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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第2章 中核都市ベイルフ
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105 お師さまとチヒロラの、カニポイ攻撃


「話せっ、今すぐ話せ、シノっ」


キキュールは、自分を抱くシノの胸を何度も叩いた。


「キキュール、暴れないでくれ。君を落としてしまう」


シノはキキュールを抱き、チヒロラを背にしがみ付かせて、飛行中なのである。


「うるさい、今すぐ話せっ。

お前のせいとは、どういう事だっ。

私がこの、“気になり” にどれだけ困惑しているか分かるか?

話せ、話せ、話せっ!」


「分かった、暴れるな話すから」


揉める二人に、チヒロラが声をかける。


「お師さま、あれっ!」


チヒロラの指差す地上に、多くの獣人が集まっていた。

皆、北地区と南地区をへだてる壁の前で、ぐったりとしている。


ベイルフを囲む城壁とは別に、ベイルフ内には、幾つか地区を切り分ける壁があるのだ。


地区を切り分ける壁に、地下へ通じる入口があるのだが、そこが崩れて瓦礫に埋まっている。


獣人たちは何とかそこまで辿り着いたものの、瓦礫を見て力尽き、うずくまっているのだった。


「ああっ、地下への入口がっ」


キキュールはそれを見て、悲痛な声をあげた。

そこには、あの双子と母親の姿も見える。


「お師さま、あのウニョウニョが、いっぱい来てますーっ」


チヒロラがシノの襟首をつかみ、身を乗り出して叫ぶ。


チヒロラの声で見れば、謎のアンデッドが様々な方向から、瓦礫の山をこえて進み、ゆっくりと獣人たちへ近付いていた。


ざっと見て、二〇体はいる。

建物の影で、見えないのもいるだろう。


「ああっ、あんな数を、どうすれば!?」


叫ぶキキュールに、シノが(ささや)く。


「大丈夫、私に任せてくれ」

「シノ?」


シノは獣人の顔をニヤリとさせて、チヒロラに指示を出す。


「チヒロラっ、炎を頼むっ」

「はい、お師さまっ!」


チヒロラは手のひらから前方へ、血のように朱い炎を出した。


「この、炎の色はっ!?」


キキュールが驚くと、シノが説明してくれた。


「チヒロラの炎は地獄の炎に近くてね、これを使うと魔法の過程を、色々すっ飛ばせるのだよ」


シノはキキュールを左手に抱き直し、右手で素早く魔法陣を描いた。

そしてチヒロラの炎を触媒として、火属性魔法を発動させる。


火焔縛鎖(チューンリルフレイズ)っ」


シノの右腕から、太い火焔の鎖が出現する。

その先が何十にも分かれて、夜の街へ伸びていった。

伸びた鎖が、芋虫のようなアンデッドに絡みつき縛りあげる。


シノは辺りを飛び回り、建物の陰で見えなかった個体も、次々に縛り上げていく。

その数は四十五体。

シノは右手の鎖を、ゆっくりと巻き上げていく。


「むふんっ」

  

キキュールがシノの手際を見て、信じられないと言った顔をする。


「シノ、お前……なんて魔力量を……」


火焔縛鎖(チューンリルフレイズ)は一本だけでも、かなり魔力を使う。


それを一気に四十五本など、並のエルダーリッチならば、とっくに魔力が空となり、気絶しているだろう。

シノはちょっとだけ、自慢げに話す。


「ふふふ、だてに北で瘴気をため込み続けた、訳では無いからな。

それにチヒロラのお陰で、魔力消費はかなり抑えられているのだよ」


巨大幽鬼のリードから生まれたアンデッドたちが、建物や瓦礫の間から引きずり出されて宙に浮いた。


吊り上げられた四十五体が、炎に身を焦がされて悶えている。

太い鎖の下でまとまった炎は、暗闇に浮く巨大な篝火(かがりび)のようだ。


「チヒロラ、仕上げを頼む」

「はい、お師さまっ」


チヒロラが身を乗り出して、シノの右手にぶら下がる鎖へ朱い炎を流し込む。

するとアンデッドを縛る鎖の温度が、一気に上がった。


縛られたまま、燃え尽きていくアンデッドたち。

チヒロラは沢であぶったカニポイを思い出し、目をキラキラとさせた。


「わーっ」


シノとチヒロラ。

二人の連携攻撃に、キキュールが目を見張る。

そんなキキュールの瞳に、離れた所で立ち昇る五つの火柱が映った。


「あれは、何!?」


キキュールが指差すと、シノとチヒロラもそちらを見た。


「ん、何だあれは?」


シノが首を傾げる後ろで、チヒロラがぴょんと跳ねる。

チヒロラは、その光の色に見覚えがあったのだ。


「あー、チヒロラ分かりましたっ! あの火の色はですねーっ」


チヒロラが二人に説明しようとした時、夜空が震えそのまま落ちてきた――






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