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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第2章 中核都市ベイルフ
140/683

140 楽市の新世界。


昼過ぎである――


楽市たちは、南の城壁塔の上に立っていた。

大門から抜けていく、ダークエルフの列を眺めている。


「うわ、すっごい行列だなー」


「らくーち、コロさないの?」

「コロさないのかー?」

「あー、あれのりたーいっ!」

「たーいっ!」

 

「お師さま、獣の人もいっぱいいますよっ、どうしましょうっ!?」


列には大量の荷車と、それを引く馬に似た四足獣。

その所有者であるダークエルフはもちろんだが、かなりの獣人も混じっていた。


長い列は山の裾野にそって敷かれた、石畳の街道を南下していく。

シノはゆっくりとした動きで、下を覗き込む。


「むむっ、かなりの獣人が付いていくか。

南地区でダークエルフに、直接従事していた者が大半だと思うが……


ざっと見て、一万という所だな。

キキュール、やはりベイルフ全ての獣人を残すとは、いかなかったようだ……すまない」


「いいんだ、分かっている……」


キキュールは少し拗ねてはいるものの、大人しくその事実を受け止めていた。


「ふむダークエルフ三千人に、獣人が一万人。

計一万三千人の検体となるな。


これだけの実験材料があれば暫く向こうも、ベイルフの獣人を欲しがることは無いだろう」


ダークエルフをベイルフから追い出すのは、予め向こう側にサンプルを提供するためである。


遅かれ早かれ、ベイルフ住民の変容はバレるだろうから。


それならばダークエルフの検体から、使ってくれよという考えだった。

大分、獣人種が混じってしまったが。


「さて、残りの三万七千人は、無事に残ってくれたようだ」


そう言ってシノは胸をなでおろし、ベイルフ中央のツシェル城を眺めた。


城には、城主とその家族。

そして若干の、ダークエルフ側近が残されている。


昨晩から巨大幽鬼が、触手をのばし確保していた。


城主ファミリーを残した効果で、多くの獣人たちが残ってくれているのだ。


忠誠心の高い獣人たちは、主を残して去ることができず自主的に残る。

城主ファミリーは、獣人を留めておくための見せエサだった。


「獣人から、かなりの恨みを買うでしょうが、城主を丁寧に扱う限り、暴動は起こさないでしょう。


もし起こったら見本として、ダークエルフの側近を処分します」


シノからの説明を受けて、楽市が申し訳なさそうな顔をする。

 

「シノさん本当にココ、任せちゃっていいんですか?」


「ええ、ベイルフの管理は任せて下さい。

そのために“ガシャ”をお借りするのですから」


「はい、あの子たちには、ちゃんと言っておきます」

 

「ありがとうございます。ちなみにラク殿。

野に出てきたガシャは、ここにいる四体だけなのでしょうか?」


「えっ、う~ん……どうなんだろう?

ちょっと、聞いてみますね」

 

楽市たちは、いったん北の城壁側へもどる。


「シノさんとキキュールさんは、ちょっと離れていて下さい」

「分かりました、ではキキュール」

「ああ…」


キキュールはシノを、お姫様ダッコした。


「え、キキュール? 魔法で!?」

「いいだろうこれでも、魔法は面倒くさい」

 

「しかしだな」

「恥ずかしかったら、早く動けるようになれ」


楽市は言い合う二人が離れるのをみて、狐火を空高く吹き上げた。


すると旋回する角つきが、それに気付きフワリと降りてくる。

フワリと言っても減速の為のひとあおぎで、地表に突風がおきてしまう。


楽市たちは、すかさず裾をおさえた。

朱儀だけは、ピッタリとした上下なので平気だ。


「うひゃ」

「うー、まえが、みえないっ」

「うーなぎ、あはははっ」

「あー、めくれちゃいますーっ」


コロコロコロ


「あっ、豆福ころがって行かないでーっ」


スケールの大きなスカートめくりをし終わったあと、角つきがゆっくりとかがみ込んでくる。


全長二十メートル越えの巨人は、傍に立っているだけでも迫力があった。

その巨人が顔を近付けてくると、何だか捕食される小動物の気持ちになってくる。


楽市や霧乃たちは慣れたものだが、チヒロラはまだちょっと慣れなくて、楽市の後ろに隠れてしまった。


「おっきいですー」

「そうだよね、あたしも最初はビックリしたもの」


楽市が手をかざすと、がしゃがその意図を読み取り、楽市の手に自分の巨大な爪を近付けていく。

楽市は手元まできた爪の先を握り、がしゃへ尋ねた。


「ねえ、がしゃ。

あなたたち以外にも、こっちに来ている子はいるの?」


がしゃは、ここへ来たときのことを少し考える。

眷属の方々を頭の中に入れて、運びながら山の頂きに立った。


そこで何を見たか?


同じように山頂に立つ、がしゃたちがいた。

皆が日の光に照らされて、白く輝いていた。


角つきはその光点の数を思い返し、おもむろに傍にあるベイルフの壁へ指をのばす。


角つきは鋭く尖った指先で壁をひっかき、小さな丸を描いた。

その近くに、もう一つ丸。そしてもう一つ。

 

丸は増えていき、四つ、五つ、六つ……

楽市は首をかしげ、離れたシノに大声で尋ねた。


「こーれー、何でーすーかーねーっ?」

「ふーむーっ、おそらくガシャの数でしょーうーっ!」


大声で話している間にも、丸が増えていく。

七つ、八つ、九つ……


「うわ、結構いっぱい来ているんだっ。

何でこーんーなーこーとーにーっ!?」


「むーむーっ、ラク殿っ。

これはひょっとして加護が、あったのかもしーれーまーせーんーっ!」


「えっ、どういう事でーすーかーっ?」

「ほらこの間の、必勝願掛けでーすーよーっ!」


「え、何だそれは、シノ?」


横で聞いていたキキュールが、割って入る。


「キキュール。

私はラク殿と初めてお会いした時、色々と身のうえ話をしたのだよ。


そこでなかなか意気投合してね、その場で“タタリガミ”に祈願したのだ。

打倒ダークエルフとね」


「タタリガミ?」


キキュールが聞き返そうとしたとき、子供たちの笑い声が聞こえた。


――あはは、うひひ、にてるーっ



いつの間にか、霧乃たちが壁に落書きをしている。

がしゃを見て、面白そうだと思ったのだろう。


自分たちも、爪でガリガリと落書きをしているのだ。


「これ、らくーち。これ、うーなぎ」

 

「きり、うまいなー、よしうーなぎも、がんばるっ」

「あーぎのも、みてーっ」

「みてーっ」

「チヒロラのも、見て下さいーっ」


「へー、みんな上手だよ、うまい」


楽市は壁に近付き、子供たちの落書きを暫くたのしんだ。

そして何気なく、角つきを見る。

角つきも一生懸命、丸を書き続けていた。


「えっ、ちょっと待って!?」


楽市は慌てて遠ざかり、ベイルフの壁をみる。

がしゃは霧乃たちの上の方で描いていたが、その場で丸を描き切れず、横へ移動しながら描いていた。


「え、えっ!?」


楽市は丸の数を見て、固まってしまった。

がしゃはいったい、幾つ丸を書くつもりなのか?


ざっと見ても、四十、五十、六十……

ベイルフの壁に刻まれる、丸の帯は横に長くなっていく。


「噓でしょっ!?」


楽市は慌てて振り返り、シノとキキュールを見た。

シノもキキュールも遠目からすでに気付いており、呆然としているようだ。

その間も丸が増えていく。


七十、八十、九十……

楽市はシノへ手を振り、大声で叫んだ。


「シーノーさーんっ!

どーうーなってんのーこーれーっ!?」


キキュールは大陸中の獣人を思い、顔が青くなった。


「シ~~ノ~~」


思わず低く呪いのような声を、目の前の男の背に向けてしまう。

壁の前に立つ楽市も、顔が青くなっていた。


「シーノーさーんーっ!」


前門の楽市、後門のキキュール。

シノはふと、そんな言葉が浮かんだ。

なぜだろうか?

 

「ふむ」


そしてシノは、空を眺める――


「あーこれは、えらい事になっているな世界……」








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