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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第2章 中核都市ベイルフ
106/683

106 ベイルフの底に、溜まるもの。


闇が、落ちてきた。

空を覆おう巨大な幽鬼が、自身をガス状に変化させベイルフの底に溜まる――



    *

 


「う……ん……」


体が酷くだるい。

キキュールは、瞑っていた瞼を開く。

暗闇だ。

何も見えない。


「こ……れは……」


自分が横たわっていることを知り、起き上がろうとする。

しかし出来なかった。


体が鉛のように重く、上手く動かせないのだ。

そんなキキュールに、シノが声をかけた。


「気付いたようだね、キキュール。

今は無理に、動かさない方がいい。

君は再び、瘴気を強く浴びてしまっている」


「シ……ノ?」


シノの声がする。

すぐ目の前から聞こえるのだが、暗くて何も見えない。


夜目の効くアンデッドにとって、それは有り得ないことである。

ただの暗闇ではなかった。


「シノ……私は……いったい……」


頭が酷く重い。

だるい体に引きずられて、考えるのがおっくうだった。


「うん……どうやら私たちは、巨大なゴーストの中に、取り込まれてしまったらしい」

「ゴーストの……」


キキュールは気を失う直前に見た、落ちてくる闇を思い出す。


「あれがゴーストだというのか? まさか……」


キキュールの知っているゴーストは、ひょろひょろとした陽炎ていどの代物だ。

シノの困ったような声が、聞こえてくる。


「私にも、よく分からないんだ。

ただチヒロラが言うには、あの巨大スケルトンたちと同じく、はかばーにいたゴーストらしい」


「はかばー?」


「そうなんです、うにゅー。

はかばーから、ぴょんと来ちゃったみたいですー。

うにゅ」


暗闇の中で、チヒロラの声が聞こえた。

声からして横たわるキキュールの、すぐ傍に座っているらしい。


「チヒロラ?」

「はいー、ふふふ」


何かチヒロラの様子がおかしい。

喋り方が変だ。


「さっきから、この調子なのだよ。

何か精神系の魔法を、かけられているようだ」


「えー、チヒロラは、何にゅもされて無いですよー。

うふふ元気ですー。

うにゅー」


変な口調で、元気だと言われる方が不安になる。

何も見えないのが、じれったい。

キキュールは、チヒロラに頼んだ。


「チヒロラ、火を出せる? 周りを明るくして……」

「えー、またですかー。いいですよー、はーいっ」


チヒロラが指先に火を灯すと、周りの闇がまるで生物のように引いていった。

火を、嫌がっているようだ。


朱く照らされた中に、チヒロラがちょこんと座っている。


何も変わらないように見えるが、目がトロンとしていた。

キキュールが正面を見ると、シノの顔が目と鼻の先にある。


シノはキキュールに覆いかぶさる形で、両手を地面に付いていたのだ。

シノが獣人の顔で、困ったような表情をする。


「こんな態勢ですまないね。私もちょっと動けないのだよ」


「シノ、お前は……大丈夫なのか?」

「ああ、大丈夫だとも」


朱い光の中で、シノが微笑む。

そんなシノを見て酷い状況なのに、キキュールはホッとしてしまう。


「シノ……」


シノが傍にいるだけで、どこかホッとしてしまうのだ。


するとだるい体に引きずられて、ぼんやりとしていた、キキュールの思考が動き始める。

巨大スケルトンと、同レベルの幽鬼。


それが、落ちてきた――


キキュールの瞳が、激しく泳ぎだした。

唇が震えだす。


「シノ……ちょっと待ってくれ。

この状況は、ベイルフ全体に及んでいるのか!?」


キキュールは、目だけを動かし周りを見回す。

しかし暗闇が広がるばかりで、何も見えなかった。


「……おそらく」

「そんな……それじゃ、街のみんなはっ」


アンデッドのキキュールでさえ、全く動けなくてこの有様なのだ。


ならば衰弱した獣人たちは、どうなるのか?

キキュールの脳裏に、双子の幼子と母親の姿がうかんだ。


「シノそこをどいてくれっ。私は行かねばならないっ!」


キキュールは動かぬ体を、無理やり動かそうとする。


「キキュールよせ、無理をするなっ」

「うにゅー、キキュールさん、どうしたんですかー?」


「どけっ、シノっ!」


キキュールは、渾身のちからで体を揺さぶる。


「キキュールっ」

「うるさいっ」


揺れる体が、シノの右腕に当たる。

すると右腕が砕けて、シノがキキュールの胸元に倒れ込んできた。

シノのローブから、大量の砂がこぼれ出す。


「シノっ、お前っ!?」

「あー、お師さまー?」


「ふふ……突然、落ちてきたものだからね。

君の中に結界を張るだけで、手一杯だった……」


「お前っ!」

「あー? あー? お師さまー?」

 

チヒロラは表情がぼんやりしながらも、涙がこぼれ出した。


「チヒロラ……これぐらいの崩壊は、何度も経験ずみだよ。

だいじょうぶ……すぐ直るさ」

「えー? えー?」


「そうだ……キキュール……君は、聞きたがっていたね。

君の変化について。今、話して……」


「シノっ!」






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