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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第2章 中核都市ベイルフ
112/683

112 恐怖と全能感は、アメとムチっぽい。


「あ、だめだこれ」


夕凪がつぶやき、みんなもそう思った。

いくら妖しの子に力があると言っても、石の神輿を担いで走るのだ。


瘴気の拡散スピードから、逃げ切ることは出来ないだろう。


しかし――


「あれ、ばばばーって、こない?」


夕凪は、燃えるカゲロウをみる。

最初に起こった、瘴気の大爆発。

それを確かに感じたものの、来るものがこないのだ。


瘴気は初めの勢いを、無くしていた。

動きが鈍くなり、何だか縮み始めたようにも見える。


「あれ、なんで?」


首を傾げる夕凪に、霧乃が叫ぶ。


「わかんないけど、今のうちだよ、うーなぎっ!」

「うんっ、みんな、いくぞーっ!」


「「「「 おーっ! 」」」」



    *



(ああ、駄目くるっ! あっ……)


自分の内側から溢れ出ようとする、黒と金の奔流。

楽市はその莫大な瘴気に、意識を押し流されそうになる。


しかし楽市は気絶しないように、歯を食いしばり踏ん張った。

瘴気の激流に、必死に逆らう。


(ここであたしが意識を失えば、瘴気がそのまま駄々洩れになっちゃうっ!

そうなったら、あっという間にシノさんまで届いちゃうっ!)


楽市は、二度の体験で知っていた。

祟り神の瘴気は、顕現するまではコントロールできなくても、その後は楽市のコントロール下に入ることを。


楽市が一瞬でも気を失えば、近距離にいるシノたちへ、瘴気がそのままとどいてしまう。


それは絶対に、避けなければいけない。

だから絶対に、気を失ってはいけない。

 

心象内で、楽市の手足が黒く染まっていく。

楽市は自分の意識を繋ぎ止めるため、ある者の名を呼んだ。


瘴気の根源に、沈んでいるであろう者の名を叫ぶ。


長篠(ながしの)兄さまっ、兄さまあっ!

お願いっ、あたしはシノさんを殺したくないっ!)

長篠兄さまああっ!)


楽市の視界が、黒く染まる。


 



角つきがしゃから、大量の瘴気が吹きだし始め、幽鬼は触腕を自切して空へ飛びのいた。


その直後、爆発するように角つきから、黒と金の入り混じる「国つ神」が顕現する。


その姿は、巨大なカゲロウのようである。

ハッキリとした形を成さずに、激しく燃え盛っていた。


幽鬼はそれを見て、更に高く浮かび上がる。

幽鬼の動きが、オーバードーズで鈍くなっていく。

それでも、無理に体を動かし上昇した。


瘴気はその特性として、まず地を走り広がっていくのだ。

もちろん空中にも伝播するが、地面から離れるほどその影響を受けなくなる。


それでも、至近距離での瘴気だ。

「並のがしゃ」ならば、とっくに粉となっているだろう。

しかし幽鬼は、崩壊することなく耐え抜いた。


巨大幽鬼は長期間、はかばーでの過剰摂取(オーバードーズ)を耐え抜き、そこでの「トリクミ」を戦い抜いた歴戦個体なのである。


幽鬼は、角つきから距離をとり様子をうかがう。

いったい何が、起きているのか?

幽鬼は、注意深く観察する。



    *  


 

黒く染まる世界の中で、荒い息遣いが聞こえる。


(はあっ、はあっ、はあっ……)


楽市は気を失わずに、なんとか顕現するまでの間を耐え抜いていた。

 

(たっ……耐えれたの? あたしっ!?)


楽市は、ほっとしかける気持ちを奮い起こす。

気を抜く暇はない。

すぐさま、自分の身に宿る瘴気へ命令する。


(しずまれっ、このこのこのーっ!)


楽市は、誰にともなく語りかける。


(分かってるってっ!

トリクミに勝つ。

そのために、あたしが呼んだって言うんでしょっ!


だけど今は駄目っ。

動かさない。

シノさんたちが逃げ切るまで、動くことは許さないからっ!)


楽市は、瘴気を出さないように強く念じた。

そのかいあって瘴気の動きは、急激に鈍くなっていく。


しかし流出量をしぼるだけで、完全に止める事はできなかった。

今の楽市には、これが精一杯だ。


 


 

そんな状況を注意深く見る幽鬼が、瘴気の中でうずくまる角つきを確認する。

あれだけの瘴気を出し、崩壊することなく形を保っている。


流石は、はかばーナンバーワンと言われるだけのことはある。

普通ならばここで、角つきには敵わぬと思うところだ。


しかし角つきから放出された瘴気は、オーバードーズで崩壊する恐怖と同時に、限界までチャージされた全能感を、幽鬼に与えるのだった。


幽鬼の、殺意は消えない。


観察する中で瘴気濃度が、急激に低下して行くのが分かった。

周りの圧迫が解けて、幽鬼は体が動かせるようになる。


しかし角つきは、うずくまったまま動かない。


少し思案した幽鬼は、四足獣アンデッドをけしかける事にした。


幽鬼は嫌がる四足獣にもう一度、触腕(リード)を巻き付ける――







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