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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第2章 中核都市ベイルフ
113/683

113 ずっと、お友達でいましょ?


なぜだか分からないが、北からの瘴気がだいぶ緩やかである。


その間に南地区の通りを、御輿が全力で駆け抜けていった。


「「「「 よいしょっ、よいしょっ 」」」」

 

石畳を担ぐ霧乃たちは、息切れ一つ起こしていない。

見た目は幼子でも、みんな妖しの類なのだ。


体力が並ではない。

夕凪が後ろを振り返り、よゆうの笑顔をふりまいた。


「これは、いけるっ、かったっ!」

「うーなぎ、まだ、はやいってーっ」


気を緩ませる夕凪に、すかさず霧乃が釘をさす。


瘴気の勢いは衰えていると言っても、後ろから確実に迫ってきているのだ。

今は順調でも、いつ何が起こるかは分からない。


「あー、きり、分かって……あっとっと!」


話に気を取られた夕凪が、死体に足を引っかけて転びそうになった。

石畳の御輿が傾き、上に乗せているシノたちが少しズレてしまう。


「もう、うーなぎ、気をつけてよーっ」

「うわー、ごめんてっ」


霧乃と夕凪は、ツンツンして話しているが楽し気だ。

いつもの二人である。


そんな上の子たちの空気が、後方にも伝わって、朱儀とチヒロラがニコニコしていた。

上にのっかる豆福だけが、それどころでは無いと言った感じで真顔である。


そんな子供たちの会話を、キキュールがぼんやりと聞いていた。


豆福に手当を受けるキキュールは、少し前から起きていたのだ。

キキュールは、朦朧(もうろう)とする意識で考える。


――この子たちは、誰なのだろうか?  


キキュールはそう思いながら、すこし首を傾けて通りを見る。

通りの至る所に、獣人たちの死体が転がっていた。


皆、苦し気な顔で息絶えている。

キキュールに、新たな疑問がわく。


――この子たちは、この光景が気にならないのだろうか?

 

死体だらけの通りを走っているのに、子供たちは気にも留めず笑っているのだった。


――この子たちは、何か決定的な感情が欠けている


キキュールは、そう判断した。

しかしすぐさま、自分の答えに反問する。

 

――いや……おかしいのは、自分ではないのか?


キキュールは、子供たちから生者が発するはずの生命力を、全く感じていなかった。

 

あの北の森に住む、獣たちと同じである。

その点から言って子供たちは、確実にアンデッドであると判断する。


ならばだ。

生者が何人死のうが、気にも留めないのは当たり前であった。

キキュールは新たに出した答えを、自嘲気味につぶやく。


「気に留める私の方が、おかしいわけか……」


手当てをする豆福が、その声に気付きキキュールを見た。

キキュールと目が合い、ポカンとしてしまう。


今まで食事(ドレイン)に集中して、キキュールが起きていることに、気付いていなかったのだ。

 

すると豆福は「あっ」と小さくつぶやいて、再び手元を見つめだす。

ちょっとでも気がそれると、別のところを食べてしまうのだった。


それでも、キキュールの方をチラチラと見る。

その仕草が可愛らしくて、キキュールは知らぬ間に笑みを浮かべていた。


「……私を、助けてくれるのか?」


いきなり声をかけられた豆福は、ビックリしつつも、手元を見ながら返事をした。


「うん、できるー、あっ」

「そうか、ありがとう……」

「うん、あっ」


二人の会話が聞こえたのか、霧乃たちが声をかける。


「あー、おきたの?」

「ん、おしさま、じゃない、ほう?」

「じゃない、ほうだっ」

「あー、キキュールさんっ、良かったですーっ!」


その声に、キキュールが返す。


「……ああ、少し前から起きていてね、ありがとう。

君たちのお陰で、私は助かった」


ありがとうと言われて、みんな嬉しそうだ。

キキュールは、そんな霧乃たちに素朴な疑問をなげかけた。 


「所で、君たちはいったい……?

チヒロラと、とても似た雰囲気を感じるのだが……

どうして、私を助けるのだ?」


すると霧乃たちが、逆に不思議がる。

 

「なに、いってんの?」

「おしさまと、ずっと、友だちなんでしょ?」

「ずーっと、ともだちっ!」

「ずーっ、あっ」


チヒロラが、嬉しそうに説明してくれた。


「そうなんですっ、キキュールさんはお師さまと、ずっとお友達なんですっ。

だからみんなで、助けにきたんですーっ!」


キキュールはそこに、何か大変に引っかかるものを感じた。


「ずっと、友達? 

…………ずっと?

私とシノは、ずっと友達?」


キキュールは良く分からないが、再び自問の海へ沈み込みそうになった。

そしてなぜだか分からないが、自分の胸で眠るシノを睨みつけてしまった。


そんなキキュールを乗せて、石畳は街を走り抜ける。


「「「「 よいしょっ、よいしょっ 」」」」


緩やかなカーブの通りを抜けて、どうやらベイルフの中央道に入ったらしく、見晴らしの良いストレートの道が続く。


その先には、ベイルフ南端にある城壁が見えた。

暫く走って石畳の神輿は、踏みとどまる事になる。


なぜなら眼前に――


大量の荷車。

それを引く、馬に似た四足獣の死体。

所有者である、一般ダークエルフの死体。


それらが通りを、埋め尽くしていたからであった。








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