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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第1章 異界の異物
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014妖しの子、めざめる~鬼の気性~


身を焦がす憤怒が、鬼の気性を叩き起こす。


(みなぎ)る怒気が鬼の手足を、柔肌のままに鋼鉄とし、激しく出血していた内臓が修復して、艶やかな色を取り戻した。


少女の内なる変化に、気付けぬダークエルフは、警戒もせず次の一撃を繰り出そうとする。


指先で圧縮した大気を、打ち出そうとしたとき、少女が間合いを強烈な踏み込みで一気に詰めた。

 

そのまま鬼の爪で、ダークエルフの右手を吹き飛ばす。

制御を失った圧縮大気がその場で弾け、至近距離から、自分の魔法を受けたダークエルフが吹き飛んだ。


外傷は余り無いが、内側は赤い煮汁のようになっているだろう。


少女も一緒に、吹き飛ばされたが無傷だ。

何事も無かったかのように、起き上がる。

 

少女は、自分の手を見る。

先ほどダークエルフの腕を切り飛ばしたとき、全く手応えが無かった。


黒く伸びた自分の爪が、水面をなでるよりも簡単に、肉を薙いだのだ。

 

その感触のあっけなさに、驚いてしまう。

もっと手応えのある物は無いのか?

遊び道具を探すように、辺りを眺める。


――あった


「消えたぞっ、どこだっ、こっちへ飛んだはずだっ」

「分からぬっ、何だあれはっ、一体どこから現れた!?」


突然、仲間を殺られて殺気立つダークエルフたち。

興奮した者が、手当たり次第に火球魔法を打ち込む。


「インフレイムッ」

「何をしている炎は使うなっ、燃えた煙を吸うと、獣人兵どもが持たぬぞ!」


別の者が燃える木々を、慌てて魔法で消しにかかった。

そんなダークエルフたちの背後から、激しい打撃音が響く。


「なんだっ!?」


振り返るとそこには、ストーンゴーレムに対峙する少女の姿があった。

ストーンゴーレムの振り下ろす巨大な足を難なく躱し、その足めがけて小さな拳を叩き付けている。


ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ


有り得ない音だ。

少女の拳から、削岩機で岩を削るような音が聞こえる。

一突きで、確実に穴を穿っている。

鬼の少女は、格好の獲物を見付けていた。

 

岩山の化け物(ストーンゴーレム)


期待通りの手応えが、少女の拳に返ってくる。

柔らかい肉とは違い、しっかりと破壊の喜びを与えてくれた。


周りのダークエルフが、騒いでいるが気にしない。

少女は夢中で、ストーンゴーレムを破壊し続けた。


「サンディーナ!」


ダークエルフの放った魔法が、少女の背を打ち据える。

少女は驚いた。


大した痛みでは無いが、体の筋が強張り、体液が沸騰する。

本来ならば即死の一撃だ。

 

しかし鬼の少女の治癒力が、それを上回る。

それでも、立て続けに放たれるとキツイ。

眼球が煮立って、視力を奪われてしまった。


ダークエルフより、魔力を込めて貫通力の高まった矢が放たれる。

少女の体へ、幾つもの矢が突き刺さる。


――じゃまだな…


まだ言葉を持たぬ少女は、自分の気持ちを咆哮で表す。


「ああああああっ」


先ずは、小さな肉どもを破壊する。

視力は戻らないが、問題なかった。

額から突き出た角が、大気の揺らぎを読み取り、周りの状況を教えてくれる。


鬼の少女は迷わず、一番近い肉に突っ込んだ。


懐に入られると、魔法が使えない。

至近距離で放つと、自分もダメージを受けるからだ。

ダークエルフたちは、慌てて腰の剣に手を掛けるが、それよりも少女の爪が早い。


少女の手足が閃き、ダークエルフたちの体を削り取っていった。


「精神魔法を仕掛けろっ、巻き込みを気にするな!」


誰かが叫んでいるが、少女には意味不明だ。

少女は、ただ身体を動かすことに没頭した。

 

後ろ足を大きく振り上げるとき、ひらひら舞うスカートが鬱陶しい。

少女がそう強く思ったとき、その不快が体に伝わり、スカートが足へそうように形を変えた。

 

それに合わせてワンピース全体が、体にフィットしていく。

格闘戦における、最適な形へと変わっていくのだ。


固く握る拳が黒く染まり、手首まで覆う籠手(こて)状の物へと変わっていった。

自分の変化に驚きつつ満足した少女は、更に蹴りと突きのスピードを上げる。


少女の手足が舞うたびにダークエルフや、他の獣人兵が引き裂かれ、首が飛んだ。

まさに鬼の少女は無敵である。


少女は、誰にも負ける気がしなっかた。

少女は、初めて知る全能感に酔いしれる。


――しかし


耐性の無い者に、突然打ち込まれる麻薬は効き過ぎるものだ。

麻薬のように、鬼の気性が少女の体を駆け巡る。

そのため、少女は去り際を失っていた。


引くことを知らぬ。

頃合いを見て、脱出する機会をとうに逃す。

気付けば振り回す突きと蹴りが、相手に届かなくなっていた。


角が教える位置情報と、実際の位置がズレているのだ。そこに気付けぬ少女は、当たらないのは速さが足りないからと思い、更に速く振り抜こうとする。


しかし突然、足場がぬかるみバランスを崩した。


睡眠(スイープ)っ」

混乱(コンフィス)っ」

思考力低下(ソーデリクル)っ」

幻覚(ハルシーネ)っ」


なにやらダークエルフたちが叫んでいるが、少女にはその意味が分からない。

吐き気がする。


突然体がだるくなり、眠くなってきた。

平衡感覚が薄れて、うまく立てない。

 

思考に(もや)が掛かり、自分が何をしているのか、良く分からなかった。

そんな少女に容赦なく攻撃魔法が飛ぶ。


色とりどりの光が、少女の表面で弾けてその肌を、凍らせ、引き裂き、溶かしていった。


その度に、少女の治癒力が体を補う。

しかし段々とダメージ量の方が、大きくなっていく。


聴覚や視覚は役に立たず、あるのは体中に走る痛みだけだ。

しかしその痛みさえ、朦朧(もうろう)とした意識は捉えていなかった。


「俺が、首を切り落としてやる」


そう言ったのは、最初に右腕を切り落とされたダークエルフだ。

仲間に肩を支えられて、近付いてくる。

どうやら治療魔法を掛けてもらい、死ななかったらしい。


「くそっ、右腕が再生しない。何か呪詛を流し込まれている」


肩を貸す仲間が、今も魔法を掛けているが、一向に再生しなかった。

辺りには胸や腹を裂かれた者が、治療魔法でへたに死ねずうめいている。

 

右腕を失ったダークエルフが、憎々し気に少女を見る。

少女は攻撃を受け続けて、(ただ)れた肉塊となり下がっていた。


しかし攻撃の手を緩めると、すぐさま鬼の治癒力で復活しようとする。

これは、首を切り落とすしかない。


「何なんだこいつは!?」


誰かが「睡眠」の魔法を、怯えながら掛け続けていた。

ダークエルフが、少女にとどめを刺そうとしたその時、天から一直線に振って来るものがあった。


手の平に収まるほどの、小さな火球だ。

それが鬼の少女の周りを旋回し始め、形を転じ獣の少女となった。

 

夕凪だ。

手を広げて立ち、鬼の少女を背に庇い叫ぶ。


「だめーっ、あっちいけー!」





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