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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第2章 中核都市ベイルフ
110/683

110 お師さまの、ドレインタッチくん


ベイルフに溜まる、黒いガスが退いていく。


すると夏の日差しが入り込み、暗闇に隠れていた細部があらわになった。


街の甚大な被害が、見てとれる。

特に北地区がひどかった。


城壁を破壊して入り込んだ、巨大アンデッドの争った跡が、瓦礫の山としてハッキリと刻まれているのだ。


南の建物には、ほとんど被害はない。

しかし巨大な幽鬼が、ベイルフにみっちりと落ちたため、息をしている者が一人も見当たらないのだった。


みんな通りで、

広場で、

家屋内で息絶えている。

幽鬼に触れた獣人は、一人として生きて

はいない。


その中を青白い炎が、突っ切っていく。


ボウッ ボボボッ


レンガ積みの壁をすり抜けるたびに、狐火の表面で微かな擦過音(さっかおん)がなる。

狐火たちはチヒロラの声のする方向へ、迷わず直線でつき進む。


死体だらけの通りをわたり、二階の寝室、一階のリビング、炊事場の中をすり抜けていった。


狐火たちは、南と北を分け隔てる壁のそばで、チヒロラを見つける。


瓦礫の散乱する石畳の通りで、シノとキキュールが、重なるように倒れていた。

そのそばで、チヒロラが泣いている。


「チロいたっ!」

「おーい、チロっ!」


霧乃と夕凪は、チヒロラの前で一回転して元の姿に戻った。


「「チロっ」」


「あ゛あ゛あ゛ー? あー?」


チヒロラは霧乃たちが声をかけても、ぼんやりとしたまま、ただ泣くばかりだ。

幽鬼の精神攻撃が、遠く離れていたチヒロラにまで及び、未だ解けていないのである。


「チロしっかりっ」

「なくな、チロっ」


霧乃と夕凪は励ましながら、チヒロラの頭に手をつっこむ。

二人で、チヒロラを怒鳴りつけた。


((チロっ、しっかりしろっ!))

 

「ぎゃあああああああああああーっ!」


直接頭に響かせたユニゾンは、そうとう刺激的だったらしい。

チヒロラは転がり回ったあと、脂汗を流しながら我に返った。


「う゛わっ、きりさん、うーなぎさんっ。

どうしてここにっ!?」


「はなすの、あとっ! おしさま、持って、にげるよっ」

「はやく、持て!」


そう言った霧乃と夕凪が、お師さまを持とうとして手が止まる。

お師さまのド派手ローブを着ていた者が、まったくの別人だったからだ。


「え、だれ?」

「だれこれ?」


「お師さまですっ」


「うそだーっ」

「ほねじゃないっ」


騒ぐ声でキキュールが、閉じていた目をうっすらと開ける。


「だ……れ……?」


少し意識が、混濁しているようだ。

シノもうっすらと目を開け、キキュールの胸に顔をうずめたままつぶやく。


「チヒロラ……」

「はいっ」


「……大丈夫だー」


霧乃と夕凪は、その少し抜けた返事に聞き覚えがあった。


「あっ、ねてる?」

「えっ、ホントにおしさま?」


「うー」


チヒロラはそのやり取りに、泣き笑いの顔になってしまう。

夕凪がうなった。


「ん゛ー、まあいいや。

きり、頭ふたつもって、うーなぎとチロは、足をもつ」

「うんっ」


お師さまに触れようとする二人を、チヒロラが慌てて止める。


「あー、だめなんですっ。

今持つと、お師さまが壊れちゃいますーっ!」


「ええっ」

「だめなの!?」

「だめなんですーっ」


霧乃が、足踏みしながら聞いた。


「チロっ、何かないの!? 

おしさま、いつも、こわれてんでしょ!?」


チヒロラは、手をわちゃわちゃして答えた。


「はいっ、壊れてます!」

「そんとき、どうしてんの!?」


「あっ、あーっ、そうでしたっ」


チヒロラは半べそになりながら、お師さまのフードへ手を入れる。


しかしフードの中をゴソゴソするばかりで、何も掴めなかった。

再びチヒロラの目から、大粒の涙がこぼれる。


「あー、だめなんです。

道具はみんな、お師さまが持っているんです。 

そしてお師さまのフードは、お師さましか使えないんですーっ」


「どうぐって、なに?」

「えっと、ぐすっ、ドレインタッチくんです」


「たっちくん!?」


霧乃は、意味がわからず困惑した。

チヒロラが、一生懸命に説明しようとする。


「え、えーと、ドレインタッチくんを、背中にいっぱい付けるんです。

するといっぱい吸ってくれて、壊れるのが止まるんです。ぐすっ」


「チロ、もってないの!?」


夕凪はチヒロラのフードに、手を突っ込んだ。

しかしどんなに探っても、フードの布地が手に当たるばかりで何も掴めない。


「ないんですーっ」

「あ、これだめかも」


「あ゛あ゛あ゛あ゛ー……」


夕凪の一言で、チヒロラが涙をポロポロとこぼした――








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