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中編

 入学式で新入生代表挨拶のため、講堂の壇上に現れたのは、ゲームの攻略対象となるカルム王国第一王子だった。

 彼が柔らかな笑みを浮かべると、女子生徒から黄色い悲鳴が上がった。

 光に反射して輝くブロンドの髪、エメラルドグリーンの瞳、気品ある佇まい。かといって近づきがたいわけではなく、冗談も気軽に言える気さくなキャラクター。


 遠目に見ても確かにかっこいい。ゲームで一番人気だったのも頷ける。

 しかし彼は私を断罪する張本人。絶対に気を許してはいけない。

 生徒たちの歓声をよそに、しっかりと気を引き締める。


 ざわつく生徒たちの中、王子のことを静かに見つめる凛とした少女が目に入った。

 彼女こそゲームの主人公で悪役令嬢のルナ・ブラック。

 優れた魔法使いを数多く輩出してきた公爵家の一人娘だ。彼女の父親は現在宰相を務めており、王族や貴族からの信頼も厚い。

 本人も高い魔力を持ち、魔法の腕前も新入生とは思えないほど。第一王子の婚約者として、厳しい教育を受けてきたため、立ち振る舞いはどんなご令嬢よりも優雅だった。

 完璧すぎる、という理由ではじめは周囲から少し避けられているのだが、彼女の誠実で優しくて努力家なところが次第に皆に伝わり、愛されていくのだ。


 可愛い! 本物のルナちゃんだ! 転生して良かった!

 断罪のことを忘れそうになるほど、憧れの悪役令嬢はとてもとても素敵で、にやける口元を誤魔化すのに必死だった。


 彼女も転生者なのか確かめたいな。

 お友達になれたらもう天に召され――ると見せかけて召されないくらい嬉しいけど、そんなうまい話はないよね……。


 学校内では身分関係なく接することになっているので、私から話しかけても問題になることはないが、急に声をかけたら警戒されるかもしれない。

 クラスも違うのでちゃんと理由も考えておく必要がある。

 何よりうっかりイベントが始まったら恐ろしい。

 しばらく様子を見て、もし話す機会があればそれとなく聞いてみて――とこっそり計画を立てた。


 そうだ、今のうちに他の攻略対象も確認しておかないと……。


 来賓挨拶が始まり、生徒たちも少し気が緩み始める。

「今年は騎士団団長様のご令息もいらっしゃるし、とても華やかになりそうね」

「そうね。あっ、あの方じゃない?」

 先程王子に目を奪われていたご令嬢たちだが、今は他のクラスメイトについてコソコソと話しているようだ。


 今話題になってる人、攻略対象なのでは……!?


 カルム王国は魔法国家なのだが、有事の際に素早く動けるように騎士団も整備されているのだ。騎士団には魔法の有無に関わらず、武道や兵法に優れた人がたくさん在籍していると聞く。

 そんな騎士団の団長様は魔法剣士として隣国にまで名を轟かせている。国内外の災害復旧から他国同士のいざこざの仲裁まで、任されたら必ずやりとげるため、皆から本当に信頼されていた。

 彼の息子も、今年入学するようだ。ご令嬢の視線の先に、それらしい人物を発見する。


 甘さのある顔立ちだが、体つきはしっかりしている。色素の薄いグレーの髪は肩を少しこえる長さで、黒のリボンで後ろですっきりまとめられている。アメジストを思わせる深い紫の瞳は、まっすぐに壇上へと向かっていて、相手の話を一言も聞き漏らさないように、という気概が見えた気がした。ゲームの設定も誰にでも親切で真面目なキャラクターだったので、きっとその通りの人なのだと思った。


 私の身分を弁えない態度や不誠実なあり方を厳しく非難するのが彼である。こちらから接触しなくても見られている可能性はある。私も男爵令嬢、言葉遣いやマナーは絶対に疎かにできない。


 しばらくすると、ご令嬢たちの興味はまた別の人に移ったらしい。

「そういえば、今年は平民出身の人がいるのよね」

「ええ。入学試験の成績は歴代最高じゃないかって噂よ。奨学金制度用の試験だから、一般の生徒とは比べられませんけど……」

「一体どんな人なんでしょうね」


 噂の彼は、案外私のすぐ近くにいた。今まで気づかなかったのは、斜めに二人分くらい後方にいたからだ。大げさに振り返ることはできないので、ちらっと様子を見る感じで。

 漆黒の髪にアンバーの瞳がのぞく青年。ゲームで見たそのままの容姿。彼で間違いないだろう。

 まだ来賓挨拶中なので顔は前を向いているが、視線は講堂全体を見通しているようで、なんとなく話は聞き流しているような気がした。


 確か腹黒の設定があったな……。

 彼のゲームでの台詞やスチルなどを思い出す。主人公や攻略対象たちを謀ろうとした証拠を影で集め、私に突きつけてくるのが彼だ。絶対に関わりたくない。


 ふと、彼と目が合った。なにやらこちらをじっと見ている。

 私が慌てて視線を逸らすと、彼がうっすら笑みを浮かべたような気がした。


 怖い。怖すぎる。

 凝視したつもりはなかったのに、他にも彼を見てる人はいっぱいいるのに、勘弁してほしい!――と思ったが、もしかしたらこれがヒロイン補正というやつなのかもしれない。自分から動かなくても、環境が私を悪役にしてしまうことはありうる。

 改めて彼らと距離を置くことを誓う。


 ――これで主要人物の確認が終わった。

 攻略対象はざっくり、気さく王子とまじめ騎士と腹黒インテリといったところ。適当にまとめすぎか。


 それにしても乙女ゲームで攻略対象が三人ってちょっと少なくない?

 でも何度も遊んだけど、隠しキャラもいなかったし、確かに三人だったはず……。


 転生した悪役令嬢という珍しい設定を説明するのは大変だし、ゲームソフトの容量の関係で攻略対象の数を絞ったのかもしれない。

 何より気をつけるキャラは少ない方が楽だと思い、気にしないことにした。

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