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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第2章 中核都市ベイルフ
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124 豆福のほっぺた


これは、どういう事だろうか?

豆福は現場を押さえて、頬っぺたを膨らませた。


火を消したら、すぐ迎えに来るのではなかったのか?


なのに皆が寝ている、それも仲良くっ!

豆福を、のけ者にして仲良くだっ。


ぱっと見て、楽市の上に自分の寝る場所がなかった。

それも腹が立つ。


――すぐにって、いったのに。すぐって!


そんな思いで膨れてしまった豆福の体が、反射的に動きだす。

むくれながら楽市の顔にポスンッと座り込み、ゆすって全体重をかけてやった。


「うー、もー、らくーちーっ!」

「むぐっ、うぐっ、うぐぐーっ!?」


突然息のできなくなった楽市は、カッと目を見開く。

すると目の前に、金色のドロワーズが見えた。


「ぶはーっ!」


楽市が苦しくて上半身を起こすと、前後左右に霧乃たちが、綺麗に転がっていく。


「わーっ?」

「なんだーっ?」

「あーっ?」


「もーっ、らくーちーっ!」


「わ、豆福っ、どうしてここにっ!?」


転がる霧乃たちが、他の三人にも気付いた。


「あ、チロだ」

「おしさまだっ」

「じゃない、ほー」


キキュールが渋い顔をする。


「ちゃんとキキュールと、呼んでくれないか?」


それを聞き、楽市がビックリしてしまう。


「えっ、キキュールって、えっ……」


楽市が体をねじると、赤いローブを羽織った美しい獣人の女が立っていた。


艶のある黒髪を肩にたらし、エメラルドグリーンの瞳が困惑気味に、楽市を見つめている。


楽市がポカンとしてしまったので、キキュールから声をかけた。


「……私は、キキュールという」

「あ、あーっ!、あたしは楽市です……あはは」


楽市は顔を真っ赤にして、手櫛で髪をとかし始める。


ここの所、山火事にかかり切りだったので、自慢の銀髪がボサボサだ。

髪をすく手も頬っぺたも、着ている小袖もみんな煤で汚れていた。


「あはは……」


楽市は豆福たちを迎えにいく際、きちんと整えて行くつもりだったのである。

しかし整える前に、向こうから来てしまった。


シノの時には、背伸びを見られて大失敗したので、今度こそはと思っていたのだ。

しっかりとした白狐を、見せようと考えていた。


やはり初対面の印象がだいじ。

楽市はそう思うのだ。

しかしその計画が、一瞬で瓦解してしまう。


そのため、どうして良いか分からず固まってしまった。

その間に挨拶をされて、楽市も慌てて返すが、


「あはは」


その場をごまかそうと、卑屈な笑顔つきである。

楽市は自分の顔が、真っ赤になるのを感じた。


そんな楽市の膝に、豆福が勢い良くのっかる。


「らくーち、こっちーっ!」


怒っているのは、豆福なのだ。

楽市の襟をひっぱり、こっちを見ろと憤慨する。


「わー、ごめん豆福っ。

今朝、火事が消えたばかりでさ、ちょっと寝てから、迎えにいこうと思ってたんだっ」


霧乃たちも、慌てて豆福をなだめにかかる。


「まめ、ごめんっ」

「ごめん、ねてたっ」

「ごめんね、まめっ」


豆福は、姉たちを眺める。

顔中煤だらけで、髪もボサボサだ。

 

みんな山火事を消すために、頑張ったのだろう。

それがだんだん、豆福にも分かってきた。


「あー」


膨れていた頬っぺたが、小さくなっていく。

豆福は少しうつむいてから、一人一人に頬ずりをした。


「うー、

きり、うーな、あーぎ、らくーち、

ありがとー」


「まめっ」

「まめっ」

「まめっ」

「豆福っ」


豆福は楽市たちから一回ずつギュッとされる頃には、もうホクホク顔である。


「チヒロラも、ごめんねっ」


楽市はそう言って、チヒロラも抱きしめる。

霧乃たちもチヒロラに謝りながら、抱きついていった。


「あーそんな、謝らないでください。

チヒロラは別に、怒ってないですよー。

 

でも、えへへ。

ギュッとされると、えへへー、

あー、やっぱり、お姉さんって良……

皆さん、お疲れ様でしたーっ、ふひひ」

 


キキュールはその光景を見て、ますます困惑してしまう。

彼女は辺りを見回す。


崩れた城壁。

ベイルフ内の大量の死体。

大規模な山火事。

その頂にいる、凶悪な巨大アンデッドたち。


それら壮絶な暴力の中心にいる女が、残虐さを一切感じさせず、子供たちに囲まれて優し気な笑みを浮かべていた。


「何……なんだ!? これは……!?」






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