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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第2章 中核都市ベイルフ
133/683

133 ふーん、そっか、じゃあまたね


「そんなのウソよっ!

いきなりそんなこと言われて、信じるわけないでしょっ。

死んだなんてデタラメっ」


震える声で、言い放つクローサ。

それをシノは、興味深く見つめた。


「ウソではないんだがね、君たちからはもう、生者としての精気が感じられない。

アンデッドとして私は、君に殺意を少しもおぼえないよ」


「そんなの口だけでしょ、何とでも言えるじゃないっ」

「ではそこら辺を、うろついているアンデッドに、近付いてみるといい。

向こうは何もしてこないから」


「そんなの魔女の力で襲うなって、命令しているだけじゃないのっ!?

そうやって、騙す気なんでしょっ。


あたしたちと、エルフ様の信頼を裂こうとしてるっ。

それは分断工作と、言うやつでしょっ!」


「震えながら、そこまで言えるとはね。

ダークエルフへの忠誠心が、高い娘さんだ」


「あたしと、エルフ様をバカにしないでっ!」


シノはフラットな感想を述べただけだが、クローサはそれを皮肉と受け取り、侮辱されたと感じた。


更に震えながら、激昂していく。

ここで恐怖により膝を屈しては、クローサが今まで築いてきた、ダークエルフとの“信”を踏みにじることになる。


クローサは、そう感じたのだ。

彼女は震える足に、力を込める。


「パーナ、ヤークトっ、騙されないでっ。

そもそも、あの大きなアンデッドを、ベイルフへけしかけたのは、こ……こっ……」


そこでクローサの呼吸が、乱れにみだれた。

最後まで、言い切ったら殺される。

そう思ったからだ。

しかし止めない。


「こいつでしょうっ!」


クローサはそう言って、楽市を指差した。

その指はいっときも定まらず、激しく震えている。


もう立っていられず、両膝をついてしまった。

それでも頭はたれない。


尻尾はとっくに内側に丸まり、獣耳もこれ以上ないぐらいヘタっている。

それを笑いたければ、笑えばいい。


クローサは目に涙を溜めながら、楽市をにらみつける。


殺すなら殺せといった、顔つきだ。 

シノはそれを、興味深くながめる。

変わった生き物を、見るような目つきで。


 

しかし、傍に立つキキュールは違った。

キキュールはその膝を屈しながらも、折れない心に見とれてしまう。


それが視野狭窄からくる狂信だとしても、目を真っ赤にして、鼻水が流れていようともだ。

 

“信”を突き通すため。


そのために、身を投げ出すクローサを美しいと感じた。


北地区の通りで店を構えるキキュールは、店にやって来る獣人たちを、純朴で信じやすく、馬鹿な獣たちだと思っていた。

そう調整された、哀れな獣たち。


それが今のキキュールには、美しく感じるのだ。


そのキキュールの視界に、入ってくるものがあった。

楽市だ。

キキュールは、楽市がクローサの正面に立つのを見て息をのむ。


あの子が殺される。

そう思ったキキュールが動こうとした時、シノが声をかける。


「キキュール」

「!」


「大丈夫だ、見ていろ」


正面に立った楽市が、クローサを見据える。

その金の瞳が、輝き始めた。


楽市は巨大アンデッドを、けしかけてなどいない。

だが楽市は、それはもう些細なことだと考えていた。


「クローサ、仕える者の意地……見せてもらったよ」


そこで楽市は、パーナとヤークトも見る。

見つめられる二人は、恐怖で呼吸が止まりそうになっていた。 


「パーナ、ヤークトも聞いて。

あたし、もう頑張るって決めているの。

だから、あたしの森を汚す者は絶対に許さない。

  

これからもダークエルフに付いていくのならば、戦場で会ったら誰だろうと必ず殺す。

あたしは殺し続ける。

それだけは忘れないで」

 


    * 



パーナたち三人は、城壁塔を下りて行った。

パーナが、腰の抜けたクローサを背負っていく。

パーナは、ヤークトよりも力持ちなのだ。


その後ろに、背嚢(はいのう)を三つ持ったヤークトが続く。


背嚢にはコンパクトに折りたたまれた、自動筆記が入っている。

塔を降り切ってベイルフの街へ入ったとき、後ろから声をかけられた。


「ねえ、あのさ」


ヤークトが振り向くと、そこには夕凪が立っていた。


その後ろに、豆福をダッコした霧乃も立っている。

朱儀とチヒロラの鬼コンビは、まだ爆睡中である。


「あんまり、大きな、こえだから、おきちゃったよ」

「ウーナギ……さん」


「らくーちと、会ったのに、かえっちゃうの?」

 

その質問に、ヤークトは少し黙る。

しかし、顔をあげ夕凪を見つめた。


「今は帰ります……でも、あたしの気持ちは変わりません」

「ふーん、そっか、じゃあまたね」


ヤークトは夕凪が何のしこりもなく、「また」と言ってくれるのが嬉しかった。

 

ヤークトが夕凪へ微笑む。


「はい、また」








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