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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第2章 中核都市ベイルフ
127/683

127 豆福のぢごく絵面

 

「きたーーーーーーっ!」


豆福の叫ぶ横で、楽市は立ち上がり足元を凝視する。


「今の、何だったの!?」


確かに足元を、何かが通りすぎたのだ。

だが何も見えない。


楽市は目を凝らして、何があったのか見極めようとする。


するとアンデッドの粉末が薄くつもる地面に、何か小さなものが、うごめくのを見つける。

黒くて小さいもの。


「アリかな?」


楽市がよく見ようと顔を近づけると、それはアリではなく、小さなミミズのようなものだった。

地面から頭をだして、のたうっている。


楽市は顔をしかめた。

あまり、気持ちの良いものではない。


「何なのこれ?」


楽市が見つめていると、すぐ隣にも同じものが顔をだした。

ポツポツと増えていく。


のたうちながら、それは少しづつ伸びていった。

見る見るうちに、増えていき足元に広がっていく。


「うひいっ」


楽市は、あまりの気持ち悪さに後ずさった。

するとその足裏に、ミミズを踏みつける感触がはしる。


「うひゃあっ!」


ミミズらしきものは踏まれても物ともせず、楽市の足裏で動き続ける。


その感触は、楽市を震え上がらせた。

楽市のはく黒草履は、自身の一部を変化させた物であり本物ではない。


いわば、草履の形をした素足なのだ。

楽市はダイレクトに伝わってきた、ヌメリに悲鳴をあげた。


「うぎゃあああっ、気持ち悪いっ!」


悲鳴をあげるのは、楽市だけではない。

霧乃たちも、そろって叫んでいた。


「ひゃあっ、ふおーっ!」

「げーっ、これ、だめだっ!」

「やだ、やだ、やだっ!」

「ひーっ、気持ち悪いですっ!」


足をどかして移動しても、その先で黒ミミズを踏みつける。

慌てて足を引いても、そこで踏みつける。

気付けば辺り一面で、黒ミミズがのたくっていた。


白かった地面がゴマ塩となり、やがて黒一色の絨毯(じゅうたん)のようになっていく。

だからと言って、下ばかり気にしてはいけない。


霧乃が足元ばかり見て騒いでいると、頬っぺたに幾つもの黒い粒がくっついた。


小指の先ほどしかない、小さな黒い粒である。

頬の上で黒い粒は、ふ化直前の卵のように表面がモゾリとする。


霧乃はその感触に怖気ふるい、慌てて手で払いのけた。

するといつの間にか、腕にも沢山くっついている。


「ひゃあああーっ、むぐっ」


霧乃が悲鳴を上げようとすると、黒い粒が口に入りそうになる。

霧乃は、口を押さえて叫んだ。


「ふぐーっ、むぐーっ!」


夕凪が、手で口を隠しながら叫ぶ。


「うぐっ、うえだーっ、うえに、にげろっ!」


その声で霧乃と朱儀が、火の玉になって舞い上がる。

そんな中で、チヒロラはお師さまをギュッと掴んで、おぞましい感触に耐えていた。


「ぶあーっ、はあーお師さまーっ!」


チヒロラはお師さまを、守らなければいけないのだ。

鬼火となって、飛び上がる訳にはいかない。


キキュールも、シノにくっつこうとする黒い粒を必死で払う。

強くはたくとプツリと潰れて、ローブに黒い染みができた。


「何なんだ、これはっ!?」


霧乃たちの逃げた空も、気の休まるような所ではなかった。


風に巻き上げられた無数の黒い粒が、密になり疎になり、空にまだら模様をつくっている。


朱儀の鬼火の表面に、黒い粒が触れるとジュッと小さな音がした。

鬼火の熱で、黒い粒が焼け焦げていく。

その感触が、朱儀へ直に伝わる。


ジュッ、ジュジュ、ジュリッ。


鬼火の大きさは、子供の握りこぶし程である。

そこへイクラ粒ぐらいの大きさが、いくつも張り付く。


サイズ比からいって、巨大羽虫が自分の肌の上で、焼け焦げて煮崩れるような感触をあじわった。


朱儀は次々と襲い掛かるその感触に、パニックとなる。


「う゛わーっ、ぎもぢわるいーっ!」


これではまだ、黒ミミズの方がましだ。

一刻も早く逃れたいため、位置のことなど考えずに、その場で元の姿へもどってしまう。


朱儀は十五メートルの高さから、落っこちていった。

しかしうごめく黒絨毯が、朱儀を受け止めて痛くない。

ネチャ、グチャッ!


「うひーっ!」


痛くはないが、痛い方がましだ。

その脇へ、霧乃と夕凪も落っこちてくる。


「ぎゃあーっ!」

「おえーっ!」


慌てふためく霧乃たちに、楽市が叫ぶ。


「みんな、落ち着いてっ、あたしの中に入って、早くっ!」


「らくーちっ!」

「わー、らくーちっ!」

「あ゛ーっ!」

 

「チヒロラも、ほら早くっ。

シノさんは、あたしが掴んでおくからっ!」


「ひーっ、お願いしますーっ!」


霧乃たちは楽市の中に逃げ込み、ずぶ濡れの小動物のように、くっつき合って震えだす。


黒い粒が渦巻く外側には、楽市、シノ、キキュールの三人となる。


いや豆福がいない。

楽市は自分の中に、豆福が居ないことに気付いた。


「豆福は、どこっ!?」


(あっ、まめが、いないっ!)

(まめっ!?)

(えーっ!)

(まめさんっ!?)


楽市は黒い粒が口に入るのも構わず、大声をだした。


「豆福どこなのっ、返事をしてっ!」


すると、すぐ傍で返事が聞こえる。


「ここー」

「えっ、豆福そこにいるのっ!?」


豆福は、一歩も動いていなかった。

ただ体中にビッシリと黒い粒がついており、完全に覆われている。


それはもう豆福ではなく、豆福の形をした黒い何かだ。


視界を遮る黒い粒と黒ミミズのせいで、豆福の輪郭が、見事に景色へ溶け込んで全く分からない。


「豆福、大丈夫なのっ!?」

「だいじょーぶー」


豆福は、全く平気なようである。

ベテラン養蜂家のように、体へビッシリたかられても気にもしない。


「ひぐっ、これ豆福がやってんのっ!?」

「うん」


(えーっ、これ、まめなのっ!?)

(なにこれ、すげー、きもいっ)

(わーっ、まめ、やめてーっ)

(止めて下さい、まめさーんっ)


「これ、何なのっ!?」

「きたのー」

「え!?」


ビターンッ、ビターンッ!


「ひっ、何の音!?」


楽市が詳しく聞こうとした時、すぐ傍で地面を激しく打つ音がする。


楽市がそちらを見ると、真っ黒な巨大ミミズらしきものが、土から顔を出していた。

 

太さは、楽市の胴回りほどあるだろう。

それが辺り構わず、その身を地面へ打ち付けている。


ビターンッ、ビタンッ、ビターンッ!


「キキュールさん、こっちへっ!」

「ああっ!」


巨大ミミズに押し潰されないよう、黒い豆福を抱えて、キキュールと一緒にシノを引っ張り遠ざかる。


しかし地面を打ち付ける音は、そこら中から聞こえはじめた。


楽市は狼狽して、周りをみる。

視界に山が入った。

楽市は、そこで絶句する。


「うそ、山が……」


焦土と化していた山肌一面に、多くの巨大ミミズがのたくっていた。

打ち付ける音が無数に重なり合い、山々が鳴動している。


のたうつ度につもる灰が舞い上がり、山々に灰色の霧がかかっていく。

キキュールは、シノを抱きしめながらつぶやいた。


「ここは、地獄か……」


すると、かすれた声が傍で聞こえた。


「違うのだよ、キキュール」


「シノっ!?」

「シノさん!?」


キキュールは、シノを抱く手に力が入る。


「お前、起きたのかっ!」

「こう、乱暴に扱われてはな、流石におきる……

しかしまた、これを見られるとはな」


そう言ってシノは、黒い粒が舞う(まだら)の空を眺めた。


「シノ知っているのかっ、何だこれはっ!?」

「再生だ」

「さいせい!?」


「森が、生き返るのだよ」

「なにっ!?」

「何ですかそれっ、シノさん!?」


楽市たちの会話が聞こえたようで、抱えられた黒い豆福が嬉しそうに答える。


「それー!」







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