先生との出会い
辺りが夕焼け色に染まり始めて、いい加減そろそろ帰らなくてはと思い、重い腰を上げたその時であった。波の音に混じって、風流な笛の音が聞こえてきたのである。
音のする方向には男が一人。浴衣と言って伝わるかどうか不安だが、この世界における東方の島国の民族が着るような恰好で、篠笛という木材からなる横笛を吹いていた。その男と私の距離は100m程離れていただろうか。向こうは私の存在にまだ気づいていない様子だった。
私はもう一度座り直し、しばらくその音を聴いていくことにした。浴衣や篠笛なんてものがこちらの世界にもあったのかなどと思いつつ、私は男の奏でるメロディーに耳を傾ける。
ああ、懐かしい。篠笛なんて元の世界にいたころは全くと言っていいほど興味を示さなかのに、今はなぜこんなにも。
懐かしさの虜になり、しばらく聴き入っていると、私はあることに気が付いた。
それはこの懐かしさの正体であった。最初は篠笛の音からくると思われた懐かしさはそこだけから由来するものではなかったのだ。この懐かしさは篠笛独特の風流な音からだけでなく、男が奏でるメロディーからも来るものでもあったのだ。
私はそのメロディーを知っていた。それも16年以上前から。
16年以上前から知っているメロディー。つまり、それはこの世界にあるはずのないメロディーだ。
私は再び立ち上がり、その男のいる方向へ早歩きで駆け寄った。もはや懐かしさは驚愕へと変わり、驚愕は未知の存在への不安と恐怖へと変貌していた。
一体あの男は何者なのだ。
最初は風流に見えたその男が、だんだんと不気味に見えてきた。それはその男がこの世界に存在するはずのないメロディーを奏でていたということだけでなく、そのメロディー自体からも来る印象であった。
なぜそのメロディーを知っている?
なぜそんなメロディーを奏でている?
私はその男のことを不気味と思いつつも、しかし、その正体を知らずにはいられなかった。
十分に近づいたところで私は「あの」と声をかけた。
「どうかしたかい?」
男は篠笛を吹くのをやめ、こちらを向く。その声音は不気味なほど優しかったことを今でもよく覚えている。
「なぜ、ドナドナなのですか?」
これが私の先生との出会いだ。