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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第2章 中核都市ベイルフ
137/683

137 楽市、告知があります。


「さて、少数ならば(さら)ってしまえば良いのだが、ベイルフには五万人ほど住んでいるのでね。

その内の三千ほどが、ダークエルフだったかな?」


シノがそこでキキュールを見ると、彼女が無言でうなずいた。


「なので残り四万七千ほどの獣人を、何とかしなければならない。

こちらに従えと言っても、ラク殿が言った通りまず無理だろう。


忠誠心の高い彼らは、ダークエルフからは離れない。

中にはヤークト君のように、こちら側に好意をよせる者もいるだろうが、圧倒的に小数派と言えるだろう。

  

比率で言うと、好意派が1ならダークエルフ派は99。

1対99ぐらいかな? もっと少ないだろうが。


これはダークエルフが獣人を飼って、増やしていく過程に発生する、不適合者からの推測だ。

  

ダークエルフへの従順に難ありとされる、獣人の割合がそれぐらいなのだよ。

この者たちは、不適合と判断された時点で間引かれる。


ちなみに判断される前に何割かは、逃げ出して野良化するらしいがね。

西の山脈を越えて、ひっそりと住んでいるらしいが……


おっとすまないね話が逸れてしまった。 

では――」



次の日。


角つきは朝日が昇ると共に、見張っている山の頂からフワリと飛び立った。

骨だけの翼に、力場を発生させて力強く羽ばたく。


飛び立つ先は、ベイルフの上空である。

角つきは街の上をゆっくりと旋回しながら、自分のカッチカチな拳を叩き合わせるのだった。


ゴオオオンッ ゴオオオンッ ゴオオオンッ


鐘の音を鳴らしながら、ベイルフの街をまわる。

路上で、広場で、破壊を免れた自宅のベッドで、住人たちはその音により、目を覚ました。


それに合わせて、夜のうちにベイルフ上空に移動していた、幽鬼が動き出す。

 

夜の間に張り巡らせていた、髪のように細い数百本の触手へ、命令を流し込んだ。

触手の先はランダムに選ばれた数百人の、ダークエルフ、獣人の首に巻き付けられている。


その内の一本は誰にも巻き付かず、空中を流れて北の城壁塔まで伸びていた。

その触手の先を、夕凪が握っている。


半透明の触手の先は、ふくらんで漏斗(じょうご)のように広がっていた。

夕凪が息を吸込み、漏斗にむけて大声をはなつ。


「わーーーーっ!」


すると触手を巻き付けらた、数百のベイルフの者たちが、各々の声を用いて同じタイミングで「わーーーーっ!」と叫んだ。


至る所で、同時に響く叫び声。

避難地の広場で眠っていた獣人の家族は、愛娘が突然さけび出すのを、驚愕の目で見つめていた。


周りを見ればあちこちで、

 

青年が、

少女が、

老人が、

母親が、

 

同じように叫んでいる。

両親は娘を押さえつけて黙らせようとする

が、娘は黙らない。


娘の声はそのままに、別の誰かが喋っているようだ。

娘の声は、その口から流れ続ける。


「わー、おきろー、おきてー。

これから、はじめるよー。

うわっ、ちょっと、きりっ、なにすんだ、かえせっ。


あー、きりだよっ、おきてーっ!

ちがう、うーなぎが、やるっ。

もうこらっ、仲良くって言ったでしょっ」


広場で、

路地裏で、

家屋内で、


同じタイミングで、言葉が流れ続ける。

城壁塔の上で、触手の漏斗を、取り合う子供たちをみて、シノは満足する。


「いや、告知をどうするか悩んだが、ラク殿がよい案を出してくれて助かった。

ラク殿のゴーストは、まったく便利なものだね」


しばらく霧乃たちが起きろアナウンスをして、触手の漏斗を楽市へ手渡した。


「はい、らくーちさん、どうぞっ!」

「ありがと」


楽市は、チヒロラから手渡された漏斗の口を抑えて、シノを見る。


「それじゃ、始めます」

 

「分かりました。

私とキキュールは邪魔なので、反対側の南城壁で見ております。

さあキキュール」


声をかけられたキキュールが、タテヨコに光の線を引く。

すると光の格子は、シノとキキュールを包み込んだ。


パンッと破裂音がすると、二人の視界が一瞬で切り替わる。

そこは、南の城壁塔の上だ。


正面には、北に向かって広がるベイルフ

の街並みが見える。


城壁塔のすぐそばに、触手を巻き付けられたダークエルフの男が立っていた。

男は楽市の言葉を、そのまま口走る。


「えー、ベイルフに住むダークエルフたち、よく聞きなさい。


これより日没までに、ベイルフより立ち去りなさい。

去らなければ上空を旋回する、アンデッドに襲わせるから」

















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