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転生者の「こころ」  作者: あかいの
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ホームシック

 本名は打ち明けないなんて記してみたものの、先生は伝説と言って良いほどの勇者であって、私が本名を打ち明ける必要のないほど、世間にその名は轟いていた。しかし、彼の本名は知っていても実際に彼を本名で呼んでいた人など寡聞にして知らないので、この手記で本名を書く必要は本当にないかもしれない。

 世間にとって先生は尊敬や畏怖の対象であり、大衆には「勇者様」とか「英雄殿」などと呼ばれていた。先生以外にも勇者や英雄がいなかったわけではないのだが、そのような人には「勇者〇〇」と後ろに名前つけられるのが普通だろう。しかし、先生にはそれがなかった。これは先生が勇者の中の勇者であることを言外に示すもので、単に勇者ならそれすなわち先生を指す。それ程までに先生は偉大に思われていたということだ。極端な例だと、先生のことを神聖視するような人までも出てきたぐらいだ。

 しかし、やはり私にとって先生は先生だ。尊敬の念こそは持てど、一緒にいた時間が長いためなのか、どうも勇者だとか英雄だとか、そのような現実離れした存在にはどうしても見えないのだ。さらに言えば、先生との出会いにもその要因があるように思える。



 先生と私の出会いは、私がこの世界に転生し16年程経った頃だ。

 その日、私は一人で海に来ていた。

 海水浴シーズンは完全に終わっていて、海に行ってからも一人ぽつんと浜辺に座りこみ、波の先端が砂浜を行ったり来たりするのをひたすらに眺め、ただただ時間が流れるのを感じていた。

 この時期の私はホームシックになっていた。

 これはギルドのある城下町から、故郷である田舎の村に帰りたいという意味ではない。なんなら、この時の私は故郷の村には絶対帰りたくないと思っていたぐらいだ。

 ここでのホームシックとは、この世界から元の世界に帰りたいという意味だ。

 この世界に来て、16年とすっかりこの世界の住人の一人となっていた私であったが、いまさらになって元の世界が恋しくなってしまったのだ。

 そうおもう理由については後々詳しく書かせていただこうと思う。だがここであえて一言で述べておくとしたら、隣の芝が青かっただけのことだと思う。

 転生当初の私にとってこの世界は、まだ隣の芝だった。だから、転生したばかりのころはこの世界に何ら不満を持ったことはないし、むしろこんなに楽しい世界他にあるのかと思っていたぐらいだ。

 そして、16年の月日をかけて、隣の芝に引っ越して思うことは、やっぱり隣の芝は青いってことだった。

 それは元の世界の良さを再発見したなんて言い方をすれば少しはマシに聞こえるかもしれないが、もはや元の世界戻ることが不可能な状況下においては、ただのないものねだりに等しかった。

 元の世界の方がよかったなあ。そんな無体なことを思いながら、「帰りたい」とつぶやいてみる。当然、海辺には私一人しかいないわけだから、だれが返事をするでもなく、ただ波の音がザザーっと流れるだけだ。

 ああこの音は元の世界と同じだ。

 こんな感じに私はこの世界と元の世界の共通点を見つけては、元の世界のことを懐かしむ、そんなことに夢中になっていた。


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