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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第2章 中核都市ベイルフ
120/683

120 一口、嚙み千切ってみる。


瘴気を全開にしてくれ。

そう言われて、楽市が心配そうな顔をする。


(大丈夫かな、シノさんたちまで届かない?)

 

(ほんの、ちょっとで、いーよっ、ぱってして)

(ぱっとしろ、らくーち、まかせろっ)


霧乃たちは一瞬だけの瘴気で、捉えて見せるという。


霧乃と夕凪の索敵能力は、通常でもかなり高く、さらに今は楽市からの瘴気で、能力ブーストが掛かっている。

二人は自信をもって、楽市に催促する。


(( か゛ーゆ゛ーい゛ー、は゛ーや゛ーく゛ーっ! ))

 

(わかったってっ。それじゃあ一瞬だけ、いっせーので行くよっ)

(うんっ!)

(はやくだせっ!)


(それじゃあ、いっせーのーっ!)



四足獣たちが飛びかかろうと、地面に爪を食い込ませたとき。

角つきの体が、一瞬膨れたように感じた。


その直後、眩暈がするほどの闇に四足獣は包まれる。

四足獣の体がビクンと跳ねて、尻尾が内側に丸まってしまう。


角つきから放射された闇が全方位を蹂躙し、燃え盛る山の炎が一瞬だけ、黒と金の入り混じる炎へと転じた。


索敵能力をシンクロさせて、霧乃と夕凪は全方位を駆け抜ける瘴気へ、五感をすませる。


すぐそばに、四足獣アンデッドが二体。そしてベイルフの城壁。


瘴気が広がる際の僅かな気流の乱れで、物の形がハッキリとわかる。

そしてその中に、動かないはずのものが跳ねるのを感じた。


(おっ?)

(はっ?)


(どう、霧乃、夕凪っ?)


楽市はそう言って、夜空を睨んだ。

楽市が目を凝らしても、星が瞬いているだけで何も見つけられない。


(( らくーち、みつけたっ! ))

(どこっ!?)


(( そこーっ! ))


楽市は二人のユニゾンと共に、心象で伝えられた方向を見てうなる。


(なんとっ!)


楽市は幽鬼を見つめながら、首を傾げた。


(あいつ凄いのか駄目なのか、良く分かんないなっ)


楽市の見つめる先には、四足獣に腹を食い千切られた、マース級ストーンゴーレムが転がっていた。


山火事に照らされて、巨体がオレンジ色に染まっている。 


少し離れた所にもストーンゴーレムがひっくり返っており、そのゴーレムも腹を食い千切られていた。

その損傷の具合が、先に見たゴーレムと全く一緒だ。

 

うり二つなのだ。

そんなことが、あり得るだろうか?

楽市は呆れたが、霧乃たちは少し違った。


(はー、すっごい、どうなってんの!?)

(あいつ、すげーっ!)

(すげーっ!)


(朱儀、逃がしちゃ駄目)

(うんっ!)


楽市に言われて朱儀が黒き巨人を、ズシンズシンと走らせる。


手前のゴーレムを飛び越えて、奥に転がるゴーレムの残骸へ馬乗りとなった。

体重をのせ、両足をぐっと締める。


すると瓦礫でしかなかった岩が震えだし、その輪郭がぐにゃりと崩れた。

巨大な幽鬼が、崩れたストーンゴーレムに成りすましていたのだ。


幽鬼は角つきから逃れようと身をよじり、体をガス化させ始める。

しかし、うまくいかなかった。


見れば、角つきとの接点が癒着(ゆちゃく)している。

角つきの巨体は瘴気で形作られていおり、その瘴気が溶けるようにして、ピッタリくっついているのだ。


幽鬼が模したゴーレムの色味が薄れて、透明になっていく。


かと思えば幽鬼は体表面に、赤、黄、緑、紫など、様々な色をびっしりと(まだら)に浮かび上がらる。

それを激しく明滅させ、くねり始めた。


(うわーっ、きもちわるいっ!)

(きもい、きもい、きもいっ!)

(わっ、やだーっ!)


(何だこれっ!? 釣れたてのイカみたいだなっ。

あっ、ちょっと朱儀、そいつから離れないでっ)


楽市が、気持ち悪がり離れようとする三人を必死に抑える。


(ここで逃がすと、面倒くさいんだから我慢してっ)


(いーやーだっ!)

(きーもーいっ!)

(もー、やーっ!)

 

霧乃たちは楽市の言葉に耳を貸さず、角つきのコントロールを放り投げて、心象内で縮こまってしまう。


(まったく、もうっ!

あたし一人じゃ、強いパンチとか打てないでしょっ)


楽市は考える。

トリクミに勝つには相手の体に、分からせなくてはいけない。


このまま瘴気を全開にして、震え上がらせる手もあるだろう。

しかしそれでは、楽市の気が収まらないのだ。


散々やられてきて、一発も返さないなんて違うと思う。

しっかり、物理で分からせたい。

そう考えた楽市は、心象内で顎をさする。


(これは、あれをやるしかないな)


楽市はそう言ってため息をつき、巨人の身をかがませる。


すると楽市とそっくりな巨人の髪が、さらりと流れて落ち幽鬼の表面をなでた。

さらに、身をかがませていく。


巨人の顔が幽鬼に近付くので、朱儀が悲鳴をあげた。


(なにすんのっ!?)

(なにって、あんたたちが手伝ってくれないから、仕様がないでしょ)


霧乃と夕凪が、はっとして気付いた。

二人の記憶が甦り、恐怖で怖気ふるう。


(あっ、まさか、あれやんのーっ!?)

(うわあっ、やーめーろーっ!)


心象内のすみっこで叫んでも、角つきの動きは止まらない。

楽市そっくりの美しい顔が、口を開いていく。


瘴気は筋線維ではないので、顎が一八〇度近く開いた。


これは、(くわ)え加減が難しい。

しっかり牙を当てて噛まないと、分からないだろう。


(うぎゃあきあああっ、きもちわるいっ! うっぷっ)

(なんで、へいきなの、らくーちっ!? おうっぷっ)

(うええっ、らくーち、おええええっ!)


(何でって……まあ、ちょっとは気持ち悪いけど、別にぬるぬるもしてないし、これ色だけじゃない?)


楽市はガード下で、様々な山海珍味を食べてきたのだ。


楽市はその中で、「いかものブーム」なる時代も経験してきたのだった。

四〇〇年の食道楽は、伊達ではない。


たかだかイカの生き造りもどきに、腰が引けることはなかった。

逆に首をかしげる。


(あんたたち獣の内臓とか平気なのに、なんでそうなるの?)


見慣れたものと、一緒にされても困る。

三人はそう言いたかったが、口からは悲鳴しかでてこない。


楽市は三人を無視して、幽鬼へ歯を食い込ませた。


途中でちょっとぐらい嚙み千切っても、大丈夫かなと思い、一口嚙み千切ってみる。味はしない。


幽鬼が触腕を幾つもの伸ばして、楽市に絡みつかせる。

しかし楽市は意に介さず、喉らしき部分へ噛みつき続けた。 


もう一口、もう一口。

 

(( ぎゃあああああああっ、きもいっ! ))

(らくーち、きーらーいーっ!)







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