表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第2章 中核都市ベイルフ
141/683

141 がしゃも助ける、獣人も助ける。


「大変だシノっ、大陸中の獣人が殺されてしまうっ!」


キキュールは、顔を青くしてシノへ訴える。

そこへ走ってきた楽市も、同様に顔を青くして訴えた。


「シノさん大変っ、がしゃたちが殺されちゃうっ!」

「はっ!?」


キキュールは思わず、何言っているんだといった顔で楽市を見た。

シノは、何かの聞き間違えかと思い聞き返す。


「えっ、ラク殿? 今なんと!?」


「大変なんですっ。

がしゃの中にはトリクミにも参加しない、弱い子もいるんですよっ。


そんな子までこっちに来ていたら、ダークエルフに殺されちゃうっ!」


「何を、言っているのっ!?」


ずいっとキキュールが、楽市の前に出た。

その目は、怒りに満ちている。


――大量に獣人が死ぬかもしれないのに、コイツは襲う側の心配をしているだと!?


キキュールは、その非常識さに腹が立った。

会った時から気に食わなかった楽市へ、一気にうっぷんが爆発する。


「ちょっとまて、襲撃するのはそっちだろうっ!

それなのに殺されると喚くとは、何を考えているっ!?」


楽市はキキュールの剣幕にビックリしたが、それも数瞬のことでスッと目が細まる。


「は!? そうですけど、心配しちゃ駄目なんですかっ!?」


「いや襲う方が心配って、おかしいだろうっ。

なら襲わなきゃいいっ!」


「えっ? キキュールさんもアンデッドですよね?

アンデッドが生者を襲うのは、当たり前じゃないですかっ!」


「なにっ!? あんたはそれを許すのかっ!」


「許すもなにも、それがアンデッドでしょうっ!?

そこをどうこう言っても、仕方がないじゃないですかっ!」


「獣人たちが殺されるのに、仕方がないだとっ!」


キキュールの翡翠(エメラルドグリーン)の目が、憎悪でギラついた。

楽市もにらみ返し、金の虹彩が輝く。


「ちょっ、ちょっと待ってくれ二人ともっ」


シノが、何とか収めようと割って入る。


「何ですかっ!」

「なんだっ!」


二人の殺意が、シノに向けられた。


「ううっ」


楽市がグイッと、シノに顔を近づける。


「シノさんもアンデッドだから分かるでしょっ!

あたし何か、変なこと言ってますかっ?」

「い……いや」


シノは困ってしまう。

アンデッドが、生者を憎み殺す。


これはもう東から陽が昇るぐらい、当たり前のことなのだ。

それをアンデッドのシノが、違うなどと言えるはずがない。


しかし――


「シノっ!」


キキュールがこれまた、ズイッと顔を近づけてくる。


「なぜ口ごもるっ、お前どっちの味方なんだっ。

私に言った言葉は、嘘なのかっ!」


「うっ……そんな事はないぞ。

私はお前の……」


「シノさんっ!」

「うっ」


「シノっ!」

「うーっ」



    *



ベイルフ北の城壁にて――


夏の日差しは昼を過ぎ、なおいっそう強く照りつける。


ただヒノモトならば聞こえるはずの、蝉の声が全く聞こえない。 

楽市はそんな所にも、ヒノモトとの違いを感じてしまう。


「チロ、げんきでね」


霧乃がそう言って、自分より一回り小さいチヒロラを抱きしめた。


「はいっ、きりさんもお元気でっ」


その後ろから、夕凪がチヒロラをギュッと抱きしめる。

霧乃&夕凪のサンドイッチだ。


「チロ、またなっ」

「はいっ、うーなぎさん、またですっ」


二人が離れたあと、朱儀がチヒロラの手を握った。

朱儀の口が、とんがっている。

同じ鬼の子として、離れがたいのかもしれない。


「チロ……いかないの?」


朱儀のすねたような言い方に、チヒロラはじんわり来てしまい鼻水をすする。


「ずー、はい、あーぎさん、ごめんなさい。

チヒロラはお師さまの、お手伝いをしたいんです」


そう言ってチヒロラから朱儀に抱きつき、耳元でささやく。


「あーぎさん、今度すっごい殴り方を、教えて下さいっ」 

「あっ、いいよ! おしえるーっ!」


朱儀が離れると、豆福がチヒロラの胸に飛び込んできた。

自分より一回り小さい豆福を、チヒロラはギュッとする。


「チー、いこー」


豆福が顔をあげると、その顔はもう涙でグシャグシャだ。


豆福とチヒロラは、何気に南の河原で三日間いっしょだった。

その間元気のない豆福を、ギュッと抱きしめてくれていたのはチヒロラなのだ。


「まめさん、ごめんなさい」


チヒロラも豆福の泣き顔を見てガマンできず、ポロリときてしまう。

そんなチヒロラと豆福を、霧乃たち三人がもう一度抱きしめた。


小さな妖したちが一つにかたまっているのを見て、楽市はしんみりしてしまう。

そこへシノが頭を下げた。


「ラク殿、無理を言って申し訳ない」

 

「シノさん、頭をあげて下さいよ。

シノさんの話が本当だったら、私だって打倒ダークエルフって、祈願したんですから同じです。

 

それにシノさんの言う通り、妖しの子の安全は前よりも上がりましたから」


「アヤシの子の出現領域は、ベイルフよりも北です。


そして今、大量のガシャにより北の森とダークエルフ領の境界線は、ベイルフより南へ大幅に引き下げられました。

 

これによりアヤシの子の安全性が、かなり上がったのは事実です。

しかし危険性が、ゼロになった訳ではありません。


それなのに無理を言って、ガシャの回収を先にと頼んでいます。

申し訳ありません」


「いいんですって。

私もがしゃが、心配なんです」


楽市はシノの後ろに立つ、キキュールを見た。

目が合い一瞬バチバチと火花が散ったが、キキュールの方から目をそらす。


「キキュールさん」

「キキュールと呼べ」


「ん?」


「“さん”は要らない。

私は、おま……あなたに頼るしかない……」


そう言われた楽市は、しばらくキキュールを見つめたあと、頬を膨らまして口調を変えた。


「そう、ならキキュール。

あんたも、あたしの事を“らくいち”って呼んで。

あなたとか、さん付けとか気持ち悪いし。

 

腹立つけど、やっとあんたと素直に話せた気がする。

会ったときから、あたしの事をジト目で見るから、なんだコイツって思ってたんだ」


「ハッキリ言う、女だな」


「けれどキキュールの、獣人に対する気持ちは分かったよ。

だから、がしゃも助ける、獣人も助ける。

それでいいでしょ?」


楽市はそう言いながら、ニヤリとした――








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ