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闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第2章 中核都市ベイルフ
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101 朱儀の笑顔は、一点の曇りなく輝く


シノとキキュールが、見つめ合っている頃――


楽市たちは、がしゃに近付いていく。

しかし、がしゃ同士のトリクミに近付くほど、辺りに突風が吹き荒れ、空からは建物の瓦礫が雨のように降り注ぐのだった。


更にゴオンゴオンと、五月蠅(うるさ)いったらないのである。


たった今、角つきがしゃの左フックが空を切った。

突進しては、飛びのく攻撃を繰り返す四足獣アンデッドへ、まともに当てられないでいる。


空を切った軌道から突風がうまれ、辺りに荒れ狂う。

この突風が厄介だった。

瓦礫から瓦礫へと伝い、近づく楽市たちの邪魔をするのだ。


楽市のミニ小袖のすそと、霧乃たちのワンピースのすそを巻き上げるのだった。

みんなで慌てて、すそを押さえる。


押さえるのが遅れた夕凪は、豪快にめくれ上がって顔に張り付き、「まえが、みえないっ」と腹を立てていた。

楽市が、顔をしかめながら叫ぶ。


「何か、あたしの知ってるトリクミと全然違うんだけどっ。

のんびり、押し合いっこじゃないのっ!?」


「だから、きりが、ちがうって、言ったでしょーっ」

「どーすんだ、らくーちっ」

「う゛わーっ、らくーちーっ」

「ぶああああっ、らくーちっ」


みんな、大声で叫び合っている。

叫ばないと、声が聞こえないのだ。

そこへ更に、角つきが右アッパーを空振りした。


叩き付けてくる突風が、楽市たちの叫ぶ口の中に思い切り入り込んだ。

みんなの歯茎が見えて、頬がブルブルと膨らんでしまう。

夕凪が、頬を膨らましながら叫ぶ。



ほうだ(そうだ)らふーひ(らくーち)ひっほら(しっぽだ)

ひっほれ(しっぽで)やっすけ(やっつけ)ひゃえっ(ちゃえっ)


らめっ(駄目っ)ひっほすはっはら(尻尾使ったら)ひのはんら(シノさんや)まひのひほがひぬ(街の人が死ぬ)


突風が弱まり、楽市が荒い息を吐いて叫ぶ。


「それにあたし、まだ出し方が分からないものっ」

「えーっ、らくーち、しっぽないと、すごい、弱いのにっ」


夕凪のダイレクトな意見に、楽市が傷ついた。

楽市が言いかえす時、また角つきが空振りする。


ふぁっきりいふなーっ(はっきり言うなーっ)ひぐくくはろーっ(傷つくだろーっ)


とりあえず楽市たちは、瓦礫の山に隠れた。

そこで楽市が、力強く言うのである。


「でもまかせて、あたしには奥の手があるっ」

「なになにっ」


霧乃が、先をうながした。


「どっちかに、取り憑いて体を乗っ取る。

そして相手をぶん殴って、相手の体に分からせるのさっ」


「らくーち、あんなでっかいの、動かせんの!?」


怪訝な顔をする霧乃に、楽市が言う。


「だから、あんたたちも居るんでしょっ。

みんなで取り憑いて、みんなで動かすんだよっ」


「わっ、そうか。

らくーち、弱いけど、すごいっ」

「ふふふ、そうでしょう!」


霧乃の言葉も突き刺さるが、トータルで褒めているので楽市は良しとする。

他の三人も褒めてくれる。


「弱いのに、すごいっ」

「すごいっ! よわいっ!」

「よわい、ぶあああっ」


「ふふふ……ちゃんと褒めて」


霧乃が、もう一度確認してきた。

霧乃はいつも楽市の話を、ちゃんと聞こうとしてくれる優しい子なのだ。


「じゃあ、どっちかに、くっついて、ぶんなぐって、かつの?」

「うんそう、良いでしょ!」


「うんでも、らくーちじゃ、かてない」

「霧乃もはっきり、言うよなー」


楽市が膨れる横で、夕凪が真剣な顔をした。


「きり、どーする?」

「うん、うーなぎ、これも、かりだよ」

「そうだな」


楽市そっちのけで、霧乃と夕凪がまとめ始めた。

夕凪が言う。


「ぶんなぐるなら、あーぎだろっ」

「うん、あーぎが、くっついたら、動かす、やくね」


「やったっ!」


「あたしたちは、動かす、おてつだいと、まわりを見る」

「うん」

 

「まめも、いっしょに、見るんだよ。できる?」

「ぶああっ、できるーっ」


「らくーちは、みんなが、げんき出るやつ、いっぱい、だして」

「分かったっ」


悲しいかな楽市が霧乃へ、素直に返事を

する姿がしっくり来てしまう。


しかし楽市がいなければ、ここまで前向きに考えられないのも、また事実だった。

少し前までしょんぼりしていた目が、みんな生き生きとしている。


楽市は弱いが頼りになる。

これが霧乃たちの、共通した認識なのであった。

楽市が顎に指をあてる。


「よしそれじゃあ、どっちに取り憑くかだけど……」

「はいはいっ、はーいっ!」


朱儀が両手を上げて、ぴょんと飛んだ。


「あっち、あっちがいいーっ」


朱儀が元気よく指差したのは、角つきの方である。

楽市が、ちょっと不思議そうな顔をした。


「ふーん……三対一で獣型に憑いた方が、早く終わりそうだけど……

何かあるんだね。

朱儀ならではの、戦いの感ってやつかな?」


そう言われた朱儀が、ちょっとポカンとする。

しかし直ぐに、笑顔で答えた。


「うん? それ! うん? そう!」


朱儀の笑顔は、一点の曇りなく輝くのだった。







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