表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第2章 中核都市ベイルフ
107/683

107 シノの告白


「君は瘴気を、取り込み過ぎたんだよ……」

 

「シノ喋るなっ、ジッとしていろっ」

「あー? お師さまがー?」


「大丈夫、ジッとしているさ。

喋るには問題ない。

キキュール聞いてくれ……たのむ」


「たのむだとっ」


キキュールはその言い方が、気に食わなかった。

まるで最期みたいではないか。


――やめてくれ、やめてくれ


キキュールはそう願うが、シノは止めない。

チヒロラが、その横で涙を流し固まっている。


チヒロラは北の沢で触れたアンデッドが、ボロボロと泡のように崩れたのを思い出していた。


「あー? お師さまー? お師さまー?」


「キキュール……

北からの瘴気は、純粋な負の力ではないんだよ。

その中には、生命の力強さも含まれているんだ」


「シノ……」


キキュールはシノに話すのを止めさせたかったが、もしこれが本当に最期だったらと思うと、これ以上強く言うことが出来なかった。


吸う必要のない呼吸を整えて、シノの言葉に耳を傾ける。


「負の力と生命力……

折り合うはずのない二つが、共存している。

しかしそれが実際に、北の森で起きているんだ。

なぜなのか、私には分からない。

 

キキュール……

君はその力を、私との千里眼により、眼窩から大量に摂取し続けたんだ……」

 

「千里眼……だと?」


「ああ、そうだ……

その結果、君の中に“本物の情動”が発現した。

模倣した仮面ではない。

君の内側から、にじみ出る情動だ。


キキュール……

君は北の森の力により、内面が変化している。

半年前の君とは別個体と言えるほどの、劇的な変化を起こしているんだよ」


「私が別個体? ばかな……」


「そして情動を得た君は、今その意識で初めて世界を見ている」


「ばかなっ……では……ではお前もそうなのか!?」


「ああ、そうだ……

私も変化した意識で、世界を見続けている。

 

その初めて見る世界で、私は傍にいるものに情を感じるようになった。

これは鳥類に見られる、“すりこみ”に近いかもしれない。


私にとって、それがチヒロラだったんだ。

今ではアンデッドの私が、チヒロラを我が子のように育てている。


キキュール……

私にとってチヒロラが、すりこみ対象だったように、君にとってのそれは、この街の獣人だったのだろう。

それが今の、君の困惑の正体だ。

  

キキュール……

君はこの街の獣人に情を抱き、本当に大切だと思っているんだよ……」


「私が、この街の獣人をっ……」


「すまない……

私が北へ行くと言い出さず、千里眼通信をしていなければ、君がこんなに苦しむ事はなかっただろう。


そして私は、君の大切なものを守れなかった。

すまない……」


「シノっ」


「キキュール……

君の大切なものを守れなかったのに、頼めることでは無いかも知れないが、もし私に何かあったらチヒロラをたのむ。

育ててやってくれないか?」

 

「あー? お師さまー? あー?」


チヒロラは涙を流しながら、首を激しくイヤイヤし続けた。


「あーーーーーーっ」


「ばかを言うなっ、自分で育てろっ!

なぜ私へ、先に結界を張ったっ?

なぜそんなばかな事をっ!」


「キキュール……

私にとって、君もそうなんだ。

初めて見る世界で、私は君を千里眼で見ていたんだ。

私の傍にいてくれる、大切な人なんだ……」


「シノっ」






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ