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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第3章 カルウィズ天領地
145/683

145 頭が重たい……おのれ生者っ!


木々の隙間から、ぬいっと顔を覗かせるものがあった。


白骨の巨大アンデッド、がしゃである。

そのがしゃは頭が極端に大きく、体がとても小さかった。

手足も短い。


三頭身のデフォルメキャラみたいな、体型をしている。

全長は十メートル程で、がしゃの中では小さい方だろう。


頭が重たいようで、立たずにハイハイをしていた。

そのハイハイが異様に早い。


そのまま進むと、デカイ頭がいちいち木々の間に挟まっている。


だが構わないらしい。

頭の側面で木を削り取りながら、突き進んでいた。


メキ メキ メキッ

ゾリ ゾリ ゾリッ


目指すは不快な生者が、密に集まる場所である。

山頂からハッキリと見えて、カチンと来たのだ。

殺したいほど、カチンと来てしまった。


その欲求は、がしゃの存在している意味と言っていい。


苛立ちから足元がおろそかになり、下山の初めの一歩を踏み外してしまった。

なんと山は、降りる方が難しかったのだ。


重たい頭が前のめりになり、山頂から中腹まで一気に転がり落ちてしまった。

それで益々腹が立つ。


――おのれ生者っ!


がしゃが裾野の森を抜けると、目の前に大山脈を背にした町が見えた。


山頂から見えた、密の場所である。

がしゃは短い手足を止めることなく、町の中へ突っ込んでいった。



    *


 

「やっぱり、ここへ来たか」


ナランシアは、光る何かが北の頂きから転げ落ちたとき、すぐさま部下たちのいる宿場町アイダへ戻っていた。


ナランシアは、町の中央に建つ教会の屋根にたち、謎の巨大アンデッドを凝視する。


傍にはシェールとアマリヨ、それに他の部下たちも揃っていた。


アンデッドは東側から町を囲む、丸太の防御柵を物ともせずぶち破り暴れている。


今はちょうど昼時であるため、アンデッドに破壊された木造家屋から、煮炊き用の火が延焼し、すでに幾つかの黒い煙がみえた。 


ナランシアは屋根上より、教会前の広場をみる。

そこには突如現れた巨大アンデッドに、パニックになった人々が集中し、ごった返していた。


宿場町アイダは、東から西へ走る街道沿いにできた町だ。

そこを丸太の防御柵で、細長く箱型に囲っていた。


中央にある教会を中心にして、放射状に道があるのだが、町を抜ける出口は東と西の二つしかない。


他の道は全て丸太の防御柵に阻まれて、行き止まりである。


アイダの人々は西へ逃げるため、中央の街道に移動し大渋滞を起こしている。

パニックになっている人々の流れが、一向に動かない。


ナランシアからは見えないが、西側の街道で大きな荷車どうしがぶつかり、車軸が折れて道をふさいでいるのだ。


ナランシアは険しい目で、広場を見つめる。


町へ戻ったナランシアは、すぐに町の者へ危険を知らせていた。

しかし、それを本気で聞く者はいなかった。

 

いきなり危ないと言われても、ピンと来ないようだ。


確かに町の者も、北の山奥で何かあった事は噂で聞いている。

近くでスケルトンを、見ることも多くなった。 

しかしそれだけだ。


自分たちの生活に噂の出来事を、繋げて考える者などいなかった。

まさか自分たちにまで、火の粉が及ぶなど考えもしなかったのだ。


アイダにはダークエルフが一人もおらず、もちろんストーンゴーレムなど、一体もない。

町の自警団では、まるで話にならなかった。


「ナランシア様……」


広場をジッと見つめるナランシアの背に、部下の一人が声をかけた。

ここにいても仕様がない。

ナランシアたちも、直ちに脱出するべきだ。


しかし――

  

一般の獣人たちを見捨てて、先に逃げるというのか?


ナランシアたちは、ここに来て数ヶ月。

多くの顔見知りができていた。


突然流れてきたよそ者に理由も聞かず、アイダで屋台を起こすための、筋道をつけてくれた年老いた商人。


裏通りの共同炊事場で、和気あいあいと世間話をしてくれた女たち。

それらを見捨てて、先に逃げるというのか?


押し黙るナランシアに、別の部下が声をかけた。

河原で一緒に昼食をとった、シェールだ。


「ナランシア様、串焼き屋は一時廃業といたしましょう」

「シェール……」


「楽しかったですけど、仕様がないですよ。

私たちは、やっぱり兵士なのですから」


シェールに合わせて、アマリヨが微笑む。


「町が無くなったら、串焼きを買ってくれる人も居なくなってしまいますからね」

「アマリヨ……」


他の部下たちもそれぞれに、「仕方がない」「やるか」といった言葉を述べていく。


「みんな……」


ナランシアは、十一人の顔を見た。

皆も、ナランシアを真っ直ぐにみつめ返す。


皆、ナランシアが何を考えているか、お見通しなのである。

部下たちもそれぞれに、思い浮かべる人々の顔があった。

それを見捨てて、逃げれるだろうか?


部下たちの思いを知り、ナランシアの顔つきが変わった。

それを感じて、十一人がピシリと並び揃う。


そこへナランシアが檄を飛ばす。


「ではこれより、戦闘行動に入るっ」















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