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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第2章 中核都市ベイルフ
122/683

122 まめと、キキュール


遅い朝――


キキュールが、河原にたたずんでいる。

川の流れを眺めながら、左手を軽く左右に降っていた。


その度に左手の周りには小さな魔法陣が、浮かび上がっては消えていく。


「ふむ……」


キキュールは手の調子に、納得した様子でうなずく。

右手はペラペラでまだ動かないが、左手は完全復活したと言える。


「これならば、いけるか……」


そうつぶやくキキュールの後ろから、チヒロラの慌てる声が聞こえた。


「キキュールさん、たいへんですーっ!

まめさんが、おかしくなっちゃいましたーっ!」


「なに?」


チヒロラに手を引かれて行ってみると、豆福が川辺の木に手をついて、独り言をつぶやいていた。


「そー、うん。

うーなが、ねー、まって、てって……」


うなだれる小さな背中を見て、チヒロラの顔が青くなる。


「どうしたら、良いんでしょうかっ!?

まめさん、みんなに会えなくて、変になっちゃいましたーっ!」

 

「う~ん……」


キキュールもその姿を見て、困ってしまう。


あれから三日。

キキュールが目覚めてから、もう三日が経ってしまった。


その間、豆福は楽市たちと離ればなれなのである。

チヒロラが眉を八の字にして、キキュールのローブにしがみつく。


「まめさんは、さびしいのをガマンして、お師さまを治すために、残ってくれたんですーっ!」



三日前。


シノとキキュールを安全な所まで運んだ夕凪が、すぐ引き返して楽市を助けようと提案した。


その際チヒロラと豆福には、残っていてくれと告げたのだ。


シノとキキュールの食事(ドレイン)がひと段落して、ウトウトしていた豆福が、それを聞きびっくりしてイヤイヤした。


チヒロラはお師さまの傍にずっと居たいので、むしろそれが有難い。


しかし豆福は違う。

なぜ自分は行けないのかと、怒り出す。


「やーっ、まめも、いく!」


眠い目をこすりながら、夕凪に抗議をする。

そんな豆福を、夕凪はそっとダッコした。


「まめ、ごめん。

でも、おしさまが、心ぱいなんだ。

まめはこのまま、おしさまを、治してあげて」


「うー」


夕凪の腕の中でむずがる豆福に、霧乃も声をかける。


「おしさまを、なおせるの、まめだけなんだ。

おねがい。

おしさまが、死んじゃったら、きり、やだよ」


「うーなぎも、やだ」

「あーぎもー」


そう言われても、豆福は霧乃たちといつも一緒だったのである。

離れたことなんて一度もない。


不安がっていると、三人がそんな豆福を真ん中にして、優しくギュッとしてくれた。


「チ……チヒロラも、やですー」


チヒロラも、震える声でつげる。

その目には、涙がたまっていた。

何度もすすった鼻は、真っ赤だった。


豆福はそれを見て、ハッとする。

下唇をかんで、ぐずるのを止めた。


チヒロラは今日ずっと、泣いていたのかもと思ったからだ。

豆福はまだちょっと膨れてしまったが、留まることをきめる。


「うん、まめ、やるー」


「まめさんっ!」

「まめっ」

「まめっ」

「まめっ」


四人が、豆福にいっぱい頬ずりした。

豆福は普段ならくすぐったくて、手の平で思いっきり突っぱねる所だ。


でも今日の豆福は、されるがままにした。

ほっぺたを真っ赤にして、再度宣言する。


「うん、まめ、やるよっ!」




チヒロラはその時のことを思い出しながら、手をわちゃわちゃさせた。


「うーなぎさんは火も消して、すぐ帰るって言ってたんですっ。

まめさんは、それをずっと待ってるんですーっ」


キキュールはもう一度、豆福の背中を見る。


「そうか……ではこちらから向かおうじゃないか」

「えっ?」


「私も、ベイルフが気になるんだ」

「キキュールさん、もう大丈夫なんですか!?」


「ああ、まめのお陰でな」


キキュールは、ぶつぶつと独り言を続ける豆福の髪にふれた。

振り向く豆福の顔は、ぼんやりしている。


「まめ、行くぞ」

「んー、どこ」

 

「決まっているだろ、らくーちの所だ」

「えっ、らくーちっ?」


豆福の顔が、パッと輝いた。


「ああそうだ。

私の魔法が三日前のあの程度だと思われるのは、気に入らないからな。

パッと連れてってやる」


そう言ってキキュールは、動く左手をニギニギする――






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