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転生者の「こころ」  作者: あかいの
9/13

ネタバレになるだろ?

  しばらくは、先生と私のくだらない会話にお付き合い頂きたい。といっても、真面目に取り扱ってもらう必要などはない。元の世界にしかない用語に一応注釈を入れたが、注釈を確認しながら熱心に読んでもらっても、本当にくだらなかった、とあきれられてしまうだけだと思われる。



「なんでジェジェ何ですか。全然きまってませんよ」

 私は心底帰ればよかったと思いながらそう言う。今私の顔は何の取り繕いもせずに、失望をあらわにしていることだろう。しかし、そんなことには気づいていない様子で男は

「君、なぜジェジェを知っているんだい?世代的に通じないと思ったのだけど」

 帰りたい気持ちはやまやまだったが、一応は会話を続ける。

「じゃあなんでやったんですか?」

「いやいや、なんとなくやりたくなってしまって」

「通じたからよかったものを…………。他の人にやったらただ引かれて終わりですよ」

 嘘。知っていても十分引いてる。

「ん?その発言は君は僕の発言を引いてないってことかな?」

「…………。そういえばなんで私がジェジェを知っているかでしたよね。私が高校生のときアニメやってたんですよ。そこからだんだん漫画にも手を出すようになったんですよね」

「アニメ?!あれアニメになったのか?!」

「…………ええ。私が転生する前だと5部までアニメ化してましたよ」

「5部が……アニメ……だと」

「……5部がお好きなんですか?」

「いや、5部ももちろん好きだが、一番すきなのは4部だ。それにしても僕が転生した後にアニメ化が実現するなんて。僕が転生する前は、3部の一部をOVA化するので精一杯だったのに」

「確かに連載からあんなに期間が空いてからのアニメ化も珍しいですよね」

「というか、あの人はいったいいつまで書き続けているんだ。君が転生する前は漫画の方はどのくらい進んでいたんだい?」

 ここでいうあの人とは、ジェジェの作者のことだろう。

「私が転生する前までは8部までやっていましたかね」

「8部!?」

「さらにそこから10年以上経ってますからね。今だと11部ぐらいやっているんじゃないんですかね」

「いやいや。さすがに10部ぐらいで完結させるんじゃ、いや、あの人のことだと死ぬまでやっているという可能性も・・・」

「まあ、流石に死ぬまでってことはないとは思いますけど・・・」

 私が転生する前、ジェジェの作者は不老不死なんじゃないかって都市伝説が流行したのをふと思い出す。まあ、本当にただの都市伝説だと思うし、不老不死だとして永遠に漫画を描いているなんて絶対にないと思うのだが。

「君、元の世界のものを取り寄せる魔法とか持ってないの?」

 いいことを思いつたとでも言わんばかり、男は唐突にそんなことを言い出す。

「そんな魔法あるわけないじゃないですか。そもそも私魔法使いじゃないですよ」

「なら魔法を使わなくてもいいから、とりあえずジェジェ出してよ」

「なんで難易度を余計に上げるんですか」

「とにかく、僕はジェジェが読みたいんだよ。ジェジェは僕の元の世界における未練なんだ。そもそもあの時、トラックが突っ込んできたのもジェジェの新刊を買いに行こうってときだったんだよ」

「あーー。意外とベタな方法でこっちに来たんですね」

 まあ、転生なんてマイナーなことにベタもなにもないとは思うが。転生と言えばトラックというのが元の世界のあるあるではあったと記憶している。私は違うけど。

「君、元の世界からこの世界に来るときに女神にあっただろ?」

 男は唐突に転生した際のことを聞いてきた。なぜそんなことを聞いてくるのだとは思いつつも特段隠すことでもないので、

「まあ、一応会ってますよ」

 と素直に答える。

「そのとき、どこの世界に転生するか選ばされただろ?」

「はい」

「僕はね女神に頼んだんだよ。次の世界はスタンドが出せる世界に送ってくださいって」

「……どんだけジェジェ好きなんですか」

 転生する世界を選ばせてあげているのだから、女神側からしてもそれなりの要望になら応える準備はしていたのだろうけど、流石にそこまで特殊な要望に応える準備はしていなかっただろうな。

「そしたら何と言われたと思う?該当する世界はございません、だってよ」

「それは残念でしたね。まあ当たり前とも思いますが」

「しかし、今思うとあのうさんくさい女神、多分よく調べもせずにそう言っていたような気がするな。顔にはやく転生して私の仕事終わらせろって言っているのがにじみ出ていたし。かなりの外れ女神だったんだろうな」

 まあ、そんな面倒な要求をしてくるような男への対応なんて早く終わらせたいと思うのが普通だろうと、内心ではその女神の方に共感する。

「そんないいかげんな女神だったんですか?ついてないですね」

 しかし、私も女なので、男が愚痴を吐いたときは適当に共感するという処世術をしっかり学んでいる。これは嘘ではなく方便なので問題はない。

「君の方はどうだったんだい?」

「私の方はカタログとか紹介動画とか色々見せてきて、丁寧すぎて逆にそれはそれでうざい感じでしたよ」

「えーー。何それ。すごくありがたいじゃん。ていうかそれをうざいって言うのかい?」

「まあ……、あの時はそう思ってたんですよ。今にして思うとありがたいことをしてもらっていたんだなと思うし、申し訳ないことしたなとも思ってますよ」

 あのときはどの世界に転生するか決められるような気分ではなく、ついつい親身になってくれた女神を邪険に扱い、「適当に選んどいてください」、と言って丸投げにしてしまったことを思い出す。もう少し慎重になっていれば今こうして元の世界に戻りたいだなんて思わず済んだかもしれないと今さら反省する。

「まあそんなことはどうでもいいんだ。」

「はあ……、」

「ジェジェが読めるというのなら、トラックにひかれたことも、外れの女神にあたってしまったことも、スタンドが出せないことも大して問題ではない。なんとかして……、そうだ。いっそ君が漫画を描いて再現するというのは」

「だからなんで余計難解な方法を提案してくるんですか。まだ魔法の方が現実的じゃないですか」

「くそ、ならどうすれば」

「あの、察するにようは内容が知りたいんですよね?自分が転生した後どのような展開を見せたか。完全覚えてるわけではもちろんないですけど、私が内容を説明するのではダメなんですか?」

「それだとただのネタバレになるだろ」

「転生した身の分際で贅沢言わないでください。まだ漫画でみることをあきらめてないんですか」

「もちろんアニメでも可だよ。まあ、そこまで図々しいことは言えないけどね」

「うん、そのセリフは図々しい頼みに重ねるものではないですね」

「そういえば、さっきの質問にまだ答えてなかったね。どちらの世界の方が好きか」

「え、今さらですか。今さら、しかも急にそこに戻ります?!」

「僕は断然元の世界の方が好きさ。なぜならそこにジェジェがあるから」

「違う。私が聴きたかったのはそんな解答じゃない!!」

 私の感情は失望を通り越して、呆れへと変貌していた。




注釈

ジェジェ:正式名「ジェジェの摩訶不思議な旅」。私が転生した時点で30年ぐらい続いており、同じタイトルだが、1部、2部など部ごとストーリーが大きく分かれている。

アニメ:簡単に言うと漫画の絵を動かしたもの。商業的に期待のできる人気漫画がなることが多い。

OVA:アニメの一種

トラック:大型四輪。または転生の際に用いられる道具


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