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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第2章 中核都市ベイルフ
121/683

121 楽市消防班、出動!


「なんか、つかれた」

「うん、おえってなって、つかれた」

「らくーち、つよい……」


朱儀を真ん中に挟んで、霧乃たちはペタリと座り込んでいた。

座る場所は楽市の姿をした、角つきの頭の上である。


霧乃と夕凪の獣耳がたれ気味となり、二人は自分の尻尾を抱え込んでいた。


真ん中の朱儀はイジる物が無いので、角つきの頭に生える髪の毛を一本、膝の上にのっけている。


角つきのてっぺんにいるため、正面を見下ろすと二十メートル程の高さとなるだろうか。

そこには、半透明のローブ姿に戻った幽鬼。


その左右に四足獣アンデッドがいて、こちらに向かい首を垂れていた。

角つきへ、服従の姿勢をたもっているのだ。


トリクミの終了である。


楽市姿の角つきが手の平を上にして、左手を差し出す。

すると手の平から、楽市が浮かび上がってきた。


銀の髪、

美しい金の瞳、

細い首筋、

華奢な肩。

 

背中から腰にかけては、黒々とした太い尻尾が生えていた。

その先が、角つきの手首と同化している。


あまりにも太いので、それはもう尻尾と呼べる代物では無いかもしれない。

後方から見下ろす霧乃たちからは、楽市の背中とつむじが見えた。


全身が現れた所で、楽市は辺りを見回す。

空はすっかり暗くなり、ヒノモトでは見ることの出来ない、満天の星空が(またた)いている。

その下では、今も赤々と山火事が続いていた。


こうしている間にも、刻一刻と延焼域が拡大しているだろう。

楽市は頬をふくらました後、角つきの尻尾を操作する。


尻尾の先を三又にして、それぞれの先を、伏せるがしゃたちの背へくっつけた。

楽市は声と共に、がしゃたちへ心象をおくる。


「これで、トリクミは終わりっ。

あたしの勝ちっ、いいよね?」


これは、がしゃたちのトリクミである。

しかし楽市の中では、すっかり自分のトリクミになっていた。


楽市には関係ないのだが、それを指摘できる者は目の前にいない。

楽市は腰に手をあてて、がしゃたちを見る。


「えー、異議なしということで、これから山火事を消したいと思います。

幽鬼と獣がしゃは、川の西側を消火してね。

  

獣がしゃは延焼しそうな周りの木を、噛みちぎって後方へ放り投げて。

くれぐれも炎の側に、マキとしてくべちゃ駄目。


幽鬼は色々できそうだから、川の水をとにかく撒いて消火して。

やり方は任せるから。どうかな?」


楽市がいったん言葉を区切ると、幽鬼たちは深々と頭を下げた。


「うん、ありがと」


次に楽市は振り返り、角つきをみる。


「あんたは川の東側ね。

あたしたちと一緒に消火して。

やることは、獣がしゃと同じ。

とにかく燃えそうな木を切って、炎から遠ざけて」


角つきは、楽市の顔でうなずく。


「よろしく。

よし、それじゃあ霧乃、夕凪、朱儀――」


そう言いながら楽市は、少し視線を上げたものの、ちょっと困った顔をした。


「ねえ大丈夫? まだ気持ち悪い?

あたしと一緒に炎を炎で囲って、消して欲しいんだけど……」


霧乃たちは、元気が無いながらも楽市へ手をふった。


「だいじょーぶ」

「けすぞ、まかせろ」

「やるー」


そう言って三人は火の玉となり、楽市の中へ入っていく。

楽市は自分の胸をポンポンと叩きながら、霧乃たちへ声をかける。


「そんなに、気持ち悪がらなくても……ごめんごめん、もうやらないからさ」


(きもちわるい? うーん、そう。でも、ちょっとちがう)

(なー、何か、らくーち、じゃない、みたい)

(うん、みたい)


「どういう事?」


(う~ん……)

(よく、わかんない)

(うんうん)


「んん?」


霧乃たちは、上手く言葉に表せなかった。

楽市が幽鬼を噛み千切っているとき、何だか楽市であって、楽市じゃない気がしたのだ。


あのとき、ほんのちょっぴり楽市に別の何かが、取り憑いている気がしたのだった。


それが何なのか、霧乃たちには分からない。

分からないから少し不安になって、ちょっと疲れた。


楽市がナゾかけのような言葉をうけて、戸惑っていると。

霧乃たちが逆に、楽市をはげました。


(らくーち、気にするな)

(らくーち、げんきだせ)

(らくーち、だから)


「う、うん!? ありがと?」


よく分からなかったが、今は山火事を消さなければならない。

楽市は気持ちを切り替えて、角つきに手をふる。


「じゃあ、がしゃ。

あたし出るからさ、体をありがとね」


そう言って楽市は黒い尻尾を、角つきからゆっくりと引き抜いていく。


それと同時に、角つきの体に巻き付いていた瘴気がほどけていった。

楽市は引き抜きつつ、自重を尻尾で支えて浮き上がる。


尻尾を全て抜き終わると、そこには元の巨大スケルトンが立っていた。

しかし、雰囲気がガラリと変わっている。


全身の傷が、全て瘴気で穴埋めされていたのだ。


黒い傷跡がタテ、ヨコ、ナナメと、至る所に刻まれている。

それは不規則なパターンながらも、角つきにある種の威厳とすごみを与えていた。


翼と尻尾は噛み砕かれていたので、完全に新規形成だ。

黒々とした骨の翼が折りたたまれており、同じく黒々とした尻尾がスラリとのびている。


さらに両腕も二の腕から先が、ほぼ新しく形づくられた物であり、黒く染まっていた。


ただでさえ悪魔的なフォルムなのに、山火事で浮かび上がるその姿は、凶悪さに拍車がかかり、子供たちの目を釘付けにしてしまう。


(すごいっ、なにそれーっ!?)

(カッコイイっ、カッコよすぎっ!)

(ぶあーっ、のりたいっ!)


先ほどまで、だだ下がりだったテンションが爆上がりである。

楽市はそれを見て、少しほっとした。

 

三人のいつもの五月蠅(うるさ)さは、本当にびっくりするほど五月蠅い。

けれどそれが楽市に、日々の何気ない生活を与えてくれるのだ。


そんな霧乃たちから大絶賛をあびる角つきは、自分の変化に興味がないらしく、静かにたたずみ指示を待っていた。


「はいそれじゃ、始めてっ!」


楽市が手を叩くと、がしゃたちが、それぞれの持ち場へと走り去っていく――








タコ姉さまクラファン達成、おめでとうございます!

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