。


頭蓋骨は幾つかのプレートが、組み合わさってできている。

ナランシアはそのプレートのフチを、こじ開けようとしているのだ。


しかし無駄なことだった。

はかばーで鍛え上げられた、強靭な骨に敵うはずもない。

縫合線の隙間に、茨を突き立てただけ。

それだけだ。


だが、ナランシアは落胆しない。

落胆する前に、絶命していたからだった――



    *



頭でっかちは突然湧いた頭の中のイガイガに、ビックリしてしまう。


――なんだこれー!?


頭を強く振っても、全然出てきてくれない。

大変に気持ち悪くて、手を眼窩に突っ込み掻き出そうとする。

そして、重大なことに気付いてしまった。


――手が届かないーっ!


そうなのである。

頭でっかちは、手足が短いのだ。

いくら掻きむしっても、手は顎の裏にしか届かない。

仕方がないので、木に頭をこすり付けた。


ぐりぐりぐりっ


しかしそれでは、全然中に届かないではないか。


――ひえええええっ!


こうなるともう、生者そっちのけである。

頭でっかちは、次から次へと頭を木にこすり付けていく。


 

そして雑木林の中を迷走し続け、どこかへ行ってしまった――
















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