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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第2章 中核都市ベイルフ
125/683

125 一体何が、始まるんです?


自分は一体、何を見ているのだろうか?

キキュールは、自問の沼に沈み込む。


城壁の向こうでは、数え切れないほどの獣人の死体が、転がったままなのだ。

なのに何事も無かったかのような顔で、目の前の者たちは喜び合っている。


チヒロラがフワリと揺れるシノを引っ張っていき、楽市という女に見せていた。

楽市はシノを覗き込み、ホッとした顔をする。


長年獣人たちの表情を読み取ってきたキキュールには、柔和な目元のその表情を、心から現れたものだと判断した。


つまり楽市は本当に、シノを心配して安堵したのだ。


キキュールは考える。

なぜそのような優しさを、壁一枚向こうの獣人たちへ向けないのか?


楽市が、チヒロラの頭をなでている。

するとチヒロラが嬉しさのあまり、また泣き出したようだ。


周りの子供たちが、再びチヒロラを抱きしめている。

なんと、優しい世界なのだろうか。


キキュールは不思議に思う。

なのになぜその気持ちをベイルフの獣人へ、これっぽっちも向けないのか?


キキュールは、「なぜ、なぜ、なぜ」と疑問を投げかける。

ただし声には出さない。


全て自分の内側に、響かせていた。

疑問が次々に体内で、跳ね返り続ける。

その結果、得られた答えはシンプルなものだった。


――それは、全員アンデッドだから。


それは石畳で運ばれていた時にも、得られた答えである。


同じ問いに粘着して、いつまでも繰り返す自分に嫌気がさす。

それでも止められない。


「あやし」という種らしいが、アンデッドには変わりがない。


彼女たちからは、生者のような精気は全く感じられず、漂うのはドス黒い瘴気のみ。


そのような者たちが、獣人の死を悲しむわけがない。


そして問いの答えは、問い続けるキキュールに跳ね返ってくる。


なぜならキキュール自身も、アンデッドだからだ。

その事実が、キキュールを苦しめる。


楽市たちに向けられていた怒りが、全て自分に向けられる。


――お前はアンデッドとして、これまでどれだけの獣人を殺してきたのだ?


数え切れないほど。ベイルフの比ではない。


ベイルフの死者数など、キキュールの殺してきた数に比べれば、誤差でしかないだろう。


数千年の間、獣人種はダークエルフの従者として、事あるごとに攻めてきて、それをことごとく屠ってきた。


そんなキキュールが、ベイルフの獣人の死に憤るなど、


「何の、冗談なのだこれは……なんて滑稽なのだ……なんて……」


自問を繰り返すキキュールに、楽市が心配そうに話しかけてきた。


しかしキキュールは自分の問いに溺れており、ろくに返事をする事ができない。

適当な返事をする。

楽市が、怪訝な表情をした。


キキュールは、それを取り繕う気になれなかった。


子供たちに取り囲まれて、ふわりと揺れるシノを見る。

まだ意識が混濁しており、会話ができない。

 

――シノ……私は、どうすれば良い?


そんなキキュールを置き去りにして、優しい世界は動き出す。



ホクホク顔の豆福が、ぴょんと飛んだ。

みんなの注目を集めてから、両手を挙げて宣言する。


「まめ、やるよーっ!」


一体何を、やるというのか?







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