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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第2章 中核都市ベイルフ
132/683

132 お師さまのお話


「それじゃ、ついて来てねっ」


楽市が声をかけると、パーナとヤークトが素直についていく。


クローサはどうしようか迷ったものの、一緒に行くことにする。

どのみち自動筆記(あのこ)を、取りに行かなくてはならないからだ。


くんっ


「ん?」


クローサは少し、(かかと)を引っ張られる感触をおぼえて、足下をみる。

しかしそこには何もない。


あるのは少し東に伸び始めた、自分の影だけである。

いぶかしむクローサだが、パーナから早く来いとせかされて再び歩きだした。



    *



「えっとー」


川の字になって眠る霧乃たちの横で、チヒロラが思案している。


「うんとー」


チヒロラは少しだけ夕凪をずらし、朱儀と夕凪のあいだにスポリとはまって横になった。


「えへへ……」


おねえさん二人に挟まれて、チヒロラが嬉しそうに笑う。

しばらくすると、可愛い寝息が一つ増えていた。


そんなチヒロラを、キキュールが眺めている。

優し気に見守っているように見えるが、実の所ぼんやりしていた。


心ここにあらず、といった感じである。

シノは横たわる床から、そんなキキュールの横顔をながめた。


「キキュール我慢することはない。街の様子を見てくればいい」


キキュールは、膝元のシノを見つめる。


「何のことだ?」

「ここへ入る時、ベイルフの街をジッと見ていただろう」

「……」


北地区の破壊状況はひどいもので、そこに住む獣人たちが皆、瓦礫へ座り込み途方に暮れていた。


キキュールは先ほど見た状況を思い浮かべ、溜め息をつく。


「いや、いいんだ。

私が行ったからといって、何がどうなる訳じゃない」

 

「我慢せずとも……」

「お前は、大人しく寝ていろ」

 

「しかし、だな……」

「うるさい、いいんだ私は」

 

「私は、お前のことを思って」

「なにが思うだ、半年も放っておいて」


ガチャリッ


「!」

「!」


せっかくの二人の時間を言い合いに費やしていると、楽市が帰ってきた。

楽市は、子供たちが全員ねているのを確認したあと、シノとキキュールをみる。


不自然におしだまる、二人の違和感に気付く……こともなく、キキュールに声をかけた。


「キキュールさん、ちょっとお願い」

「なんでしょう……」


「この部屋に、入れたい子たちがいるの。

外に待たせてあるのだけど……」


城壁の上部通路。

その何もない通路に、木製のドアが浮かび上がる。


そこからパーナたちが恐る恐る入ると、見慣れた城壁塔の部屋があった。


テーブルには自動筆記。

床には、ぐっすり眠る霧乃たち。


そしてテーブルの脇にある椅子には、オレンジ、黄緑、黄色、赤といった、ド派手なローブを重ね着したスケルトンがいた。


その傍には赤いローブを羽織る獣人の女が、寄り添うように立っている。

女はエメラルドグリーンの瞳で、パーナたちをジッと見つめていた。


その視線は妙に熱がこもっており、パーナたちは後ずさる。


楽市がシノへ、緊張する三人に代わって、かいつまんで話をした。

シノは、ふむふむと言いながら、じっと動かずに聞いている。


「なるほど、了解しました……ならば私が話しましょう。

さて獣人種の娘たちよ、私がラク殿の代わりに話をするが、構わないかね?」


三人は声をかけられて、ビクリとする。

座っているスケルトンは、全く動かず置物のようだ。


ただそこから、ちゃんと男の声が聞こえてくる。

パーナたちは、気味悪がりながらもうなずいた。


「では娘たちよ、現状を簡潔に話そう。

恐らくベイルフの住人は、全員一度死亡した。


その後、北の森の魔力によって全員復活したのだよ。

現在皆が、北の森の住人として生まれ変わっている」


「死……死んだというのですか!?」


ヤークトが、三人を代表して受け答えする。


「君たちも、見たのではないかね? 苦しむ獣人たちを」

  

そう言ってシノは、三人の首から下げている、ひび割れた青い宝石を見つめた。


パーナたちは死んだと聞かされ、それをどう捉えて良いか分からず、押し黙ってしまう。


シノは相手が意味を嚙みくだき、受け止めるのをまった。

しばらくして、ヤークトが尋ねる。


「死……あの、実感が湧かないのですが、それによりあたしたちは、お許しを頂けたという事でしょうか……」


ヤークトは、ちらりと楽市を見る。

楽市は鋭い目つきで、スケルトンを見つめていた。


一瞬真剣なまなざしで、教えを乞う生徒のように見えたが、気のせいだろう。

スケルトンの講義が続く。


「ふむ、君たちの種は、その許す許されるの概念が、大切になってくるのだったね。


しかしこの場合、その概念は関係ないのだよ。

おめでとう、君たちはもう北の住人だ。

好きに住むといい」


「好き……にですか!?」


「ただし君たちは、リスクを背負うことになった」

「リスク?」

 

「北の住人になったと言うことは、ダークエルフと敵対すると言うこと。

ダークエルフは必ず、森を滅ぼすため攻めてくるだろう。


そのときダークエルフの軍構成は、ほぼ獣人種と言っていい。

つまり君たちは、同族どうしで殺し合うことになる。


拒否はできない。

北に住んでいれば、向こうが勝手に攻めてくるからね。

 

それが嫌でこのままダークエルフの下にいると言う、選択肢もあるのだが、あまりオススメ出来ないね。


遅かれ早かれダークエルフは、君たちの性質の変化に気付くだろう。

そうなれば彼らは君たちを、“特殊検体”としてイジリ回すだろうから。

  

私としてはラク殿について、ダークエルフと敵対する方が、良いと思うが……

まあ、選ぶのは君たちの自由だよ」


「うっ」

「くう……」


パーナとヤークトはそれを聞き、再び押し黙ってしまう。

そんな中で、クローサだけが顔をあげ叫ぶ。


「そんなの、ウソよっ!」











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